【はじめての人事労務】ルールを理解してもらう。会社も目標を共有する~ポータルサイト作成~

公開日:2025年6月18日

はじめての人事労務 ~初任者のための実務講座~

ルールを理解してもらう。会社も目標を共有する~ポータルサイト作成~

 


<米澤社労士事務所 代表 米澤裕美/PSR会員

 

「就業規則を整えたのに、社員が読んでくれない…」「大事なルールはたくさんあるけど、どうやって社内に伝えればよいのだろう?」

こんな悩みを抱えている人事・労務担当の方は多いかもしれません。

実は、どれだけしっかりした就業規則を作っても、社員に伝わっていなければ意味がありませんよね。

ルールだけだと、縛られているような感覚になることもあるかもしれませんが、ルールとあわせて会社が大事にしている価値観や、目指している目標もあわせて伝えられるとよいなと思います。

また、従業員が長く働いていく中で、引っ越し、結婚、出産、育児、介護、病気、離婚など、さまざまなライフイベントや生活の変化も起こります。こうした場面では、扶養の追加、休業申請などのさまざまな手続きが必要になります。

社員にとっても日常的なことではないからこそ、「そのときに会社に何を伝えたらよいか」が事前にわかっていると、安心感にもつながります。

そこで今回は、「労務のルールを社員にどうやって伝えるか」をテーマに、具体的な事例やポイントを紹介していきます。

 

 

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なぜルール周知が大切なの?

"安心して働ける環境づくりとスムーズな業務運営のために"

労務に関するルール(就業規則・賃金規程・各種休暇制度など)は、社員が安心して働くための「共通の約束事」です。

けれども、社員がその内容をよく知らずにいると、誤解が生じたり、対応に時間がかかってしまう場面も出てくるかもしれません。

一人ひとりが会社のルールを理解し、共通認識を持って働けることで、ちょっとした行き違いを防げたり、業務の進め方もよりスムーズになります。

社内のルールを整え、わかりやすく伝えることは、社員の安心感や職場全体の信頼関係にもつながります。

 

まずは「就業規則」をどう見せる?

法的には“常時備え付け”が必要

労働基準法では、常時10名以上の社員がいる事業場で就業規則を作成した場合、所轄の労働基準監督署へ届け出ることが義務付けられています。

そのうえで、社員がいつでも見られるように“常時備え付ける”必要があります。とはいえ、「事務所の奥に密かに置いてある」状態では誰も見ることができません。

社内ポータルサイトなどへの掲載

近年は、就業規則をPDFで社内ポータルサイトやサーバー上に掲載する企業が増えています。

- 社員はログインすればいつでも閲覧でき、キーワード検索も可能
- 改定時のアップデートが楽

紙でおいておく場合も、手に取りやすい工夫があるとよいですね。

 

労務ルールを周知する具体的な方法

マニュアルやハンドブックの作成

就業規則は法律用語が多く、敬遠されがちな面もあります。そこで、マニュアルやハンドブックを別途作成する方法があります。

- 「残業申請の手順」「休日出勤の申請フロー」「有給休暇の取り方」など、社員が知りたいポイントを抜粋
- イラストや写真なども入れて、わかりやすく説明

こういったものがあれば、社員も見やすくて便利です。あわせて会社のミッションやビジョンを掲載し、「なぜこのルールが必要なのか」を示すとさらに効果的です。

オリエンテーションや研修で説明

新入社員や中途採用の社員にとって、入社時オリエンテーションは労務ルールを覚える機会にもなります。

入社直後に大量の情報を詰め込まれても消化不良になりがちなので、年1回など定期的に「労務研修」の場があるとよいかもしれません。

- 残業申請のルールや改正があり実務に影響がありそうなところを定期的に再確認
- 研修の冒頭で「会社の価値観」「今後目指す方向」を伝えると、社員も「だからこのルールが必要なんだ」と納得しやすい

また、「社会人なら当たり前」に思えることでも、実際には常識として認識していない社員も一定数いるものです。たとえば、「仕事中は業務に専念する義務がる」とか「昼休憩は1時間まで」などの基本的なルールも、改めて全社員に周知・教育する機会があるとよいと思います。

社内ポータルサイトやメールでの周知

社内ポータルサイトや全社メールで「こんなルールがあります」「法改正で有給休暇取得義務が強化されました」と案内するのも手軽で有効です。

- ポイントを短めにまとめて、詳細は就業規則やマニュアルを参照

 

