【専門家の知恵】新ルールに対応できていますか? SDSとオフィスにおける化学物質の自律的管理

公開日:2024年2月21日

 

新ルールに対応できていますか?

SDSとオフィスにおける化学物質の自律的管理


<合同会社DB-SeeD 代表社員 神田橋宏治>

 

化学物質への対応に関しては、労働者の健康を守るため、様々な法令によりルール化されています。見過ごされがちですが、通常のオフィスでも実はこのルールの対象となる物質を扱っています。今回はオフィスにおける化学物質の自律的管理についてお話しします。

 

SDSとは?

おそらく多くの職場では初めて聞く言葉だと思います。

SDSとは安全データシートSafety Data Sheetの略で、有害な化学物質による労働者の健康障害を防ぐために、それらを入手するときに必ず添付される説明書きのことです。

さらに特に危険な化学物質については、特定化学物質障害予防規則や有機溶剤中毒予防規則によって、設備や健康診断等について細かくルール化されています。


「うちはデスクワークだけの通常のオフィスだから化学物質なんて関係ない」とお思いかもしれません。

しかし実は業務用のコピー機トナーや業務用石鹸などにはSDSが本来添付されているのです(主に家庭用に販売されている製品にはついていません)。

そしてSDSが添付された物質については、労働者が健康障害を起こすリスクを評価する義務が会社にあります。これを「リスクアセスメント」と言います。

石鹸で健康障害を起こすことなどはまず考えにくいですが、例えば汚れ落としのために少量の業務用有機溶剤を買い入れている事業場などは結構あります。

衛生担当者は、自分のオフィスがどのような物質を使用しているか一度チェックしておくべきでしょう。

 

法令で大きく変わった化学物質の自律的管理

さて、この化学物質による健康障害を防ぐためのルールが2023年4月から大きく変わりました(令和4年5月31日厚生労働省令第91号他)。

今までは行政側が物質ごとに細かなルールを作っていたのを、将来はなるべく各事業場の取り組みに任せようというものです。これを化学物質の自律的管理と呼んでいます。

新たなルールで、主に三次産業のオフィスで重要なのは次の点です。

1.厚労省はSDS対象物質(=リスクアセスメント対象物)をこれから次々増やしていく。

2.事業場の業種・規模に関わらず、各事業場に化学物質管理者を置く義務が生じる。

専門的講習などを受ける義務はありませんが、リスクアセスメント対象物を製造する事業場用の14時間の講習を受けておくとベターでしょう。化学物質管理者の業務はSDSの把握、リスクアセスメントの実施、各種記録の管理などです。

3.ある物質のリスクアセスメントを行ったら、この結果を保管する義務がある。

今まで危険性が知られている物質において新たな危険が発見されたときには、SDS変更のお知らせが仕入れ先から届きます。そのような時などには再度リスクアセスメントを行う必要があります。このようにある物質についてリスクアセスメントしてから再度アセスメントを行う時までが、結果の保管期間となります。

4.何らかの化学物質を取り扱う職場で、1年以内に同一種類のがんが発生したことを把握したときは、それがその化学物質と関連あるかどうか医師の意見を聞かなければならない。

聞いたら記録に残しておくといいでしょう。

5.衛生委員会が開かれる事業場(つまり50人以上の労働者がいる事業場)では、化学物質による健康障害を防ぐための事項を議事に含めなければならない。

 

詳しくは下記厚生労働省のサイトの「概要」をお読みください。

化学物質による労働災害防止のための新たな規制について
~労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第91号(令和4年5月31日公布))等の内容~

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000099121_00005.html

 

労働者の健康と共に会社を訴訟リスクから守ろう

2023年の規制変更は中小の工場などでの化学物質による労働者の健康障害の予防を目的としたものです。

そのきっかけの一つとなったのが2011年に発覚した胆管癌事件です(これは、ある印刷会社において5年あまりで17名が胆管癌という珍しいがんに罹患したというものです。使用していた当時安全性が不明であった化学物質が原因と特定され、大きな労災訴訟となりました)。

従って労基署はまず初めに小さな工場等を中心にこの規制が守られているかチェックしていくでしょう。そののち、三次産業のオフィスなどの順守も確認することになると思います。

ですから、オフィスは化学物質とは無縁、と決めつけずに対応できる体制を整えておくことをお勧めします。

確率こそ低いですが、もし起きたら一番ダメージが大きいのは、「何か新たな化学物質を採用した後に2人に同種のがん、例えば乳がんのようなよくあるがんが発生した。偶然だろうと思って放置していたら数年後にその化学物質に発がん性があることがわかった。しかもその時にはさらに2人ほど新たな発がん者が見つかった」といった事態でしょう。

この場合、最初の段階で4の手続きをとって産業医などの医師に「現在の科学的知見等から考えると、がんとその物質とに関連がある可能性は低いと思われる」という意見をもらって記録に残していればトラブルになる可能性は低いと思われます。

この手続きを怠っていた場合、労災訴訟で敗訴する可能性は否定できず、会社が大きければ大きいほどその被るダメージは大きいと思われます。

 

 

プロフィール

神田橋宏治
合同会社DB-SeeD(https://industrial.doctor.tokyo.jp/)代表社員
 
労働衛生コンサルタント、日本医師会認定産業医、建築物環境衛生管理技術者
1999年東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院助教などを経て、2011年4月から医療法人社団仁泉会としま昭和病院内科医として勤務。2015年に産業医事業を中心業務とする合同会社DB-SeeDを設立。2018年11月~現在 日本産業衛生学会代議員

 

 

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