【専門家の知恵】職場による労災が増加中!自社でできる転倒防止策を産業医が解説

公開日:2023年12月14日

<合同会社DB-SeeD 代表社員 神田橋宏治>

2023年4月から実行に移される第14次の労働災害防止計画は、新たに「転倒による労働災害」への対策を加え、重点的に取り扱っているのが特徴です。
今なぜ転倒が問題になっているのか、その背景を説明するとともに、予防についてもお話しいたします。

 

転倒による労災が増加している

皆さんは労働災害防止計画をご存じですか。まさに日本が高度経済成長期に入ろうとする昭和30年代。当時労働災害が多発しており、年間に6,000人近い死者を含め70万の労働者が労災の犠牲になり、しかもその数は年々増加の傾向にありました。

そこで昭和33年(1958年)、岸伸介内閣の下で(第一次)労働災害防止5か年計画が立てられました。労働災害防止計画は個々の企業を規制するものではなく、これに従って新たな政策を打ち立てるためのものです。この取り組みは功を奏し、労災の死傷者の増加は減少傾向に転じました。

労働災害防止計画は5年おきに見直されて新たな政策を生み、平成8年(1996年)にはついに労働災害による死者が1,000人を切るに至りました。そして2023年4月、第14次の労働災害防止計画が実行に移されます。

労働に関して近年課題となっているのは、高年齢労働者対策、外国人労働者対策、メンタルヘルス対策です。新しい第14次労働災害防止計画では、これらに加え、新たに「転倒による労働災害」を挙げ、しかも重点的に取り扱っていることが特徴です。転倒は労働災害の約四分の一を占め、年々増加する傾向にあります。しかも、転倒によるケガの約6割が休業1か月以上のケガです。

この転倒による労働災害の増加は高年齢労働者の増加と密接な関係があります。

高齢者は筋力や反射神経が衰えている上、特に女性は骨粗しょう症などにより骨折しやすい傾向があります。このため、若いころに比べて転倒しやすく、また転んだ際に大きなけがにつながりやすいのです。

また、高齢になると重量物を運ぶなどといった作業は難しいのでサービス業などの第3次産業に就く傾向があり、就職先も中小事業者が多くなります。第3次産業と中小事業者は安全衛生対策の取り組みが遅れている職域です。

安全衛生対策が十分でない職場環境で高齢者が働くことが、転倒事故の増加につながっています。実際、働いている人数に対する転倒して労働災害となった人数の割合は、40代から50代を境に急増し、特に60代の女性は20代女性の約16倍の発生率となっていることが示されています。

 

転倒防止策は整理整頓・清掃・運動

事業者には、従業員を安全に働かせる安全配慮義務があります。転倒防止対策は比較的安価な方法で取り組むことができますので、まずは職場の転倒予防に取り組みしょう。

転倒災害は、滑り、つまずき、踏み外しの3つに大きく分けられます。その防止策は、①整理整頓、②清掃、③運動です。

①②について転倒が発生しやすい場所である、段差、床、階段を例に挙げて対策を考えてみましょう。

段差

段差はつまずきの原因になります。何と言っても段差のあるところを物理的に塞いでしまうことが一番ですが、難しい場合は、赤や黄色でラインをひいたり、「段差注意」の警告を床面に書くなどで、転倒防止に対する意識を強める方法もあります。

機械のケーブルなどが通路に出ないよう、また通路に物を置かないよう、整理整頓を心がけることが大切です。また、調理場のような油を使う作業は床が滑りやすくなり要注意です。オイルパンを設置して床に直接油が落ちることを防ぐ、オイルパンは定期的に清掃する、といった対策が考えられます。

階段

ステップの端に黄色い滑り止めテープを貼ることで、滑ることを防ぐとともに、階段の位置をわかりやすくし踏み外しを防ぐことができます。また、階段を下る人が残り何段かわかるように床面などに数字を書くのも効果的です。手すりが片方しかないタイプの階段の場合、降りる人が手すり側を利用するようルールを徹底する方法もあります。

③の運動は、従業員にスクワット体操や体感トレーニングを推奨し、足腰の衰えを予防するという方法などです。年齢層に応じた運動強度にし、無理のない長続きする内容にすることがポイントです。

このほか、正しい靴選びも転倒防止の大切なポイントです。

つま先が高く滑りにくい靴を選びましょう。詳しくは上述のサイトに載っていますのでご参照ください。また、歩きスマホなどの「ながら歩き」も転倒の原因です。現に慎みましょう。

日ごろのヒヤリハット報告などを利用して、社内のどこに転倒しやすい場所があるかを把握し、以上のような対策を考えます。転倒しやすい場所の地図を作成し、みんなの目に届きやすいよう掲示するなども有効です。

 

参考資料

 

プロフィール

合同会社DB-SeeD(https://industrial.doctor.tokyo.jp/)代表社員
労働衛生コンサルタント、日本医師会認定産業医、建築物環境衛生管理技術者
神田橋宏治

1999年東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院助教などを経て、2011年4月から医療法人社団仁泉会としま昭和病院内科医として勤務。2015年に産業医事業を中心業務とする合同会社DB-SeeDを設立。2018年11月~現在 日本産業衛生学会代議員

 

 

 

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