【専門家の知恵】企業における治療と仕事の両立支援について

公開日:2022年9月8日

企業における治療と仕事の両立支援について

<三谷社会保険労務士事務所 三谷 文夫/PSR会員> 

 

 近年、医療の進歩によって、治療しながら仕事を続けられる状況になっています。しかし、職場の理解や支援体制が不十分なことによって、疾病を抱える労働者が働き続けたいのに離職に至るケースもあります。人材不足が深刻な会社では、貴重な人材を失うことになるでしょう。厚生労働省作成の「治療と仕事の両立支援ガイドライン」を活用し、経営トップを中心に、職場における両立支援への取組みをできる範囲で推進していくことが求められています。 

 

治療と仕事の両立についての社会的背景

  近年、医療が進歩し、がんのようにかつては不治の病とされていた疾病においても生存率が向上し、長く付き合う病気に変化しつつあります。治療についても、長期の入院ではなく、外来での通院治療が増えています。

 こうした状況によって、病気になっても治療をしながら仕事を続けることができる可能性が高まり、労働者が病気になったからといってすぐに離職しなければならないという状況ではなくなっています。

 しかし、職場の理解や会社の支援体制が整っていない場合、疾病や障害を抱える労働者の中には、離職に至ってしまう場合もみられます。 

 

両立支援に取り組むことの効果

 労働安全衛生法では、会社による労働者の健康確保に関する規定が定められています。例えば、健康診断を実施することや、医師の意見を聞いた上で就業上の措置(就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等)の実施をする等です。

 このような法令を遵守するとともに、治療と仕事の両立支援を積極的に行っている会社では、労働者の安心感の向上による人材の定着やモチベーションの向上、多様な人材の活用による組織や事業の活性化という効果が得られます。

 少子高齢化が進む中、新規採用もままならない人材不足に悩む会社は、既存社員の高齢化も心配されるところです。高齢になってくると疾病リスクが高くなるのは当然です。そのため、疾病を抱え治療をしながら働く労働者が今後ますます増えてくることを見据え、治療と仕事の両立ができる職場づくりを行うことは大切になってくるでしょう。 

 

両立支援の内容 

(1)時間単位の年次有給休暇
 労働者が治療と仕事を両立する上で課題となることの一つに、通院や療養のための時間を確保することが挙げられます。時間単位で年次有給休暇が取得できると治療との両立がしやすくなります。


(2)傷病休暇
 傷病休暇は、会社が自主的に設定できる治療等のために有給(無給)で取得できる休暇のことです。年次有給休暇は時効が2年なので、消滅する年次有給休暇を積み立てて、傷病休暇として利用している会社も あります。


(3)在宅勤務制度
 在宅勤務を導入することで、心身に負担のかかる通勤がなくなります。


(4)時差出勤、短時間勤務制度
 時差出勤によって朝夕の通勤ラッシュを避けることができます。また、短時間勤務制度によって、療養中や療養後の勤務負担を減らすことができます。


(5)業務内容の転換
 病気・怪我の内容によっては、業務内容を転換することも必要です。例えば、身体的に負荷がかかる外回りの営業から、内勤に転換する等です。 

 

両立支援を行う上でのポイント 

(1)経営トップのやる気を示す
 治療と仕事の両立支援に限りませんが、会社として何かに取り組む場合には、経営トップのやる気が必要です。
 私の経験上、治療と仕事の場面では、社長も「それは大変だ。会社としても支援していこう」と心情的に初めは動くことが多いです。しかし、実際に何か施策を行う場面になると、時間的・金銭的コストから徐々に後ろ向きになることも少なくありません。
 そのため、前述した取組み等を行うに当たっては、経営トップが「我が社では治療と仕事の両立支援を行う」と宣言して下さい。それによって、職場内でも両立支援に対する意識が高まります。人事労務担当者は、経営トップを巻き込むことを意識するようにしましょう。


(2)傷病手当金の説明を忘れずに
 傷病手当金は、私傷病によって会社を休まざるを得なくなった際、健康保険から支給される手当金です。がん手術のために入院する、メンタル不調のため長期休養する等、労働者の休業中の生活補償が目的です。
 休業中の生活資金が不安で、治療に専念できない従業員もいるかもしれません。そのため、従業員が相談に来た場合には、傷病手当金の説明を忘れないようにしましょう。


(3)ガイドラインを活用する
 厚生労働省は「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を作成しています。
 病気の治療は、医療機関や主治医が行います。そのため、企業が両立支援を進めるにあたっては、医療機関や主治医との連携が大切になってきます。
 ガイドラインには、主治医との情報共有のための様式も紹介されており、両立支援全体の留意事項もまとめられていますので、大いに活用しましょう。

 

 

プロフィール

写真三谷文夫
社会保険労務士・産業カウンセラー 三谷 文夫
三谷社会保険労務士事務所 所長

大学卒業後、旅館や書店等で接客や営業の仕事に従事。前職の製造業では、総務担当者として化学工場での労務管理を担う。2013年に社労士事務所開業。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重視したコンサルティングと、自身の総務経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚い。就業規則の作成、人事評価制度の構築が得意。商工会議所、自治体、PTA等にて研修や講演多数。大学の非常勤講師としても労働法の講義を担当する。趣味は、喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。

 

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