【専門家の知恵】最近頻繁に見聞きするようになった「勤務間インターバル」。なぜ今必要なのかを知ろう

公開日:2023年8月19日

<いろどり社会保険労務士事務所 代表 内川 真彩美/PSR会員>

2019年に導入の努力義務化がされてから早4年。ここ数年厚生労働省が公表するガイドラインなどにも「勤務間インターバル」という言葉が頻繁に出てくるようになりました。国は制度の認知度向上と導入企業数増加のために明確な数値目標を立てている上、2021年には労災の認定基準でも、勤務間インターバルの短さを負荷要因として考慮することが決定されました。この「勤務間インターバル」とは何なのか、そして、なぜ今必要なのかを知っておきましょう。

睡眠不足は日中のパフォーマンス低下をもたらす

 睡眠と日中のパフォーマンスには、大きな関係があると言われています。アメリカのペンシルバニア大学などの研究チームの実験結果では、6時間睡眠が2週間続くと、2日間徹夜したときと同程度までパフォーマンスが落ちることが発表されました。この結果だけを見ると、いくら1日の労働時間を削減したとしても、次の勤務開始時間までに6時間を超える睡眠がとれていなければ、日中のパフォーマンスは低くなるということがわかります。さらに、睡眠不足は疲労の蓄積にも繋がり、1日の睡眠時間が6時間になると脳・心臓疾患が起こりやすくなるという医学的な研究結果も出ています。
 睡眠時間の確保は、一見企業とは無関係のようにも思えますが、実は、日々の業務にも大きな影響を及ぼしているのです。


勤務間インターバルは国が導入を促進している制度

 睡眠時間の確保や労働者の心身の健康の確保のために国も推奨している制度の1つが「勤務間インターバル」で、勤務と勤務の間に一定以上の休息時間を設けましょう、というものです。例えば、インターバル時間を11時間と定めていれば、22時に退勤した労働者は、原則翌日9時以降でないと勤務を開始できない、とイメージしていただくとよいでしょう。
 EU(欧州連合)では、すべての労働者に対して、最低11時間の勤務間インターバルを導入することを義務化しています。日本でも2019年から勤務間インターバル制度導入が努力義務化されており、2025年までに勤務間インターバルの導入企業割合を15%以上にするという明確な数値目標も公表されています。
 また、2021年9月には、労災における「脳・心臓疾患の認定基準」が見直され、労働時間以外で労働者に負荷がかかる要因として「勤務間インターバルの短さ」が追加されたことも、押さえておきたい点です。
 最近ではテレワークの拡大に伴い、仕事とプライベートの区別がつきにくくなったと感じる労働者も増えています。また、フレックスタイム制を導入し勤務開始終了時刻を労働者に委ねている企業では、生活が不規則になっている労働者もいると耳にします。このような問題の解消にも、勤務間に明確な休息時間を設けることは有用です。
 また、「健康経営」などの観点から睡眠時間の重要性に着目し、良質な睡眠をとるための勉強会の開催や、福利厚生サービスなどを取り入れる企業も増えてきています。勤務間のインターバルを設けたところで、当然、その時間を睡眠に充てることを強制はできません。そのため、企業としてのメッセージや有用な情報を積極的に発信していくことも重要です。

※ 健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

労働者の満足度向上や人材定着にも繋がる

 勤務間インターバル制度の導入は、労働者の健康確保だけでなく、人材定着にも繋がります。株式会社ワーク・ライフバランスの調査では、勤務間インターバル制度を導入した場合、年次有給休暇の取得率向上や基本給、賞与アップなどの施策と比べて、従業員満足度向上の割合や離職率の低下の成果が大きいという結果が出ています。労働者の満足度が高く離職率の低い企業は、当然、採用応募者の目にも魅力的に映ることが予測されます。厚生労働省の調査によれば、勤務間インターバル制度の導入済企業はまだ1割未満です。先手をとって制度を導入し、より働きやすい企業であることをアピールするメリットは大きいと考えられます。

導入のためにまずは自社の現在の勤怠データの確認を

 導入は大変そうと感じる企業も多いかもしれませんが、11時間のインターバルをとっても、1日の所定労働時間が8時間の企業であれば最大で5時間の時間外労働が可能です。また、国の調査によれば、既に6割以上の企業で「労働者のほとんど全員」あるいは「全員」が終業時刻から始業時刻までの間隔が11時間以上空いているそうです。自社の勤怠データを取ってみると、意外と導入しやすい制度だと判明するかもしれません。まずは労働者の現在の勤務状況を把握してみましょう。いきなり全社で導入せず、導入しやすそうな部門から始めるのでも問題ありません。
 前述の通りテレワークとの相性もさることながら、労働時間削減にも一定の効果をもたらす制度です。2023年3月末に、中小企業に対しての法定労働時間60時間超えの割増賃金引き上げの猶予措置が終了したため、労働時間削減を今年の目標とする企業もあることでしょう。
 この機会に、勤務間インターバル制度について考えてみませんか。

 

プロフィール

いろどり社会保険労務士事務所(https://www.irodori-sr.com/)代表 

特定社会保険労務士 内川 真彩美

成蹊大学法学部卒業。大学在学中は、外国人やパートタイマーの労働問題を研究し、卒業以降も、誰もが生き生きと働ける仕組みへの関心を持ち続ける。大学卒業後は約8年半、IT企業にてシステムエンジニアとしてシステム開発に従事。その中で、「自分らしく働くこと」について改めて深く考えさせられ、「働き方」のプロである社会保険労務士を目指し、今に至る。前職での経験を活かし、フレックスタイム制やテレワークといった多様な働き方のための制度設計はもちろん、誰もが個性を発揮できるような組織作りにも積極的に取り組んでいる。

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