「勤怠管理のシステムって、最近よく聞くけど実際どういうもの?」「やっぱり導入コストは高いのかな? うちの会社はまだエクセルでもいけるかも…?」
こんな疑問を抱いている人事労務担当の方は多いのではないでしょうか。
勤怠管理は、社員がきちんと決められた時間働いているか、残業や休日出勤が適切に計算されているかをチェックするための重要な業務です。
労働基準法違反や残業代未払などのトラブルを防ぐためにも、正確な勤怠記録は重要です。
今回は、「勤怠管理のシステム導入と運用」についてお話しします。
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そもそも勤怠管理システムとは?
タイムカードやエクセル管理の限界
昔は、紙のタイムカードや出勤簿にハンコを押して「出社時刻」「退社時刻」を記録し、担当者がエクセルにまとめる…という流れが主流でした。
しかしこの方法では、打刻漏れや手計算ミス、残業時間の集計違いなど人為的なエラーが起きやすくもあります。
システム導入で何が変わる?
勤怠管理システムを導入すると、ICカードやパソコンのログイン情報、あるいはスマホアプリなど、いろいろな方法で出退勤の打刻ができるようになります。
- 自動で集計してくれる
- 残業時間や有給休暇の管理も一元化できる
- リアルタイムで出退勤状況を確認できる
こうしたメリットがあるため、最近は中小企業やスタートアップでもクラウド型の勤怠管理システムを採用するケースが増えています。
システム導入前に確認すべき3つのこと
「良いシステムを導入すれば問題ないでしょう」と思いがちですが、実は事前の準備がとても大切です。ここでは、導入前に確認すべき3つのポイントを紹介します。
自社の就業ルールを整理する
- 出社時間、退社時間、休憩時間
- 残業や休日出勤の申請フロー
- 有給休暇やその他休暇の取り方
たとえば「所定労働時間」「法定労働時間」「法定休日は何曜日か」など、就業規則に沿った労働時間の定義をきちんと理解して設定に入りましょう。
これらのルールがあいまいだと、システムが正しく動いてくれません。
社内の端末環境や運用イメージを確認する
- 社員はふだんパソコンを使っている?使っていない業務?スマートフォンは持っている?持っていない?
- 立ち上げ時に毎回ログインする?
- スマホで打刻できるようにしたい?
- 生産現場や工場ではICカードのほうが便利?
会社によって働く環境はさまざま。自分たちの働き方に合ったシステム形態(クラウド or オンプレミス、ICカード or PCログイン etc.)をイメージしておくと、導入後「便利になると思ったが、使いにくい…」を減らせます。
費用とランニングコストのバランス
勤怠管理システムといっても、価格帯もいろいろです。
- 導入規模や社員数に合わせて費用対効果を検討
- 長期で見た場合にコストを回収できるかどうかも大事(エクセル手計算による残業代未払リスクや工数削減効果を考慮)
実際に導入してみるときのステップ
では具体的にシステム導入を進めるとなると、どのような流れになるでしょうか。
1. 情報収集・比較
- インターネットや展示会、評判、紹介などで複数のシステムをリストアップ
- 値段、機能、サポート体制などを比較する
2. テスト導入・デモ版利用
- 多くのベンダーがデモアカウントや無料トライアル期間を用意しているので、実際に触ってみる
- 打刻の仕方や管理画面の見やすさをチェック
3. 社内説明・同意形成
- 管理職や総務担当など、関係者にシステム導入のメリット・デメリットを説明
- 導入の流れのイメージを共有
4. 初期設定・社員への説明
- 社員ごとの勤務形態(フルタイム、パート、交替制など)をシステムに登録
- 実際の打刻方法をマニュアル化し、勉強会を行ったり 社内ポータルサイトなどに載せて周知する。一度このようなものを作っておけば、今後新しく入った方にも説明がしやすくなります。
5. 運用開始・フォローアップ
- 慣れるまでの最初の数週間~1か月は問い合わせやトラブルは起きがち
- 担当者が適宜フォローしながら、システムの定着を図る
