出産は病気やケガではありませんので、原則として、健康保険を使うことができず、出産にかかる医療費は全額自己負担になります。
そこで、出産にかかる費用を軽減するために支給されるのが「出産育児一時金」です。本コラムでは、出産育児一時金の基本的な仕組みや申請の流れについて解説いたします。
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出産時の費用を補助する「出産育児一時金」
出産をする際、その多くは、病院・診療所、助産所などでの出産になりますから、多くの費用がかかります。
実際、図1のように出産費用は年々増加しており、令和6年度上半期の平均でみると、私的病院での出産にかかる費用は53万7,000円となっています。
図1 出産費用(正常分娩)の推移
資料出所:厚生労働省 第5回「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」 資料1-3 より
出産には、このくらいのまとまったお金が必要ということですが、それを補うものとして給付されるのが、今回ご紹介する「出産育児一時金」です。
金額は、子ども1人につき50万円です(令和5年3月までの出産の場合は42万円)。こちらは生まれた子ども1人当たりの金額ですので、例えば、双子を出産した場合は、1度の出産ですが、金額は100万円となります。
ただし、産科医療補償制度の対象外となるような妊娠22週未満での出産や、制度に対応していない医療機関で出産の場合は、50万円ではなく、48万8,000円となります。日本のほとんどの医療機関はこの制度に対応していますが、例えば、海外の病院で出産した場合は、日本の制度の対象外ですので注意が必要です。
そして、この出産育児一時金はどこから給付されるのか、と言えば、加入している公的医療保険制度から給付されます。日本の場合、国民皆保険制度と呼ばれ、全ての国民は原則として何らかの公的医療保険制度に加入していますので、会社員やその扶養家族の方であれば健康保険から、自営業世帯の方であれば国民健康保険から給付されます。
この出産育児一時金を受け取れる条件ですが、妊娠4ヶ月以上の出産であることです。ここでいう1ヶ月は28日で計算されますので、4ヶ月目の初日、すなわち妊娠85日以上であれば受け取れます。85日以上であれば、仮に不幸にして流産・死産だった場合や、あるいは様々な事情により人口妊娠中絶となった場合も出産育児一時金が受け取れます。
申請ルートは大きく2つ
以前は、一度、出産にかかった費用を医療機関に納めた後で、加入している公的医療保険制度に申請するという方法のみでしたが、現在は、できるだけ医療機関で負担する額を抑えることを目的として、「直接支払制度」あるいは「受取代理制度」がありますので、これらの制度を活用するといいでしょう。
「直接支払制度」を利用した場合の給付
直接支払制度は、本人もしくは家族との合意のもとで、医療機関が加入している公的医療保険制度に対して出産費用を直接請求し、加入している公的医療保険制度が出産育児一時金の額を限度として、出産費用を直接支払う制度です。
- 出産前に、出産する本人もしくは家族が医療機関側に直接支払制度を利用する旨の申出
(医療機関所定の様式(合意書)に必要事項を記入) - 出産後、医療機関から本人もしくは家族に対して、出産費用の明細を交付
- 出産費用は、医療機関から本人もしくは家族が加入している公的医療保険制度へ請求
- 本人もしくは家族が加入している公的医療保険制度から医療機関へ支払(最大50万円)
- 仮に出産費用が50万円を上回った場合は、出産費用から50万円を差し引いた額を、本人もしくは家族が医療機関へ支払う。
一方、出産費用が50万円を下回った場合は、本人もしくは家族が、加入している公的医療保険制度に対し、「出産育児一時金差額申請書」を提出し、50万円から出産費用を差し引いた額を受け取る。
「受取代理制度」を利用した場合の給付
受取代理制度は、本人もしくは家族に給付される出産育児一時金を医療機関が代理で受け取る制度であり、医療機関の事務負担が大きい場合として、厚生労働省へ届け出ている医療機関での出産の場合に限り利用ができます。本制度を利用できるかどうかは、出産予定の医療機関へお問い合わせください。
- 本人もしくは家族が、出産前に加入している公的医療保険制度へ受取代理用の出産育児一時金支給申請書を提出
- 出産後医療機関から、本人もしくは家族が加入している公的医療保険制度へ費用請求
- 本人もしくは家族が加入している公的医療保険制度から医療機関へ支払(最大50万円)
- 仮に出産費用が50万円を上回った場合は、出産費用から50万円を差し引いた額を、本人もしくは家族が医療機関へ支払う。
一方、出産費用が50万円を下回った場合は、50万円から出産費用を差し引いた額を加入している公的医療保険制度より本人もしくは家族が受け取る(出産前に申請しているので、改めて差額支給の申請は不要)。
出産費用は医療費と違う?
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執筆者
竹本 隆 社会保険労務士
つぬがビヨンドワークスサポートオフィス
元厚生労働省数理・デジタル系職員。主に統計の調査・分析や、制度改正の試算業務を15年にわたり担当。在職中、様々な社会保険制度に携わる中で、社会保険労務士の存在を知り資格取得。また、人事院出向時代の試験問題作成の経験を活かし、主に社会保険労務士試験の受験生に対して、受験対策講座も展開している。福井県社会保険労務士会会員。
YouTubeチャンネル「副キャプテンのマネー講座」、「社会保険労務士試験リベンジ合格チャンネル」も開設中。