法律が改正されると、会社が守らなければならない義務や、社員への対応方法が変わる場合があります。
たとえば育児休業のルールが拡充されたら「就業規則を修正する」、有期契約の更新条件を説明する義務が追加されたら「雇用契約書に反映する」など、現場での実務対応が必要になります。
もし「法改正があったのに社内ルールをずっと変えないまま…」となると、後々トラブルにつながる恐れがあります。
新しい改正は、ニュース番組やネット記事などでも報道されるため、それを見た社員はその改正情報を知っていても、社内の情報が古いままだと「うちの会社は大丈夫か?」と信用を失ってしまうかもしれません。
担当者としては、日頃から法改正情報をこまめに収集しておくことが大切です。
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最近の主な改正事項(2019年以降)
長時間残業の管理
2019年以降、残業時間の上限規制が段階的に適用されるなど、労働時間管理の適正化に向けた改正が進んでいます。
- 36協定の内容や勤怠管理の設定を見直しましょう。
- 残業時間のルールをあらためて確認し、それを超えることがないよう日頃から勤怠管理をしっかり行いましょう。
年5日以上の有給休暇取得義務(2019年4月~)
- 年10日以上の有給が付与される社員には、会社が年5日以上の有給を取得させる義務が生じます。
- 社員が自ら有給休暇を取得しない場合、会社が時季指定してでも取らせる必要があり、違反すると罰則の対象になります。
- 会社は年次有給休暇管理簿を作成する義務もあります。
有期契約の無期転換ルール(2024年4月~)
- すでにある「通算5年超で無期転換申込」の制度に加え、2024年4月からは「無期転換の機会と無期転換後の労働条件を契約更新時に書面で案内しなければならない」という改正が入りました。
- 「無期転換の申込権がある」とか「更新は〇年が上限」など書面上(労働条件通知書や雇用契約書)で通知する必要がでました。
- 有期契約労働者の無期転換ポータルサイト
※無期転換ルールについては、厚生労働省サイトのこちらをご覧ください
就業条件の明示(2024年4月~)
- 労働契約時に勤務地・業務の内容に加え、将来の配置転換などによって変わり得る勤務地・業務の範囲の明示も必要になりました。
- これに伴い、労働条件通知書や雇用契約書の見直しが必要になります。
育児介護休業法の改正が続く(2022年~2025年)
- 男性育休(出生時育児休業)の導入や、子の看護等休暇の拡大、柔軟な働き方を実現するための措置の義務化など、育児と仕事の両立がよりしやすくなるよう改正が続いています。
- 会社は、育児や介護の両立支援制度を取得しやすい雇用環境の整備や対象の社員へ制度にの個別周知・意向確認を行う義務が課せられました。
- 制度の改正や要件の変更等により、就業規則・育児休業規程を見直し、社員にわかりやすく案内する必要が出ています。
人事労務分野の法改正一覧
主な法改正項目 | 法律 | 施行日 |
年次有給休暇の年5日取得義務化 | 労働基準法 | 2019年4月 |
長時間労働者に対する医師による面接指導対象者の要件変更 医師による面接指導対象者の要件が「週の実労働時間が40時間を超えた時間が1月当たり80時間(改正前は100時間)を超え、かつ疲労の蓄積が認められる当該労働者からの申出があった場合」へ変更 |
労働安全衛生法 | 2019年4月 |
パワハラ防止のために事業主が講ずべき措置 パワハラを防止するために、パワハラに関する方針を定め労働者に周知することや、相談体制を整備することなど、雇用管理上必要な措置について規定 |
労働施策総合推進法 | 2020年6月~大企業 2022年4月~中小企業 |
ハラスメント相談者への不利益取扱い禁止 | 男女雇用機会均等法 育児介護休業法 労働施策総合推進法 |
2020年6月 |
職場におけるセクハラ防止対策の強化 | 男女雇用機会均等法 | 2020年6月 |
子の看護休暇・介護休暇 時間単位取得の義務化 | 育児介護休業法 | 2021年1月 |
年金手帳に代わり基礎年金番号通知書の発行開始 | 国民年金法 | 2022年4月 |
育児休業 雇用環境の整備及び個別の周知・意向確認の措置 | 育児介護休業法 | 2022年4月 |
有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和 | 育児介護休業法 | 2022年4月 |
出生時育児休業(産後パパ育休)の創設 | 育児介護休業法 | 2022年10月 |
育児休業の分割取得 | 育児介護休業法 | 2022年10月 |
育児休業開始日の柔軟化と特別な事情がある場合の再取得 1歳以降の育児休業を夫婦が交代で取得できるように。特別な事情がある場合の再取得が可能に |
育児介護休業法 | 2022年10月 |
中小企業における月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引上げ | 労働基準法 | 2023年4月 |
有期契約労働者に対する無期転換申込機会の明示 | 労働基準法 | 2024年4月 |
労働条件通知書 更新上限(有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限)の有無とその内容の明示 | 労働基準法 | 2024年4月 |
労働条件通知書 就業場所・業務の「変更の範囲」の明示 | 労働基準法 | 2024年4月 |
子の看護休暇の拡充 | 育児介護休業法 | 2025年4月 |
所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大 | 育児介護休業法 | 2025年4月 |
テレワークの努力義務 3歳に満たない子を養育する労働者及び要介護状態の対象家族を介護する労働者についてテレワークの努力義務 |
育児介護休業法 | 2025年4月 |
子の看護休暇の拡充 | 育児介護休業法 | 2025年4月 |
介護休暇対象者の協定除外範囲の変更 | 育児介護休業法 | 2025年4月 |
介護休業及び介護両立支援制度等 雇用環境の整備及び個別周知・意向確認、早期情報提供の措置 | 育児介護休業法 | 2025年4月 |
育児期の柔軟な働き方を実現するための措置の義務化およびその個別の周知・意向確認 | 育児介護休業法 | 2025年10月 |
仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮の義務化 | 育児介護休業法 | 2025年10月 |
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執筆者
米澤裕美 特定社会保険労務士
(https://www.office-roumu1.com)
ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。