「突然、労働基準監督署から調査の連絡は来るらしい?」「知り合いの会社が調査を受けたらしい。うちもそのうち調査がくるのか?」
人事労務の仕事に関わっていると、避けて通れないのが「労働基準監督署(以下、労基署)」による調査です。
実は、調査の連絡は突然やってくることもあります。そして、たとえ創業から何十年経っている会社でも、労基署から初めて調査が入って慌てる…ということは珍しくありません。
今回は、「労基署が調査に入るきっかけ」「調査の流れ」「どう対応すればよいか」についてお話しします。
記事一覧はこちら>>>はじめての人事労務 ~初任者のための実務講座~
労働基準監督署とは?
労基署は、労働基準法や労働安全衛生法など、労働関係の法律がきちんと守られているかを監督する機関で、厚生労働省の出先機関です。
労働者からの相談を受ける窓口でもあり、不当な扱いがあった場合の申告先にもなっています。一方で、会社側にとっても労務トラブルの未然防止やアドバイスど、頼りになる存在でもあります。
労基署の調査って、どのようなきっかけで入るの?
労基署が会社に調査に入るきっかけは主に以下の3つです。
1.定期監督
労基署が計画的に行う調査です。業種や労災発生状況、残業時間の多さなどを踏まえて調査先が選ばれます。
2.申告監督(通報や相談から)
従業員や退職者から「残業代が支払われていない」「解雇されたが納得がいかない」といった申告が労基署にあった場合、会社に調査が入ります。実際、もっとも多いのがこのケースのようです。
3.災害時監督
業務中の事故やケガなど、労働災害が発生した場合にも調査が行われます。特に重篤な災害や再発の可能性がある場合は要注意です。
調査の流れは?
1.事前の連絡(または突然の訪問)
調査は、労基署から「電話や書面での連絡」が来る場合と、「いきなり会社に来る」ケースがあります。連絡を受けたら、求められた資料を早めに用意しましょう。
2.求められる主な書類
調査時に必要となる代表的な書類はこちらです。
- 労働者名簿、出勤簿、賃金台帳(法定3帳簿)
- 就業規則、賃金規程
- 労働契約書(労働条件通知書)
- タイムカードや勤怠記録
- 36協定届(時間外労働・休日労働に関する協定届)
- 有給休暇管理簿
- 健康診断結果、安全衛生に関する体制図
※これらの書類は、日ごろから整備・保管しておくことが大切です。
3.調査のポイント
労基署は以下のような視点で確認を行われます。
- 法令に即した労務管理が行われているか
- 労働契約書が正しく交付されているか
- 時間外・休日労働のルールは適正か(36協定があるか)
- 未払い残業代はないか
- 年5日の有給休暇取得義務が守られているか
- 健康診断やストレスチェック(50人以上の事業場)は実施されているか
など
調査の結果、法令違反があった場合は「是正勧告書」が交付されます。これは“ここを直してください”という指摘書です。違反とはいえ、すぐに罰則が課されるわけではなく、期日までに「是正報告書」を提出すれば、多くのケースではそれで終了となります。ただし、期限を守らなかったり、改善の意思が見られない場合は再調査が入ることもあります。
実際に調査が来たらどうする?
◎慌てず、落ち着いて対応
不安な場合は、「少し時間をください」と伝え、整理の時間をもらいましょう。
◎必要書類を揃える
求められた書類は、できるだけ早めに準備。どうしても間に合わないときは、その旨を丁寧に伝えるのも大切です。
◎社労士に相談する
「どこまで改善すればいいのか」「どのように報告書を書くべきか」など、悩む場合は社会保険労務士に相談することも選択肢です。必要があれば、立ち合いをお願いすることも可能です。
普段からできる予防策とは?
突然の調査に慌てないために、以下のような準備を日頃からしておきましょう。
- 勤怠記録、賃金台帳などの帳簿を適正に管理する
- 就業規則や36協定を最新の状態に保つ
- 有給休暇の管理簿を整備し、義務取得を意識する
- 健康診断やストレスチェックを定期的に行う
まとめ
労基署の調査は「突然」「緊張する」というイメージがあるかもしれませんが、日頃の労務管理をきちんとしていれば、恐れるものではありません。むしろ、調査をきっかけにルールや運用の見直しが進み、会社にとってプラスになることもあります。
人事労務担当として大切なのは、「知らなかった」「前任がやっていなかった」では済まされない知識を身につけておくこと。そのうえで、わからないことがあれば専門家に相談し、着実に対応していけば大丈夫です。
まずは「知ること」「備えること」から始めていきましょう。
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執筆者
米澤裕美 特定社会保険労務士
(https://www.office-roumu1.com)
ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。