これまでアルバイトやパートタイムの従業員だけを雇っていたが、はじめて「正社員」を採用する――。そのとき、「何から始めればいいの?」というテーマでお話しします。
はじめて正社員を雇用するときに必要な手続きと準備について確認していきましょう。
記事一覧はこちら>>>はじめての人事労務 ~初任者のための実務講座~
①賃金や労働時間に関するルール整備
正社員を迎えるにあたっては、次のような社内ルールの整備が必要になります。
就業規則(常時10人以上は必須)
10人未満の会社でも、たとえば試用期間、休職制度の有無や期間、慶弔休暇の日数、懲戒処分や解雇についてなど、あらかじめ就業規則で取り決めておくと、実際にそうした場面が起こった際に慌てず対応できます。
ルールを文書として明確にしておくことで、従業員への説明や運用もスムーズになり、トラブル防止にも役立ちます。
賃金規程(基本給や手当、残業代の計算方法)
36協定届
時間外労働や休日出勤をさせる場合は、労使間で36協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出る必要あります。この協定がないまま残業を命じた場合、労働基準法違反となりますので注意が必要です。
②労働条件等を決める
- 労働時間(何時から何時まで働く?)
- 働き方は?(一般的に9時~18時、10時~19時など もしくはフレックスタイム制など)
- 休日(週休2日? 土日祝? 年間休日カレンダーを作る?)
- 基本給、手当、賞与、退職金の有無
- 残業や深夜勤務の有無と、割増賃金の扱い
- 試用期間の有無と期間
- 交通費支給の有無
- 給与の支払い・締日(給与計算を自社で行う場合給与計算ソフト導入の検討)
いろいろな労働時間管理(みなし労働時間・フレックスタイム・裁量労働制・高度プロフェッショナル)
休日と休暇の違い
「残業」とは?残業時間や割増の考え方
「働き方」の約束ごと 雇用契約書づくり
③入社時の手続きや必要な書類について確認
④有給休暇の付与ルールの確認
フルタイム勤務の方には、入社半年後に10日の年次有給休暇を付与する義務があります。法律では最低でも「年5日は確実に取得させること」が義務付けられています。
そのためにも、勤怠管理システムや有給管理簿を整え、管理職にもルールを周知しておく必要があります。
⑤雇用契約書を作成し締結
労働条件が定まったら、次は「雇用契約書」の締結です。
契約書には、給与や労働時間、休日、勤務地などの条件を明記し、労働者と会社の間で合意しておく必要があります。契約内容に誤解や食い違いがあると、後々トラブルに発展する可能性もあるため、必ず交わしましょう。
⑥保険加入手続き
もし会社ではじめて労働保険や社会保険加入となる場合は、最初に、適用届などの提出をを行った上で、個別に加入手続きをとる必要があります。
⑦給与計算・振込体制の確認
勤怠管理の方法と集計体制の整備
出退勤の記録方法(タイムカード、IC打刻、アプリなど)や、残業・有給休暇などの集計ルール準備
残業代の計算式や支給方法の設定
割増賃金(残業・深夜・休日労働など)の計算ルールの整備し、給与計算に反映できるようにします。
社会保険料の計算と控除の確認
健康保険・厚生年金・雇用保険などの保険料率に基づいた控除計算が必要です。月額変更や賞与支払い時の手続きも把握しておきましょう。
給与振込口座の確認と振込手配の体制づくり
従業員の銀行口座情報を確認し、給与支払いスケジュールとあわせて、振込手配の流れも明確にしておきましょう。
必要に応じて、給与計算ソフトの導入や社労士との連携を検討するとよいでしょう。
⑧相談先の確保
人を雇用する上で、制度や書類、法令に関してなど、不安や判断に迷うことが多く出てくるものです。そんなときに頼りになるのが、社会保険労務士(社労士)などの専門家です。
「どこまでが義務で、どこが任意?」「採用面接でこのようなことを聞いてもよい?」「このケースで社会保険料はどうなる?」「前職では有給が入社と同時に付与されたと言われたが?」など、アドバイスを受けられます。
顧問契約をしておくと、継続的に安心して相談ができるでしょう。
日々の業務でわからないことがあったときに、すぐ聞ける環境をつくっておくことが、結果的にトラブルの予防になります。
この連載や「かいけつ人事労務」の情報、社労士からのアドバイスなどを参考にしながら、少しずつ整えていきましょう。
「まずは基本から」「まずは1人から」——。小さな一歩の積み重ねが、信頼される職場づくりにつながっていきます。
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執筆者
米澤裕美 特定社会保険労務士
(https://www.office-roumu1.com)
ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。