ハラスメント対策はすべての企業に実施が義務付けられています
職場のパワハラやセクハラ等をはじめとするさまざまなハラスメントは、働く方々の人格や個人の尊厳を傷つける許されない行為であり、企業にとっても職場秩序を乱したり、業務への支障が生じるなど、社会的にも悪影響を与えかねない大きな問題です。
そのため、現在、職場におけるパワハラ対策、セクハラ対策、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策はすべての事業主に実施が義務付けられており、各企業において多かれ少なかれ取り組みがされていることと思います。
令和2年に厚生労働省が実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」でも、ハラスメントに関する雇用管理上の措置として、約8割の企業が「ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化と周知・啓発」「相談窓口の設置と周知」を実施していると回答しています。
しかしながら、同調査の労働者等の回答では、「過去3年以内にパワハラを受けたことがある」人が31.4%、「セクハラ」は10.2%、「過去5年間に妊娠・出産・育児休業等ハラスメントを受けたことがある」人が26.3%、「過去5年間の妊娠に至る前に勤務先で妊娠・出産等に関する否定的な言動(いわゆるプレマタハラ)を経験した」人は17.1%。令和4年度の都道府県労働局に寄せられる相談でも、「いじめ・嫌がらせ」に関する相談が約7万件で引き続き最多となっており、依然として職場のハラスメントは多く発生している状況です。
では、どうすればハラスメントを予防することができるのでしょうか。
制度や相談窓口が形骸化していませんか?
制度を規定・周知したり、相談窓口を設置したとしても、それらが形骸化していれば、ハラスメントをなくすことはできません。
ハラスメント防止に対する会社の方針と姿勢を見せること、研修等で管理職・従業員にハラスメントの正しい知識を繰り返し伝えること、アンケート等で定期的に実態を把握しておくことなど、日頃の周知・啓蒙やハラスメントが発生してしまった場合にいかに適切に対応していくかが重要になります。
そこで本特集では、実効性のあるハラスメント防止策を行っていくために知っておきたい専門家の知恵や取り組みの参考になる情報、社内の周知・教育等にそのまま使えるツール等をご紹介します。
ハラスメント予防・解決の取り組みは、職場の風通しが良くなったり、管理職の意識の変化により職場環境が良い方向に変わるきっかけにもなります。ぜひ御社の対策にご活用ください。
データ出典:
参考コラム:
ハラスメント防止の社内啓発のポイント<会員限定動画>
講師:ソフィアステージ社労士事務所 代表 福西綾美
ハラスメント対策として、社内に相談窓口を設置し、被害に遭った方が速やかに相談できる体制を整備していると思います。しかしながら事後対応の流れができていても、未然に防止するための取り組みは十分にできているでしょうか。ハラスメント防止のための社内啓発活動について、取り組みのポイントを解説いただきました。
企業が講じなければならない雇用管理上の措置とは?
職場におけるパワハラ、セクハラおよび妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントを防止するために、事業主が雇用管理上講ずべき措置として、主に、以下の4点が厚生労働大臣の指針に定められています。
事業主が雇用管理上講ずべき措置
- 事業主の方針の明確化およびその周知・啓発
- 相談(苦情含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 職場におけるハラスメントへの事後の迅速かつ適切な対応
- 併せて講ずべき措置(プライバシー保護、不利益取り扱いの禁止等)
※このほか、職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについては、その原因や背景となる要因を解消するための措置が含まれます。
※さらに実施が「望ましい」とされている取り組みもあります。
実務対応のポイント①ハラスメントの起きにくい組織づくり
ハラスメント防止対策の具体的な取り組みとしては、主に以下の7つが挙げられます。
1.トップのメッセージ
ハラスメント防止は全従業員で取り組むべき会社の課題であることを明確に発信します。
2.社内のルールを明確化する
ルールを明確化し、就業規則等に盛り込みます。罰則規定の適用条件、処分内容、相談者の不利益取り扱いの禁止も定めます。ルールは従業員にとってわかりやすく、できるだけ具体的な内容にするのがポイントです。
3.社内アンケートで実態を把握
アンケートでの実態把握は、対象者が偏らないように、またより正確な実態把握や回収率向上のため、匿名での実施が効果的です。
4.管理職向けの研修・一般社員向けの研修
予防対策で最も一般的で効果が大きいと考えられる方法が、教育のための研修の実施です。可能な限り全員が受講し、かつ低規定に実施することが重要です。
社内で講師を用意できない場合は、社会保険労務士等の専門家に講師を依頼することも検討します。
5.社内での周知・啓蒙
