【専門家の知恵】健康経営のポイントは、健康という目に見えないものをデータ化すること

公開日:2024年1月16日

 

健康経営のポイントは、健康という目に見えないものをデータ化すること


<三谷社会保険労務士事務所 所長 三谷 文夫/PSR会員>

人的資本経営が注目される中、人的資本経営と同様に人材をコストではなく、価値を生み出す源泉として捉える健康経営も注目されています。そういう意味では健康経営も人的資本経営の一種ということになるでしょう。

また、労働分野では「働き方改革」が行われています。健康経営に取り組む企業は、その類似性と違いを理解して取り組みを推進していくことで、従業員を巻き込んだ真の健康経営に繋がります。

 

人的資本経営と健康経営

人的資本経営という言葉が経済界・労働界では賑わっています。様々な切り口で人的資本経営を語ることはできると思うのですが、私は、人材をコストではなく資本と捉えて、企業は経営戦略として人に投資をすることで人材の価値を高め、もって企業の業績向上につなげる経営手法のことであると理解しています。

この、人をコストではなく資本と捉える考え方は、経済産業省が推進する健康経営の中でも謳われています。

そこで、今回は、健康経営に焦点を当て、働き方改革にはない概念であったり、健康経営を推進する上でのポイントを解説します。

健康経営とは「健康」を経営戦略のひとつにすること

 健康経営とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。経済産業省によると、「企業理念に基づき、従業員等への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されます。」と示されています。

この健康経営の定義の中にある「経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」という点は、まさに、経営の中に人事戦略を取り入れて経営にあたることを意味しています。

今までの経営概念では人材をコストと考えていたため、人を人件費として把握し消費するモノとしての評価しかしていなかったものを、人は価値を創造する源泉である、という視点に切り替えるのです。

そして、健康経営では、人の中でも「健康」という側面から、どこにどう投資を行えば、人がより価値を創造してくれるのか人事戦略を練っていくことになるのです。

 

健康経営と働き方改革の違い

健康経営は経済産業省が主導していますが、一方で厚生労働省では、働き方改革のかけ声のもと労働生産性の向上を図るべく、労務管理の観点から法整備等が進められ、次々に実行されています。例えば、時間外労働の上限規制、副業・兼業ガイドラインの発行、外国人雇用、女性や高年齢者等の雇用、同一労働同一賃金への対応です。

働き方改革の目的も、行きつく先は労働生産性の向上による企業価値の向上にあります。つまり、健康経営も働き方改革も目的は一緒なのです。

加えて、目的への手段も似ています。例えば、経済産業省が創設した健康経営優良法人認定制度における認定要件を見ると、過重労働対策やメンタルヘルス対策、ワークライフバランスの推進など、働き方改革で進められている内容と重なるところが多いのです。

ただ、働き方改革にはない健康経営に特徴な概念として、プレゼンティズム、アブセンティズムという考え方があります。ここが健康経営の特徴といえます。

 

プレゼンティズム、アブセンティズムとは

プレゼンティズムとは、出勤しているものの体調が優れず生産性が低下している状態のことをいいます。例えば、慢性的な肩こりや頭痛、花粉症等のアレルギー症、生活習慣病などです。花粉症の方は、花粉の舞う時期になると仕事の効率が落ちてしまう経験があるのではないでしょうか。

アブセンティズムとは、なんらかの病気によって会社を休む状態のことをいいます。風邪をひいて会社を欠勤するような場合です。

この2つの状態は、どちらも体調不良による労働生産性の損失に繋がりますが、多くの研究によると、プレゼンティズムによる労働損失の方が多いことが示されています。

つまり、企業としては、従業員のプレゼンティズムの状態をできるだけ解消する施策を実行していくことが生産性の向上に繋がるのです。

健康経営においては、このプレゼンティズムやアブセンティズムという概念を取り入れ、どれくらいの労働損失があるのかを数値化し、それを経営課題として人事戦略に落とし込んでいくことが重要だと考えます。

 

ポイントは健康という目に見えないものをデータ化して管理すること

健康経営で重要なことは、さきほどのプレゼンティズムやアブセンティズムのように、健康という目に見えないものを数値化・データ化することです。経営戦略であるため、売上や利益率などと同じように、経営上の目標数値を設定し、PDCAを回していくことが求められます。健康経営の担当者は、定量化できるデータを集計し分析することが必要になるのです。

数値化・データ化して行う実際の取組みとしては、例えば、「歩数計アプリを導入する」、「健康診断結果を紙ではなく、データで管理する」ということがあります。今では、健康関連企業が様々なサービスを提供しており、健康をデータ化するツールは今後もますます充実してくるでしょう。

健康経営を推進していく企業であれば、データ化できるもので経営上の指標を作成し、それを人事戦略に取り入れて、実行と改善を繰り返しながら実質的に意味のある取り組みを行っていくことが望まれます。それが従業員にも納得感を与えることになり、従業員を巻き込んだ真の健康経営に繋がるのです。

 

 

プロフィール

社会保険労務士・産業カウンセラー 三谷 文夫
三谷社会保険労務士事務所 所長 

大学卒業後、旅館や書店等で接客や営業の仕事に従事。前職の製造業では、総務担当者として化学工場での労務管理を担う。2013年に社労士事務所開業。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重視したコンサルティングと、自身の総務経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚い。就業規則の作成、人事評価制度の構築が得意。商工会議所、自治体、PTA等にて研修や講演多数。大学の非常勤講師としても労働法の講義を担当する。趣味は、喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。

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