【はじめての人事労務】ハラスメント対策~ハラスメントを防ごう 職場の相談体制づくり~

公開日:2025年6月2日

はじめての人事労務 ~初任者のための実務講座~

ハラスメント対策~ハラスメントを防ごう 職場の相談体制づくり~

 


<米澤社労士事務所 代表 米澤裕美/PSR会員

 

大企業では令和2年6月から、中小企業でも令和4年4月から、職場におけるハラスメント防止対策が法的に義務化されています。

ハラスメントは、被害を受けた人の心身に深刻なダメージを与えるだけでなく、職場の雰囲気を悪化させ、社員の働く意欲を低下させる原因にもなります。さらに、企業の生産性や社会的な信頼にも悪影響を及ぼします。

近年、ハラスメントへの社会的な目も厳しくなっており、企業がハラスメント防止にしっかり取り組むことは責任であり必須となっています。

今回のテーマは「ハラスメントを防ごう 職場のお悩み相談体制づくり」。どのような種類のハラスメントがあるのか、そして現場でどのように防止策や相談体制を整えるべきか、対応ポイントについてお伝えします。

 

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なぜハラスメント防止が必要なの?

社員を守るため

ハラスメントは、被害者の尊厳を踏みにじり、心身の健康を損なわせる行為です。

被害を受けた社員が鬱状態に陥り、退職に至るケースも珍しくありません。企業としては、社員が安心して働ける環境を整える責任があります。

法的リスクを回避するため

「パワハラ防止法(労働施策総合推進法)」をはじめ、セクハラやマタハラの防止措置など、企業にはハラスメント防止策を講じる義務があります。

もし社内でハラスメントが起き、被害者に重大な心身の不調が生じた場合、企業が十分な対策を講じていなかったと認められれば、行政からの指導を受けるだけでなく、訴訟に発展した場合、損害賠償責任を問われるリスクも高まります。

職場の生産性と企業イメージの向上

ハラスメントの放置は、信頼関係を壊し、チームワークを乱す原因になります。

一方、防止策をしっかり行い、相談体制を整えている会社は「安心して働ける職場」として高く評価されやすくなります。社員のモチベーションが高まり、離職率の低下や採用力向上にもつながるでしょう。

 

主なハラスメントの種類

一口に「ハラスメント」といっても、さまざまな形があります。代表的なものを整理しておきましょう。

パワーハラスメント(パワハラ)

上司・先輩などの優位性を背景に、不当な言動や行為を行うこと。暴言・人格否定・過度な仕事の押しつけ・逆に仕事を与えないなど、多岐にわたるパターンがあります。

セクシュアルハラスメント(セクハラ)

性的な言動や行為で相手を不快にさせること。外見や容姿をしつこく言及する、職場でわいせつな話題を続ける、身体に不必要に触れるなどが該当します。

職場における妊娠・出産等に関するハラスメント、育児・介護休業等に関するハラスメント

妊娠・出産等に関する言動や、育児休業・介護休業などの制度利用等を理由に、不利益な扱いや嫌がらせを行うこと。例えば「妊娠したせいで周囲が迷惑だ」といった心ない発言や、復職後に希望と異なる部署へ強制的に異動させられるケースなどがあります。

その他のハラスメント

スメルハラスメント(体臭や香水の匂いなどで相手を不快にさせる行為)など、時代とともに、さまざまな名称のハラスメントが指摘されるようになってきています。

 

ハラスメント防止に向けた基本ステップ

ハラスメントをゼロにするためには、会社がどこまで本気で取り組めるかが鍵です。以下のステップを参考に、社内の体制を見直してみましょう。

ステップ1:就業規則やハラスメントポリシーの整備

- ハラスメント禁止の方針や定義を明文化
 → パワハラやセクハラなどの具体例を盛り込み、「こういう行為は社内で一切認めない」というメッセージを打ち出す

- 懲戒処分の規定も明確に
 → ハラスメントを行った社員にどのような処分が下されるかを示すことで、未然防止の抑止力を高める

ステップ2:社内研修や周知活動

- 研修やセミナーの開催
 → 新入社員はもちろん、管理職や役職者向けにも、定期的にハラスメントの定義や防止策を学ぶ機会を設ける

- 周知物やポスターの掲示
 → 「ハラスメントは許さない職場です」「相談先はこちら」というメッセージを、社員がいつでも目にできるようにする

ステップ3:相談体制づくり

- 相談窓口の設置
 → 人事部やコンプライアンス部門など、相談担当者を明確にし、社員が不安なく声を上げられる仕組みを整備
 → 外部の社労士が担当する相談窓口を用意する企業も増えている

- 匿名での通報や告発を受け付ける仕組み
 → 上司や社内での報復を恐れるあまり、被害が表面化しないケースも少なくないため、匿名性のある通報手段(ホットライン)を設置することで、声を上げやすくする

ステップ4:迅速・適切な調査と対応

- 被害者・加害者双方へのヒアリング
   → 事実関係を客観的に調べ、適切な措置を取る

- 調査結果に基づく処分や再発防止策
   → 加害者への懲戒や異動だけでなく、職場風土自体に問題があれば改善を行う
   → 「表沙汰にしたせいで逆に雰囲気が悪くなった」とならないよう、誠実な対応を

 

相談しやすい雰囲気づくりのポイント

ハラスメント防止策があっても、被害者が相談できる雰囲気でなければ機能しません。そこで大切なのが、「言いやすい」「言っても大丈夫」と感じられる環境づくりです。

1. 経営トップや管理職の言動

- 「ハラスメントは見過ごさない」「いつでも相談してよい」というメッセージを繰り返し伝える
- 管理職が日頃から部下の意見を尊重し、強圧的な態度を取らないよう心がける

2. プライバシー保護の徹底

- 相談内容が他の社員に漏れることがないよう、面談スペースや書類管理を徹底
- 匿名相談でも対応できる体制をつくり、「相談しても不利にならない」という安心感を与える

3. 迅速かつフェアな対応実績をつくる

- 過去に寄せられた相談事例(個人が特定されない範囲で)や、改善策を社内に共有し、「相談すればちゃんと対処してくれるんだ」と感じてもらう
- フェア(公平・公正)なプロセスがあるほど、社内全体の信頼感が高まる

 

実際にハラスメントが起きたらどうする?

ハラスメントは防止策を講じていても、残念ながら発生する可能性はゼロではありません。万が一、相談や通報があった場合は、以下の流れを参考に迅速かつ慎重に対応しましょう。

1. 一次的な状況把握と被害者へのサポート

- まずは被害者からの詳細なヒアリングを行い、被害の重大性を確認
- 必要に応じて加害者との距離を確保(部署移動などを検討)し、被害者の精神的負担を軽減

2. 客観的な事実調査

- 関係者からの聞き取りや証拠(メールやチャット履歴など)の収集
- 可能な限り公正な視点で進めるため、社外の専門家へ調査を委託するケースも

3. 対処と再発防止策の検討

- 加害者がハラスメントと認定された場合は、就業規則や懲戒規程に基づいて適切な処分を行う
- 事業所全体で再発防止に向けた意識共有や研修を実施し、「会社として本気で取り組んでいる」姿勢を示す

 

もう一歩進んで学びたい方へ

 

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執筆者

米澤裕美 特定社会保険労務士 
https://www.office-roumu1.com

ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。

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