会社の方針、ルールや相談窓口などについて、積極的に周知します。周知方法としては、「トップ自らが取り組み方針を周知する」「人事部門や組織長による具体的取り組み内容の説明会の実施」「相談窓口の案内」「ポスターの掲示」、そのほか評価面接、個人面談等での上司から伝えるようにすることで、会社の取り組みの中での周知であることを示すことができます。
6.相談窓口の設置、相談対応
相談しやすくするために、相談者の秘密が守られることや不利益な取り扱いを受けないこと、相談窓口でどのような対応をするかを明確にしておきます。
7.再発の防止
解決にあたって、行為者を処分するだけでは、最悪の場合、同じことが再び繰り返されるという可能性が残りますので、再発防止策は必須です。
取り組み内容の検証・見直しを定期的に行い、より効果的な再発防止策の策定、実施に取り組みます。具体的には、「行為者に対する再発防止研修の実施」「事例発生時のメッセージ発信」「事例の活用」「管理職登用の条件にする」「職場内のコミュニケーションの強化や長時間労働対策を行うなど職場環境の改善のための取る組みを行う」などが挙げられます。
出典:あかるい職場応援団「社内でハラスメント発生!人事担当者の方Q&A」をもとに一部編集
あかるい職場応援団のハラスメント防止ポスター
厚生労働省「あかるい職場応援団」サイトから、職場のハラスメントの予防・解決に取り組みを呼びかける周知・広報資料(ポスター、リーフレット、パンフレット)がダウンロードできます。
ポスターは、社内のハラスメント相談窓口を記載できる通年バージョン、12月の職場のハラスメント撲滅月間バージョンの2パターンあり、各所に掲示するなどして、啓発活動にご活用いただけます。
ダウンロードはこちら≫≫≫ https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/jinji/download/
参考コラム
- 【専門家の知恵】措置義務だけではない。ハラスメント防止の大切な手掛かり。 厚労省指針「事業主が行うことが望ましい取組」の概要とポイントを解説
- 【専門家の知恵】従業員のパワハラ相談を放置すると損害賠償される?!パワハラ防止法を再チェックしましょう!
【書式類+解説DVD】自社で対応するハラスメント防止のための社内体制づくりフォーマット集
ハラスメント防止対策に必要な「規程・ルールづくり」「苦情・相談受け付け体制の整備」「啓発・教育活動」を自社で構築できる動画解説付きのフォーマット集です。
ハラスメント対策の基礎知識から防止体制までを解説した動画と体制づくりを実践していく上で必要な各種書式のひな形等(規程・ガイドラインのひな形、相談窓口受付フロー・対応マニュアルひな形等、従業員参加でつくるハラスメント防止リーフレット関連ツール)をセットしています。
詳細はこちら≫≫≫ https://www.kaiketsu-j.com/product_detail/?id=946
実務対応のポイント②ハラスメントの正しい知識と対応を繰り返し教育する
ハラスメントを未然に防ぐためにまず大切なのは、ハラスメントに関する正しい知識の習得です。ハラスメントの定義、どんな言葉や行為で問題となるのか、ハラスメント行為者に対する厳正な対処の方針や規定内容、管理職に対してはパワハラにならないための適切な指導のポイントなど、可能な限り全員が受講し、かつ定期的に実施します。中途入社の従業員にも入社時に研修や説明を行うなど、もれなく全員が受講できるようにします。なお、管理職と一般従業員に分けた階層別研修の実施が効果的です。
参考コラム
- 【専門家の知恵】言葉によるパワハラと心の健康
- 【専門家の知恵】ハラスメントを早期に防止する! 上司が、部下の「サイン」を見逃さないためのポイントを解説
- 【専門家の知恵】法律理解だけに留まらない「ハラスメント防止研修」を企画する上でのポイントは?
【研修DVD】パワハラ防止法対策セミナーDVD
2020年6月(中小企業は2022年4月)に施行されたパワハラ防止法の内容を踏まえ、企業として備えておくべき対応策についてわかりやすく解説しているDVDです。トラブルを生じさせない、トラブルに発展させないための社内体制づくりのために。ぜひ、管理職研修の教材としてご活用ください。
詳細はこちら≫≫≫ https://www.kaiketsu-j.com/product_detail/?id=947
【研修DVD】ハラスメント防止のための管理職研修/ハラスメント防止のための職員研修
ハラスメント研修を10年以上行っている経験豊富な講師による研修DVDです。管理職向けDVDと一般従業員向けDVDとがあり、それぞれDVDの中で使用しているパワーポイントと同じレジュメのほか、管理職または従業員に配れる小冊子30冊がついています。ハラスメント防止の研修になる、充実の内容になっています。
ハラスメント防止のための管理職研修の詳細はこちら
≫≫≫ https://www.kaiketsu-j.com/product_detail/?id=931
ハラスメント防止のための職員研修の詳細はこちら
≫≫≫ https://www.kaiketsu-j.com/product_detail/?id=932
※ハラスメント防止のための管理職研修DVDとハラスメント防止のための職員研修DVDは別商品です。
【小冊子】『ストップ! 職場のハラスメント』
本冊子には、セクシャル・ハラスメント、パワー・ハラスメント、モラルハラスメント、マタニティーハラスメントの定義から、タイプ別の実例、過去の裁判例、ハラスメントのない職場作りのヒントなど、わかりやすく掲載しています。
