厚生年金・健康保険の適用拡大等に伴い必要となる企業での対応

公開日:2016年8月9日

  平成28年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」では、「最大のチャレンジは働き方改革である」として、多様な働き方が可能となるよう企業に積極的な取組を求めている内容も含まれています。

 少子高齢化に伴い、労働力人口が減少し、今後ますます採用が困難となることが危惧されています。女性、高齢者、障がい者、外国人、育児や介護をしている方、がん等の治療をしている方でも働きたい(働き続けたい)と希望を持っている方々が仕事と個人の事情を両立していける環境を整えていかなければ、企業の存続に欠かせない人材の確保ができないという状況も予想されます。

 両立支援は、女性や子育て世代の問題だけではなく、治療を続けながら働く方や高齢者、障がい者、また、40代以降の企業の中では経験や技術を持った大きな責任を担う世代で介護のために離職を余儀なくされる可能性のある方々への対応も急務となっています。平成29年1月には、育児介護休業法が改正され、介護休業の要件が緩和される等の法改正も予定されています。

 両立支援のため在宅勤務、短時間制社員、短時間勤務等の勤務体系が多様化していく中、平成28年10月1日より、厚生年金(健康保険)の短時間労働者への適用拡大という企業の実務では大きな法改正があります。

 具体的に、どのような手続きが必要となるのか、整理しておきましょう。

1.短時間労働者に対する厚生年金・健康保険の適用拡大制度

 現行制度での厚生年金・健康保険の被保険者となる条件は、その事業所の通常の労働者(正社員)の所定労働時間の4分の3以上である者とされています。今回の改正により、以下の条件を満たす方が「短時間労働者」として適用拡大の対象者となります。

① 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
② 同一の事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること
③ 報酬の月額が8万8千円以上であること
④ 学生でないこと
⑤ 特定適用事業所に使用されていること

 

2.適用拡大に伴い必要となる手続き

 特定適用事業所とは、事業主が同一の適用事業所で、厚生年金保険の被保険者数の合計が1年で6か月以上、500人を超えることが見込まれる各適用事業所のことです。法人事業所であれば、法人番号が同じである事業所の合計で、500人を超えるか否かを判断します。地方公共団体の場合、法人番号が同じすべての適用事業所を単位として判断します。国の機関(立法・司法・行政)は、すべてを合わせて一つの単位として特定適用事業所となります。

 新たに短時間労働者として適用になる方については、被保険者資格取得の手続きが必要となります。対象となる方が国民健康保険に加入されていた場合は、お住まいの市区町村に対して、国民健康保険の資格喪失の届出を対象者ご自身で行う必要がありますので、その旨もお伝えいただくとよいでしょう。

 特定適用事業所に該当しない500人以下の企業でも、健康保険の被扶養者になっている方が特定適用事業所に勤務していて今回の改正により、ご自身が被保険者となる場合には、被扶養者でなくなるため「健康保険被扶養者(異動)届」を提出するという手続きが必要となります。

 被扶養者が国民年金3号となる配偶者の場合には、国民年金3号ではなくなりますが、特定適用事業所で厚生年金加入の手続きをすることで同時に種別変更されるため、年金保険についての手続きは特に必要ありません。自社の被扶養者で該当者がいるかどうかを確認しましょう。

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 施行日から特定適用事業所に該当する可能性がある事業所には、年金機構から「特定適用事業所に該当する可能性のあるお知らせ」、あるいは、「該当する旨のお知らせ」が平成28年8月~9月に送付されてくることになっています。該当が確定した事業所には、10月頃に「特定適用事業所該当通知書」が送付されます。新たに被保険者資格を取得する短時間労働者がいる場合には、「被保険者資格取得届」の提出ができるよう準備しておきましょう。

3.被扶養者認定の同居要件も一部変更に

 その他、平成28年10月には、健康保険の被扶養者の認定要件も変更されます。

 現行は、被保険者の兄姉については、被保険者と同居でなければ被扶養者とは認められていませんが、施行日後は、別居の兄姉も被扶養者として認められることとなります。

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 改正に向けて、被扶養者に該当するかどうかを確認しなければならないため、社内での案内をするための書類等を準備しておくと手続きがスムーズに進められます。

 従業員さんへの案内資料を用意しましたので、ダウンロードし、自社用にアレンジしてご活用いただけます。

 今後も、「働き方・休み方」に関連する法改正が来年に向けて予定されています。就業規則の改定が必要となる改正もありますので、最新情報を収集し、自社での対応が必要となるか否かを見直していきましょう。

※こちらのダウンロードは会員限定です。
>>平成28年10月に向けて社内通知資料(PowerPoint)

※このコラムは、平成28年7月22日現在までに行政発表されている情報に基づいています。

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