「給与のデジタル払い」が解禁?給与支払いのルールは?

公開日:2022年12月1日

 最近、「給与のデジタル払い」が解禁されるという話題をよく見聞きしますが、そもそも、給与の支払いにはどのようなルールがあるのでしょうか?

 給与の支払い(賃金の支払い)については、労働基準法において、次の5つの原則が定められています。

原則1)通貨払いの原則
賃金は現金で支払わなければならず、現物(会社の商品など)で払ってはいけません。
ただし、労働者の同意を得た場合は、銀行振込み等の方法によることができます。
また、労働組合と労働協約で定めた場合は、現物支給とすることができます。

原則2)直接払いの原則
賃金は労働者本人に払わなければなりません。
未成年者だからといって、親などに代わりに支払うことはできません。

原則3)全額払いの原則
賃金は全額残らず支払われなければなりません。
したがって、「積立金」などの名目で強制的に賃金の一部を控除(天引き)して支払うことは禁止されています。ただし、所得税や社会保険料など、法令で定められているものの控除は認められています。
それ以外は、労働者の過半数で組織する労働組合、または労働者の過半数を代表する者と労使協定を結んでいる場合は認められます。

原則4)毎月1回以上払いの原則

原則5)一定期日払いの原則
賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければなりません。
したがって、「今月分は来月に2か月分まとめて払うから待ってくれ」ということは認められません。
また、支払日を「毎月20日~25日の間」や「毎月第4金曜日」など、変動する期日とすることも認められません。
ただし、臨時の賃金や賞与(ボーナス)は例外です。

 賃金は、労働時間と並んで、最重要ともいえる労働条件であり、これが全額、確実に、労働者に渡るように、上記のような支払い方のルールが定められているわけです。

 では、給与のデジタル払いについてはどうでしょう?

 現在、解禁に向けた議論が進められている「給与のデジタル払い」は、厳密には、「資金移動業者の口座への資金移動による賃金の支払い」のことをいいます。この支払いの方法は、現行のルールでは認められていません。

〔参考〕現在のルールでは、原則1)通貨払いの原則の例外として、「労働者の同意を得た場合は、銀行振込み等の方法によることができる」とされていますが、ここでいう「銀行振込み等」とは、「銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込み」と「金融商品取引業者に対する当該労働者の預り金への払込み」とされており、資金移動業者の口座への資金移動は含まれていません。

 資金移動業者とは、「資金決済に関する法律」により認められたものです。銀行以外の業者が行う為替取引を「資金移動業(資金移動サービス)」といいますが、これを行う事前に登録を受けた業者をいいます。

 さまざまな形態がありますが、コンビニや旅行代理店の窓口、インターネット、携帯電話などで、国内だけでなく海外へも振込や送金ができるのが特徴です(送金上限金額が設定されている資金移動業者もあります)。
 また、銀行などの金融機関と比べると、おおむね、口座の開設が簡単、手数料が安いといった利点があります。

 しかし、業者が倒産するケースも見受けられ、また、資金移動が柔軟な分、不正アクセスによって資産が流出するリスクもあるということで、労働者の賃金の支払いに利用するのは適切ではないという意見が出ていました。

 しかし、キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中で、デジタル化をさらに進めたい政府の意向もあり、労働者の同意を前提とし、口座残高の上限額を100万円以下に設定することなど資金移動業者の要件を厳格化することで、これを可能にしようとしています。

 令和5年4月からの解禁が予定されており、そのルールを定めた「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案」のパブリックコメント(意見募集)も実施されています。

 今後の動向に注目です。

〔参考〕パブリックコメントの際の「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案」
≫ https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000241741
※意見募集の期間は、令和4年9月22日~10月21日ですが、ここで改正の趣旨・概要を確認することができます。

 

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