運用のポイント
導入が完了しても、「導入しただけ」で放置すると、うまく活用できなかったり、社内に不満が募ったりすることも。運用をスムーズにするためのポイントをいくつか紹介します。
定期的なルールの見直し
システムを入れると、これまで曖昧だったルールが“可視化”されます。たとえば「深夜残業や休日出勤時の許可ルールがあいまい」など、気づくことも多いでしょう。
定期的に社員からフィードバックをもらいながら、就業規則や運用フローを修正していくのも大事なことです。
打刻漏れ・エラーへの対応
いくらシステムでも、人が打刻を忘れれば記録漏れが生まれます。特に現場スタッフが多い職場だと、退勤打刻をし忘れることもあるかもしれません。
- エラーが出たときの修正手順を明確にする
- 申請フォームや上司の承認フローを設定しておく
- 「打刻漏れは月末までに入力完了させること」などのルールを社内で共有
勤怠データの信頼性を保っていくためにもこのようなことを決めておくとよいでしょう。
残業や休暇管理をしっかりチェック
勤怠管理システムを導入すれば、残業時間を自動で集計してくれます。しかし「ちゃんと法定労働時間の範囲内におさまっているか」「36協定の上限を超えていないか」を人事労務が定期的にモニタリングすることも大事なこと。
さらに、有給休暇の取得率もシステム上で一目瞭然になるので、「年5日の有給休暇取得義務」を達成できているかなど、法律違反を防ぐためにもチェックしましょう。
よくある疑問Q&A
Q1. 「システム導入しても残業は減らないんじゃない?」
たしかに勤怠をつけることで残業を減らすことにはつながりませんが、システム導入によって上司や人事が残業時間をリアルタイムに把握しやすくなるので、残業時間を可視化しやすくなります。
特定の部門全体が残業が多いのか、特定の人が偏って残業が多いのかなども可視化することができ、原因について検討しやすくなります。
平行して「残業申請ルールを徹底する」「管理職が声かけをする」「業務効率をはかっていく」など取り組んでいくことは必要です。
Q2. 「うちは社員数が少ないから導入するほどでもない?」
最近は、月額数千円程度で使えるクラウド型の勤怠管理システムが増えているので、社員数が数名~十数名程度の小さな会社でもコストを抑えて導入できます。
むしろ社員が少ない企業ほど、人事労務担当が他の業務と兼務しているケースが多く、勤怠管理を手作業でやる負担は大きくなりがちです。早めに導入して負担を減らすメリットは大きいかもしれません。
まとめ:正確な勤怠管理は“会社と社員を守る”カギ
勤怠管理システムの導入は、「ちょっと大変そう」「慣れるまでに時間がかかりそう」というイメージがあるかもしれません。しかし、正確な勤怠データが取れることで、残業代未払いのリスクなどのトラブルを未然に防ぐことができます。また、社員にとっても透明性のある管理が行われるので、労使の信頼関係が高まりにもつながるでしょう。
勤怠管理法的根拠
労働基準法 | 労働安全衛生法 | |
根拠 | 厚生労働省ガイドライン | 安衛法 第66条の8の3 |
把握方法 | 厚生労働省ガイドラインによる | 安衛則 第52条の7の3 |
把握の対象外 | 管理監督者、裁量労働制対象者、事業場外みなし労働時間制対象者、高度プロフェッショナル制度対象者 | 高度プロフェッショナル制度対象者 |
もう一歩進んで学びたい方へ
- 人事労務サービス一覧 勤怠管理|かいけつ!人事労務
- 厚生労働省「わかりやすい解説 時間外労働の上限規制(2019年4月施行)」(PDF)
- 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(PDF)
- 厚生労働省「労働基準法基礎知識」(PDF)
記事一覧はこちら>>>はじめての人事労務 ~初任者のための実務講座~
執筆者
米澤裕美 特定社会保険労務士
(https://www.office-roumu1.com)
ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。