特に、ハラスメントになるケースがイラスト付きで解説しているページは、従業員に説明しやすいと人気の内容です。ハラスメント防止研修や啓発にご活用ください。
詳細はこちら≫≫≫ https://www.kaiketsu-j.com/product_detail/?id=933
【研修ツール】ワークハラスメント防止カード
ワークハラスメントの多くは、職場環境が悪化する中で発生します。
このカードには、50種類の「明らかなハラスメント行為」「ハラスメントになりうる可能性がある行為」「ハラスメントを引き起こす原因となる行為」が記載されています。カードを使い、それぞれの行為が職場に発生していないか、また発生している原因、そして改善策は何か?をグループワークで話し合い、最終的には自社の職場のハラスメント防止策10か条を作成することで、職場全体で職場環境を改善していくことを目指します。
詳細はこちら≫≫≫ https://www.kaiketsu-j.com/training_tool_detail/?id=6483
実務対応のポイント③相談窓口担当者の教育と人事労務部門との連携
ハラスメント相談窓口とは、実質的な対応が可能な窓口でなければいけません。そのためには、従業員に対して窓口を繰り返し周知し、実際に利用しやすい体制を整備しておくことが必要です。
また、相談窓口担当者が相談の内容や状況に応じて適切に対応できるよう、相談窓口の担当者と人事労務部門が連携を図ることができる仕組みづくり、相談を受ける際の留意点等を記載したマニュアルの作成、相談窓口担当者研修等を実施しましょう。
相談窓口は、被害を受けた従業員が委縮して相談を躊躇する例があることを踏まえ、相談者の心身の状況やハラスメントの言動が行われた際の受け止め等、その認識にも配慮しながら、ハラスメントが現実に生じている場合だけでなく、発生の恐れがある場合やハラスメントに該当するか否か微妙な場合であっても広く相談に対応するようにします。
なお、相談にはハラスメントの言動を直接受けた従業員だけでなく、それを把握した周囲の従業員からの相談も含まれます。
参考コラム
- 【専門家の知恵】ハラスメント相談窓口に相談があったとき適切に対応できますか?対応の流れを解説
- 【専門家の知恵】厚労省調査で過去3年間でパワハラ被害経験者は約3割に。相談体制を含めた具体的な防止対策を確認しよう
- 【専門家の知恵】ハラスメントのヒアリングの際に、企業側が対象者に配慮するべきポイントや注意点、効果的な実施方法について
- 【専門家の知恵】ハラスメントの加害者や第三者のヒアリング。効果的に進めるための注意点や実施方法
【研修DVD】窓口担当者のためのハラスメント相談窓口対応研修DVD
ハラスメント窓口担当者の必須研修としてそのままご活用いただけるDVDです。相談窓口を設置していない、また設置していたとしても機能していない場合、法的措置を果たしていないだけでなく、被害者の相談内容が社内に広まったり、上司に相談したことで不利益に取り扱われたりといったセカンドハラスメントの発生や労働局などの公的機関や労働審判に訴えられる、いきなり訴訟問題に発展するなど、事態をさらに悪化させるリスクがあります。
本DVDでは、社内のハラスメント相談窓口担当者に知ってもらいたい、相談窓口の重要性と役割、相談対応の流れ、担当者が相談を受けたときに配慮すべきポイントなどについて解説しています。
詳細はこちら≫≫≫ https://www.kaiketsu-j.com/product_detail/?id=1039
実務対応のポイント④ハラスメント発生後の迅速かつ適切な対応と再発防止
ハラスメント事案が発生してしまったら、迅速かつ正確に事実関係を確認することが重要です。対応が遅れると、被害が継続・拡大する恐れがあります。あらかじめ相談窓口と個別事案に対応する部署との連携や対応の手順等を明確に定めておきます。
職場におけるハラスメントが生じた事実が確認できた場合は、速やかに被害者および行為者に対する配慮の措置を適正に行います。
また、あらためてハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講じますが、取り組みの一例として、「会社の方針の周知徹底」「発生原因の分析と必要な防止策」「相談体制の状況を再検討」「ハラスメントに関する意識啓発のための研修・講習の実施」「管理職向けに部下指導法などの研修実施」などがあります。なお、調査の結果、ハラスメントが生じた事実が確認できなかった場合においても同様の措置を講じます。
【研修DVD】パワハラ発生!そのとき人事担当者はどう対応する?DVD
実際にパワハラが発生してまったときにどう対処すればトラブルが避けられるか、また被害が最小限に済ませるには初期対応をどのようにしたらよいのかといった事後対応から、再発防止のために必要な体制整備までを、労働分野に強い弁護士が実際に相談を受けた事例や判例を交えて解説しています。
詳細はこちら≫≫≫ https://www.kaiketsu-j.com/product_detail/?id=928
ハラスメント防止に関するお役立ち情報サイト
厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」
厚生労働省「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です︕」(PDF)