社員が退職を申し出たり、会社として解雇を検討せざるを得なくなるケースもあるかと思います。
実務でよく起こるトラブルを踏まえながら、労働契約の終了パターンや注意点を整理しました。
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労働契約の終了とは?
労働契約が終了する場面は、大きく次の3つに分けられます。
1. 任意退職(自己都合・合意退職)
- 自己都合退職/会社の退職勧奨に社員が同意する合意退職
2. 自動終了(定年・休職期間満了・契約期間満了など)
- 定年や契約期間の満了、休職期間の満了など、あらかじめ決まった条件に達したことで雇用契約が終わるケース
3. 解雇(会社都合)
- 会社が一方的に労働契約を終了させるもの。厳しい要件と手続きが必要
どのパターンにあてはまるかを把握します。
任意退職(自己都合・合意退職)とは?
自己都合退職(任意退職)
社員が「辞めたい」と申し出て行う退職を、自己都合退職といいます。期間の定めのない正社員などについては、民法の規定により「退職の申入れから2週間経過すれば退職できる」とされています(契約期間定めがある場合は、原則として期間満了まで)。
一方、多くの会社では就業規則で「1か月前に退職を申し出ること」といったルールを設けています。このルールは独自なものなので、実際には社員が申し入れから2週間後に退職することも可能です。ただ、会社や同僚への引き継ぎなどを考えると、できるだけ早めに申し出てもらえると会社としては助かります。
早く申し出があることで、
会社側:引き継ぎや後任者の準備を進めることができる
社員側:引継ぎを行い、円満に退職できる
こういったことから、1か月前など早めに退職を申し出るケースが多いです。
合意退職(退職勧奨)
会社が社員に「退職してほしい」と勧め、社員が同意して辞める場合は「退職勧奨」による合意退職と位置づけられます。
あくまで社員本人の自由意思で合意することが前提で、会社が無理やり辞めさせようと強く迫りすぎると「不当な退職強要」として違法になる可能性があります。
合意退職の場合は、会社が退職金の上乗せなど特別条件を提示して社員の同意を得るケースもありますが、最終的には双方が話し合って納得する必要があります。
自動終了(定年・休職期間満了・契約期間満了など)とは?
任意退職や解雇とは異なり、一定の事情で雇用契約が“自然に”終了するパターンです。
定年
所定の年齢に達した場合、労働契約が自動で終了する制度です。 60歳未満の定年は認められず、65歳未満を定年とする場合は「定年の引き上げ」「継続雇用制度」「定年制廃止」のいずれかで、65歳までの雇用確保を図る必要があります。
70歳までの雇用は努力義務とされています。
休職期間の満了
業務外の病気やケガなどで休職し、就業規則の定める休職期間が終わっても復職が難しい場合に、自動的に退職扱いとなることがあります(自然退職)。
ただし、実際に回復の見込みがあるかどうかを慎重に判断しないと、「復帰可能なのに退職させられた」と主張されるリスクもあるため注意が必要です。就業規則にこの旨の規定があることが前提となります。
契約期間の満了(有期契約社員)
契約期間が終了すれば雇用関係も終了しますが、3回以上の更新や通算1年を超える継続勤務がある場合、雇止めには30日前の予告など特別なルールが適用されます。
期間の定めが形だけで、実質的に「正社員同様」の扱いになっている場合、会社の一方的判断で契約打ち切りするのは無効とされるケースもあります。
解雇(会社都合)とは?
解雇は会社が一方的に雇用契約を終了させることです。労働契約法16条の「解雇権濫用法理」により、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性がない解雇は無効とされます。下記のような種類があります。
普通解雇
いきなり解雇に踏み切るのではなく、まずは注意や指導を行い、改善の機会を与えることが原則です。その際は、指導内容や本人の対応について記録を残しておくことが重要です。
整理解雇
経営悪化等により人員整理が必要な場合。①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③解雇対象者の選定基準の合理性、④社員との十分な協議・説明という4要件を満たさなければ争いとなったとき無効になるリスクがあります。
懲戒解雇
社員の重大な規律違反などによる解雇。会社として最も重い処分なので、就業規則に明確な要件・手続きを定めておく必要があります。
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いずれにしても、就業規則に該当する解雇の種類や手続きが明確に定められていることが前提となります。感情や主観に流されず、規程に基づいて冷静に判断・対応することが、トラブルを未然に防ぐ大切なポイントです。
解雇制限がある
解雇には法的な制限があり、たとえば仕事上のケガや産前産後休業中の社員を解雇するなど、法律で禁じられているケースがあります。また、育児休業や介護休業を申し出たことを理由に解雇することも違法になります。
解雇予告・予告手当
会社が社員を解雇する場合は、30日前までに予告するか、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません(労働基準法20条)。感情的に「今日でクビ!」と宣言しても、法律上認められることはほぼないと思ったほうがよいでしょう。
賞与・退職金はどうなる?
「賞与」や「退職金」については、法律上、必ず支給しなければならないという義務はありません。つまり、支給の有無やその条件は、会社が独自に定めることができます。
ただし、以下の点には注意が必要です。
- 就業規則や賃金規程に「支給する」と定めてあり、かつその支給条件を満たしている場合は、原則として支給が必要
- 一方で、「支給しない」旨が明記されている、または「一定の要件を満たした場合に限り支給する」と規定されていれば、その内容に沿った運用が可能
ただし、例えば「退職予定者だから今回は支給しない」「支給日に在籍していないから支給対象外」といった、恣意的な判断やその場の対応は、後からトラブルの原因になりかねません。
そのため、以下のような項目はあらかじめ就業規則や賃金規程に明文化しておくことが重要です。
- 支給対象者の要件(例:支給日に在籍していること、一定の評価を満たしていることなど)
- 支給の時期と回数
- 計算方法や支給額の基準
- 退職時の取り扱い(在籍期間によって支給の有無が変わる場合など)
自社の実態に合った形でルールを整備し、あらかじめ社員に周知しておくことで、不公平感や誤解、後の紛争を防ぐことができます。
社内書式・諸規程|かいけつ!人事労務(以下書式はこちらからダウンロードいただけます)
・退職願
・退職時の誓約書
・退職勧告通知書
・解雇通知書
・解雇予告通知書
・解雇理由証明書
もう一歩進んで学びたい方へ
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執筆者
米澤裕美 特定社会保険労務士
(https://www.office-roumu1.com)
ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。