【組織リーダーの若手社員育成術】第3回 「ライティングスキル」の身に付け方

公開日:2024年2月1日

【組織リーダーの若手社員育成術】

第3回「ライティングスキル」の身に付け方


<コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀信敬/PSR会員>

多くのビジネススキルは、教育研修と実務経験との相乗効果によって習熟度が向上する。

ところが、「文章を書く能力=ライティングスキル」については専門的な教育が行われるケースが少ないため、実務との相乗効果によるスキルアップが生じにくい。

その結果、若手ビジネスパーソンの「書く力」は、劣化傾向にあると言われる。

そこで今回は、若手社員にライティングスキルを教育する手法を考えてみよう。

 

あらゆる職務の基礎となる“書く能力”

業種・業態の違いにかかわらず必要なビジネススキルは複数あるが、その中でも特に重要な基礎的スキルがある。文章を書く能力である「ライティングスキル」である。

ビジネスの場で必要なライティングスキルは、学術論文のような高尚な文章を書けることではない。必要なのは「簡潔で分かりやすく、誤解の余地がない文章」を書く能力である。ところが、これが思いのほか難しい。最低でも次の10要件をクリアしなければならないからである。

【簡潔で分かりやすく、誤解の余地がない文章の10要件】

  1. 主語と述語とが正しく対応している。
  2. 正しい助詞(てにをは)を使用している。
  3. 修飾語と被修飾語との関係が明確である。
  4. 文章同士のつながりに不自然さがない。
  5. 文章同士の因果関係に合致した接続詞を使用している。
  6. 不必要な表現を使用することにより、文章が冗長になっていない。
  7. 文長が長過ぎない。
  8. 使用する用語・表現が不適切なために、文意が不明確になっていない。
  9. 書き言葉にふさわしい用語・表現を選択している。
  10.  記述内容に矛盾がない。

上記条件を充足する文章を書けるようになるには、訓練が必要である。最も効果的な方法は、ライティングスキルの高い人材が記述された文章の添削指導を行うことである。

 

ライティングを指導できるリーダーは非常に少ない

ひと昔前であれば、上席者による徹底した文章指導が日常業務の中で行われていた。例えば、部下の作成した書類に上司が赤字で訂正を入れ、好ましい文章に変わるまで何度でも容赦なく書き直させるというOJTが行われたものである。

若手社員にとっては、自身の記述した文章が原形をとどめないほどに真っ赤に訂正されるなど、大きな試練の場となる。ところが、このような厳しいトレーニングを経た若手社員は、ビジネスパーソンとしてどこに出しても恥ずかしくない文章を書けるようになった。

しかしながら、このような厳しい社員教育は、時代の流れとともに行われなくなっている。現在でもこのような訓練が行われているのは、文章作成が顧客提供価値の生命線となる企業の一部に過ぎないであろう。

そのため、現在、多くの企業では厳しいライティング教育を経験していない人材が役員に就任し、また、管理監督職に就いている状態にある。その結果、リーダーのライティングスキルが、部下を指導できるレベルに達していないケースが少なくない。

 

好ましい文章に数多く接することができる「書籍購読」

以上の状況を踏まえ、若手社員のライティングスキルを向上させるには、当該社員に「好ましい文章との接点を増やす」「書き上げた文章を精査する」という2つの課題を与えることが有効であろう。

このうち、「好ましい文章との接点を増やす」という課題に取り組ませるには、継続的に書籍を購読させるとよい。一般的な書籍は出版社によって執筆者が選別されており、さらに執筆された原稿は編集者による確認・修正が施されているため、一定レベル以上の文章で記述されているケースが多いからである。

購読する書籍はビジネス書の中から選択すれば、ライティングスキルの向上に有用なものが多いはずである。書籍のジャンル・書籍名・著者名などを指定し、期限を設けて購読を繰り返させ、若手社員が書籍購読を習慣化できるようにするとよい。

なお、インターネット上の情報を閲覧することにより、文章との接点を増やす行為には注意が必要である。インターネットではライティングのレベルにかかわらず誰もが情報を発信できるため、ビジネスパーソンが見習うべきでない文章が氾濫しているからである。

 

ライティングスキルは「推敲作業」で伸びる

次に「書き上げた文章を精査する」という課題に取り組ませるには、若手社員に報告書の作成などを命じた際、文章の推敲作業を重点的に行わせるとよい。

書き上げた直後の文章には粗(あら)が多い。例えば、完成したと思った文章の中には、主語と述語とが対応していない箇所などが少なからず残っているものである。推敲作業とは、書き上げた文章の中からこのような修正点を抽出して改善し、好ましい文章に練り上げていく作業である。

従って、書き上げた文章は、前述の『簡潔で分かりやすく、誤解の余地がない文章の10要件』の各項目を満たすかについて精査し、修正を施す推敲作業を徹底的に行うことが重要になる。書いた文章を何度も何度も読み返し、推敲作業を十分に実施した上で「もう修正点はない」と判断できてから提出することをルール化するのである。この作業は、精緻に行うほどライティングスキルが向上する。

以上のような「好ましい文章との接点を増やす」「書き上げた文章を精査する」という課題を与えたとしても、若手社員のライティングスキルが短期間で飛躍的に向上することはない。従って、根気よく継続的に取り組ませることが肝要である。ライティングの専門的な指導が困難であれば、試してみてはいかがだろうか。

 

プロフィール

大須賀信敬

コンサルティングハウス プライオ 代表 

(組織人事コンサルタント/中小企業診断士・特定社会保険労務士)

コンサルティングハウス プライオ(http://ch-plyo.net)代表

中小企業の経営支援団体にて各種マネジメント業務に従事した後、組織運営及び人的資源管理のコンサルティングを行う中小企業診断士・社会保険労務士事務所「コンサルティングハウス プライオ」を設立。『気持ちよく働ける活性化された組織づくり』(Create the Activated Organization)に貢献することを事業理念とし、組織人事コンサルタントとして大手企業から小規模企業までさまざまな企業・組織の「ヒトにかかわる経営課題解決」に取り組んでいる。一般社団法人東京都中小企業診断士協会及び千葉県社会保険労務士会会員。

 

 

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