【はじめての人事労務】社会保険の基礎知識

公開日:2025年6月2日

はじめての人事労務 ~初任者のための実務講座~

社会保険の基礎知識

 


<米澤社労士事務所 代表 米澤裕美/PSR会員

 

給与計算や社員のライフイベントについて対応を行う上で、社会保険の知識も必要になります。

たとえば、健康保険や年金、雇用保険は「もしものことがあったとき」「将来の生活」への備えとして、社員にとって大切な制度です。

今回は、社会保険の基本についてお話しいたします。

 

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社会保険とは?

「社会保険」とは、主に以下の公的保険制度の総称です。

健康保険(介護保険)
病気やケガをしたときに医療費の一部を負担してもらえる制度。40歳から加入する介護保険もこの健康保険に含まれています。
 
厚生年金保険
老齢や障害・死亡時に年金を受給できる制度。

雇用保険
育児・介護休業取得時や失業時等に給付を受けられる制度。

労災保険
業務上のケガや病気を補償する労災保険も、広い意味で社会保険と捉えられる場合があります。

会社は一定の条件を満たす社員をこれらの社会保険に加入させる義務があり、保険料を社員と会社で負担する仕組みになっています。

健康保険

健康保険制度は、被保険者が医療機関で治療を受ける際に、医療費の一部(※)を自己負担し、残りの費用は健康保険が負担します。

1.加入の条件
- 適用事業所: 一般企業(法人事業所や個人事業所(一定規模以上))で、常時適用される場合。
- 加入者(被保険者): 正社員はもちろん、一定の条件を満たすパートタイマーやアルバイトも加入対象となります。
- 週の所定労働時間や契約期間など、一定の基準を満たしていれば原則として社会保険に加入が必要です。

2. 保険料の仕組み
- 保険料は「標準報酬月額」をもとに算定します。
- 会社と社員が折半して保険料を負担し、会社が給与から天引きしてまとめて納付します。

3. 主な給付内容
- 病気やケガをしたときの医療費補助(自己負担3割など)
- 出産手当金・出産育児一時金
- 傷病手当金(病気・ケガで働けないときの生活保障)

社員に万一のことがあった場合も、健康保険を利用することで治療費などが軽減されるため、安心して働くための重要な制度です。

※参考

日本の健康保険制度では、自己負担割合は年齢や所得によって異なります。70歳未満の被保険者は医療費の3割を負担します。70歳以上75歳未満の被保険者は2割負担ですが、現役並み所得者は3割負担です。
75歳以上の方は後期高齢者医療保険制度に加入します(自己負担割合は1割、現役並み所得者は3割)。

図出典:厚生労働省「医療費の一部負担(自己負担)割合について」(PDF)

 


介護保険

介護保険は、40歳以上の加入者を対象に、要介護状態や要支援状態になった場合に介護サービスを受けられる仕組みです。健康保険に含まれる制度として、下記の点を理解しておきましょう。

1. 対象年齢
- 原則として40歳以上65歳未満の方は「第2号被保険者」に該当します。
- 65歳になると「第1号被保険者」となり、住所地の市区町村から保険証が交付されます。

2. 介護保険料の徴収
- 40歳以上65歳未満の社員については、健康保険料とあわせて介護保険料を控除する必要があります。
- 保険料率は年度ごとに見直されるため、毎年の変更に注意し、給与計算に正しく反映しましょう。

3. 介護サービスの給付
- 65歳以上の人が介護や支援が必要と認定されると、介護保険によるサービスが受けられます。
- 40歳以上65歳未満の方は、末期がん、脳血管疾患(脳梗塞など)、関節リウマチ、初老期認知症など老化が原因とされる特定疾病により介護や支援が必要と認定された場合、ホームヘルパーの派遣やデイサービス、施設利用などの介護サービスを受けることができます。
- 給付の申請やサービス利用については、市区町村窓口での手続きが必要になります。

 

厚生年金保険

1.加入の条件
- 健康保険と同様に、適用事業所に該当すれば加入となります。
- 週の所定労働時間・契約期間などの要件を満たすパートやアルバイトも含まれます

2.保険料の仕組み
- 健康保険と同様に、標準報酬月額に保険料率をかけて算定
- 会社と社員が保険料を半分ずつ負担し、給与天引きで納付

3.給付内容
- 老齢厚生年金: 原則65歳から支給される老後の生活を支える年金
- 障害厚生年金: 病気やケガで障害が残った場合に支給
- 遺族厚生年金: 被保険者が亡くなった場合、遺族に支給