社内コミュニケーションを活性化させよう

相談しやすい環境づくり

ルールを周知するだけでは、どの程度理解されているかは分かりにくいものです。

大切なのは、社員が「これどういう意味だろう?」と感じたときに、気軽に質問できる雰囲気や仕組みをつくること。人事担当への直接問い合わせを歓迎して、誰もが安心して声を上げられる環境づくりがカギになります。

管理職の理解がカギ

たとえば、管理職が「忙しいから有給は取らせない」「新人だから残業申請はしないでいい」といった“現場の判断”で独自ルールを作ってしまうと、せっかく整備した人事制度の運用が思うように進まなくなってしまうことも。

人事労務担当が整えた制度を、現場で活かすためには、管理職自身が正しい知識を持ち、実際の行動で部下に示すことがとても大切です。

研修や定期的なミーティングなどで、「会社がどんな職場を目指しているのか」「なぜルールが必要なのか」を管理職と共有し続けましょう。

 

具体例:残業時間の申請ルールを周知する

1. 就業規則に“残業申請ルール”を明記
 - 「上長承認のうえ◯◯システムへ入力」「残業の事後申請は原則NG」など

2. マニュアルで解説
 - 「申請手順」「申請が遅れると残業代が支給されないケースがあるので締切遵守」など

3. 入社時や定期研修で実演・説明
 - 画面を映して勤怠管理ソフトや社内システムのデモを行う
 - 新入社員や管理職にも定期的にリマインド

4. 社内ポータルにFAQを掲載
 - 「残業申請を忘れた場合は?」「休日出勤はどう申請する?」などQ&A形式
 - トップページにリンクを貼っておく

5.社内ルールの改定時にも徹底周知を
   法律の改正や会社方針の変更に伴い、規程やマニュアルに手直しが必要になる場合があります。
 - 改定内容をわかりやすくまとめた資料を作る
 - 該当部署や管理職への説明会を行う
 - 社内ポータルやメールで「ここが変わりました」と告知
 - FAQコーナーを更新し、社員が混乱しないよう工夫

このときも「なぜ変更するのか」という背景を会社の目標や価値観と結びつけると、社員もスムーズに受け入れやすいでしょう。

 

ポータルサイトを活用した情報整理の事例

とある会社では、社内ポータルサイトを以下のように7つのカテゴリに分けて運用しており、社員から分かりやすいと好評です。よろしければ参考にしてみてください。

1. 総務・人事手続き
 - 入社・退社やライフイベントに関する手続き
 - 例:入社手続き(提出書類一覧、社会保険・雇用保険の加入など)、退社時の返却物一覧、扶養・住所変更、産前産後・育児休業の申請手順など

2. 経費精算関連
 - 業務で発生する費用の精算に関する手続き
 - 例:経費精算システムの使い方、交通費・出張費の精算方法、領収書の提出期限など

3. 給与・福利厚生
 - 給与に関する確認や福利厚生制度の利用に関する情報
 - 例:給与明細の見方、賞与支給スケジュール、年末調整の手順、健康診断やストレスチェック、住宅補助の申請方法など

4. 会社ルール・就業規則
 - 会社の規定やルールの詳細
 - 例:就業規則(労働時間・休暇制度・休職制度など)、テレワーク規定、ハラスメント防止規定、副業規定など

5.社内トピックス
 - 例:ワクチン接種補助金、社内勉強会や研修スケジュール、社員旅行や懇親会の案内、災害時の安否確認方法など

6. 評価・キャリア支援
 - (会社の方針によってはカテゴリ化)社員の成長を促す情報
 - 例:昇進昇格のフロー、社内研修や資格取得支援、自己啓発制度、社内公募制度など

7.更新情報・新ルールのご案内
 - 新しく追加・変更された制度や、ポータルサイト内の更新情報をまとめて発信
 - 例:「育児休業制度の一部改正について」「経費精算ルールの変更」「新たな福利厚生制度の追加」など、従業員に確実に周知したい情報を掲載

このようにカテゴリを整理しておくと、社員は自分が知りたい情報を早く見つけられます。内容が分かりやすければ、人事・総務への問い合わせ件数が減り、お互いにとって業務効率が向上するメリットもあります。

 

 

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執筆者

米澤裕美 特定社会保険労務士 
https://www.office-roumu1.com

ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。

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