【専門家コラム】介護両立支援の最大のポイントは、制度の周知とお互い様の雰囲気づくり

公開日:2024年5月7日

 

介護両立支援の最大のポイントは、制度の周知とお互い様の雰囲気づくり


<社会保険労務士法人 小林マネジメントサービス 代表社員 小林 富佐子/PSR会員>

皆さますでにご存知のとおり、日本は現在すでに超高齢社会であり、人口は減少し続け、高齢者を支える働き手の割合がどんどん減ってきています。

今の考え方や働き方を社会全体で変えようとしなければ、介護のために離職を余儀なくされる人が増えていきます。

介護離職してしまうと、経済的に追い詰められ、その方の生活も破綻してしまします。

また、高齢者を支える働き手の割合がさらに減っていくと、社会は破綻する可能性があるとも言われています。そうならないようにするためには、

介護する必要が生じたとしても、離職せずに、同じ職場で働き続けられる工夫をしていく必要があります。

 

「介護両立支援制度を知らずに離職」の現状が明らかに

経済産業省の資料によると、2030(令和12)年には家族介護者の数、働きながら家族の介護をするビジネスケアラーの数、そして現在約10万人いる介護離職者がピークに達し、その後減少する予測になっています。ただしこの予測は、国を挙げて介護離職を減らす取り組みを実施することが前提の予測です。

【ビジネスケアラーに関する将来推計】

出典:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」

企業に求められる仕事と介護の両立支援の取り組みについて、厚生労働省が、2015(平成27)年に「企業における仕事と介護の両立支援実践マニュアル~介護離職を予防するための仕事と介護の両立支援対応モデル」を出しています。

それによれば、①従業員の仕事と介護の両立に関する実態把握し、②制度設計・見直しを行って、③介護に直面する前の従業員への支援や、④介護に直面した従業員への支援をしましょう。それらの支援が十分行えるように⑤働き方改革を行いましょう、となっています。

しかし、令和3年度に三菱UFJリサーチ&コンサルティングが行った「仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書」によれば、仕事を辞める前、利用したかった制度として「介護休業制度」が約6割、「介護休暇制度」が約4割となっています。

そして、どのような職場の取組みがあれば仕事を続けられたと思うかという質問には「仕事と介護の両立支援制度に関する個別の周知」という答えが5割強ありました。

つまり、利用できる制度があることを知らずに離職した人が少なからずいたのです。

 

具体的な準備作業を進めていくことで、他人ごとから自分ごとへ

なぜ、仕事と介護の両立支援制度を知らなかった方がこんなにもいたのでしょうか。

私見ですが、実際に介護に直面するまで「他人ごと」という感覚しかなく、説明されていても関心がなかったので記憶に残っていない、という方が多数いるのではないでしょうか。

そして、介護は突然やってきます。いざ自分が介護しなければならなくなったとき、普通それはうれしい出来事ではありませんから、気が動転して使える制度を調べることもせず、「仕事を続けるのは無理だ」と思い込んで離職に至る、ということがあるのではないでしょうか。

先にご紹介した厚労省のマニュアルの①「従業員の仕事と介護の両立に関する実態把握」は、会社が従業員の実態を把握できるという効果だけでなく、本当は介護することになるかもしれないけれど、ほとんど意識に上らず何の準備も考えていなかった従業員に、そのことを気づかせる効果も期待できると考えています。

マニュアルの③は「介護に直面する前の従業員への支援」です。ここがとても重要で、しっかり準備ができているかどうかで、いざ介護が始まったときに慌てずに済むかどうかが決まります。

内容はマニュアルを読んでいただければいいので詳しく書きませんが、使える制度を理解したり、家族と役割分担を決めるための話し合いを行ったり、親の経済状況を把握しておいたりという具体的な準備作業を進めていくことで、心の準備もできていく、ということが大きなポイントだと思います。

そして、マニュアル④は「介護に直面した従業員への支援」です。ここで私がとても大切だと考えていることは、「介護のための制度を利用しやすい社内の雰囲気の醸成」です。

会社として、どれだけ有効な制度を用意していたとしても、それを利用しにくい雰囲気だと何にもなりません。

介護は多くの人が経験する可能性の高い問題ですから、「お互い様」と考えて協力し合っていただきたいと思います。

 

介護される側の思いも大切にしたい

最後に、あまり問題として取り上げられていない視点ですが、実際に自分が手をかけて介護をすることの意味と、介護をしてもらわなければならなくなった方の気持ちもぜひ考慮に入れていただけたらと思います。

私は親を見送った後、もう少し時間を割いて何かしてあげれば良かったと思いました。

後悔というほどの強い思いではありませんでしたが、残念に思ったことを覚えています。

また、もし私自身が要介護になったとしたら、子どもたちに迷惑を掛けたくない気持ちはもちろんありますが、無理のない範囲でいいから、子どもにも介護して欲しいと思う気持ちがあります。

そのような思いも大切にして、仕事を続けながら介護ができて、最後に介護する側もされる側もお互いがありがとうと思えたら、ステキだと思います。


参考資料

 

プロフィール

小林 富佐子

社会保険労務士法人 小林マネジメントサービス 代表社員
特定社会保険労務士 行政書士 産業カウンセラー PHP認定ビジネスコーチ 
ハラスメント防止コンサルタント 
一般社団法人日本顧問介護士協会認定「介護まるごとアドバイザー」
東京都社会福祉審議会委員 目黒区男女平等共同参画審議会委員 
社会福祉法人目黒区社会福祉事業団評議員

大学卒業後、社長付秘書として勤務。平成13年、行政書士、社会保険労務士として独立開業。平成16年産業カウンセラー資格を取得し、社団法人産業カウンセラー協会のメンタルヘルス講師として活躍。企業の管理職を対象としたメンタルヘルス研修のほか、各種団体にてハラスメント防止研修・コミュニケーション研修の講師としても活躍している。トータルライフ人間学に根ざした人間関係の在り方を織り込んだ研修を得意としている。

 

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