国民年金(基礎年金)に上乗せされるかたちで支給されるため、会社に勤めている人が将来受け取れる年金は「国民年金+厚生年金」の2階建てとなります。

 

雇用保険

1.加入の条件
- 週20時間以上働き、かつ31日以上雇用される見込みがあれば原則加入(2028年10月1日施行(予定)以降、週の所定労働時間が20時間→10時間以上へと改正予定)
- 適用事業所: 社員を1人でも雇用していれば適用(法人・個人問わず)
- 正社員だけでなく、上記条件を満たすパートタイム・アルバイトも対象

2.保険料
- 雇用保険は、健康保険や厚生年金保険よりも低い率で保険料が設定されています
- 社員負担と会社負担があり、業種によって保険料率が異なります

3.主な給付
- 基本手当(失業給付):失業中の生活を支えるために支給
- 育児休業給付:育児休業中の所得保障
- 介護休業給付:介護休業を取得する人の所得保障

雇用保険に加入していれば、育児や介護などライフステージで休業を取得する際にも、給付金がでるため安心できますね。

 

労災保険(労働者災害補償保険)

業務上のケガや病気、通勤途中の事故などを補償する制度です。

- 保険料は全額会社負担
- 社員がケガや病気で休業した場合には休業補償給付などが支給される

「通勤途中にケガをした」「作業中に事故があった」など、仕事と関連するトラブルには労災保険が適用されるため、人事・労務担当者は制度を理解し、正しい手続きを行う必要があります。

 

雇用保険と労災保険は、「労働保険」といい、労災保険と雇用保険の保険料を合わせて労働保険料といいます。労働保険料は、毎年4月1日から翌年3月31日までの1年間(保険年度)を単位として、年度の初めに前年度の確定保険料と、すでに納めていた概算保険料とを精算し、併せて当年度の概算保険料を申告・納付します。このように、原則として1年に1回、毎年6月1日から7月10日までに精算し、申告・納付する手続きのことを「年度更新」と言います。

労災保険と雇用保険の保険料の申告を一元的に取り扱う事業を「一元適用事業(一般的な業種)」、その事業の実態から労災保険と雇用保険の保険関係を区別する必要があり、保険料の申告・納付を別個に取り扱う「二元適用事業(建築や立木の伐採の事業など)」にわかれます。年度更新の時期になると、労働局から「労働保険概算・確定保険料申告書」が送られてきます。これに必要事項を記入し、労働基準監督署または労働局に申告後、労働保険料を納めます。

 

 

社会保険の手続き・実務のポイント

1.新規採用時の加入手続き
- 社員を採用したときは、健康保険・厚生年金保険・雇用保険の資格取得手続きを行います。
- 入社日や雇用契約内容をしっかり確認しましょう。
- 健康保険上の扶養家族がいる場合は、「被扶養者(異動)届」の届け出も行います。

2.月額変更や算定基礎届
- 昇給や降給があった場合、標準報酬月額が大きく変わるタイミングで健康保険・厚生年金保険の「月額変更届」を提出する必要があります。
- 毎年、年に1度は健康保険・厚生年金保険の「算定基礎届」の提出があるので、給与計算ソフトや顧問社労士と連携して適切に対応しましょう。

 

3.資格喪失・離職票の発行
- 退職や異動で社員が資格を失う場合、健康保険・厚生年金保険・雇用保険の資格喪失手続きや雇用保険の離職票の発行を行います。

4.労災が起きた場合のフロー
- 業務災害や通勤災害が発生した際には、労災保険の給付申請や書類提出が必要です。
- 会社の安全配慮義務にも関係するため、早めの報告と対応を徹底しましょう。

社員にとっては、将来への備えや万一の際の心強いサポートとなる社会保険。人事・労務担当者としては、正確な加入・喪失手続きはもちろん、毎年変わる保険料率や制度内容を把握しておく必要があります。

 参考

 

 

 

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執筆者

特定社会保険労務士 米澤裕美
https://www.office-roumu1.com

ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。

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