人事労務の仕事は、給与計算や社会保険手続き、就業規則の整備など、会社の“内側”の業務のイメージを持たれている方も多いかもしれません。
しかし、人事労務の取り組み方が企業の外部イメージやブランディングを左右することも少なくありません。
特に中小企業のなかには「採用になかなか人が集まらず苦慮している」という声も多く、社員の働きやすさをアピールできれば、人材確保につながる可能性があがります。
たとえば、「くるみん認定」や「えるぼし認定」といった行政認定をはじめ、どんな労務管理を行い、どんな職場環境づくりをしているかを広報活動と連携して発信すれば、企業の魅力を社外にアピールするチャンスが一気に増えます。
ここでは、「人事労務担当こそ広報の視点を持とう!」というテーマで、そのメリットと取り組みのヒントをお話しします。
記事一覧はこちら>>>はじめての人事労務 ~初任者のための実務講座~
人事労務の取り組みが企業のイメージを左右する
「労務管理=社内業務」だけじゃない
人事・労務担当は、毎日の給与計算や勤怠管理、就業規則の見直しなど“社内向け”の仕事に集中しがちです。
しかし、社員が安心して働ける職場をつくることで、外部にも「この会社は働きやすい」「子育てや介護と両立しやすい」とアピールすることができます。
たとえば、「残業削減に成功して定着率が上がった」「育児休業を取れる制度が整っている」「女性が活躍しやすい環境づくりを進めている」といった取り組みは、採用面や社会的評価にも直結します。
社内で整えた仕組みを社外に向けて発信する視点を持つことをおすすめします。
くるみん認定やえるぼし認定とは?
くるみん認定
子育て支援に積極的な企業として、厚生労働省から認定を受ける制度。子育てしやすい職場環境を整え、一定の基準を満たした企業が「くるみんマーク」を取得できる
えるぼし認定
女性活躍推進法に基づく行動計画などを実施し、女性の活躍状況が優良な企業が申請して取得できる認定。星の数で企業の取り組み度合いを示す
こういった行政認定を取得すると、会社のWebサイトや名刺、求人広告などにマークを掲載しやすくなり、「働きやすい会社」「社員を大切にする会社」という印象を社外へ伝えやすくなります。
広報視点をもつメリット
採用力アップにつながる
「残業が少なく、育児支援制度がある会社」「女性の管理職が多く活躍している会社」は、求職者から見ても魅力的です。
「当社はワークライフバランスを大事にしている」「社員の健康に配慮している」といった情報を、広報でアピールすることで、人材が集まりやすくなる可能性が高まります。
社内のモチベーション向上
たとえば、「くるみん認定を取得した」「えるぼし認定を受けた」といったニュースは、社員にとっても誇りになるものです。
社内で「こんな取り組みが評価されました」「皆さんの日頃の頑張りが認められました」と伝えれば、社員のモチベーション向上や職場の一体感にもつながるでしょう。
こういった積み重ねが離職防止や企業への愛着につながることもあるでしょう。
どんな取り組みが“広報ネタ”になる?
法定外の休暇制度やフレックス制度
「育児介護休業法で定められている以上に、独自の休暇制度を設けている」「フレックス制や在宅勤務を導入し、男性育休の取得率も高い」――こういった“プラスアルファ”の取り組みは、社外から見ても好印象です。
「あたり前のことなのでわざわざ言うまでもない」と思わずに、広報担当と連携してプレスリリースやSNSを活用して発信しましょう。求人広告や会社説明会で語ってもアピールになります。
キャリア支援や研修プログラム
- 女性管理職の育成プログラム
- 若手・中堅向けのスキルアップ研修
- メンター制度
社員の成長をサポートする取り組みは、くるみん・えるぼし認定を目指す企業だけでなく、職場環境向上を目指すすべての企業にとってアピールポイント。社内の仕組みを上手にPRすることで、採用力や社員満足度が上がるケースも多いです。
実際にどう広報する? 人事×広報の連携
社内広報でまず社員に誇りを持ってもらう
「うちの会社はえるぼし認定を取得したよ」「くるみん認定を取ったよ!」といっても、社員から「それって何?」と思われる可能性もあります。
まずは社内報やメール、全体ミーティングなどで「こういう取り組みをして、こういう認定を受けました」「社員の働きやすい環境づくりに力を入れています」と伝えましょう。社員が自社を誇りに思えば、自然と外部の知人や友人にも伝えていきリファラル採用(知人を採用する手法)にもつながるかもしれません。
採用ページやSNSで外部へ発信
次に、広報担当や採用担当と協力しながら、求人サイトや会社のWebサイト、SNS、プレスリリースなどで認定取得の紹介や社内制度の詳細を発信します。
- 「男性育休取得率◯%」「社員の残業平均◯時間」など、具体的な数値や成功事例を添える
- メインの取り組み内容や今後の目標をアピール
人事労務担当としては、制度の狙いや背景をしっかり伝えることで、伝わりやすくなるでしょう。
法令遵守+αの取り組みがカギ
法令を守るのは当たり前
最低賃金や残業代、社会保険への加入など、法律で義務づけられたことは当然守らなければなりません。これをクリアしていないと、どんなに広報しても逆効果になってしまいます。
ただ「法定基準は守っています」だけでは広報ネタとしては弱いかもしれません。そこから一歩進んで、「有給休暇を積極的に取れるよう工夫」「独自の育児支援策を導入」などプラスアルファの取り組みを作ることで、魅力アップに役立ちます。
認定取得の裏にある努力をアピール
くるみん認定やえるぼし認定などを取るには、行動計画を作って実績を上げる必要があります。
- 育児休業取得率◯%を目指す
- 時短勤務や在宅勤務の導入で残業削減
- 女性の管理職比率を◯%に引き上げる
こういった目標を達成するのは社内のさまざまな部署・チームの協力が不可欠です。認定を取得できれば、その努力や成果も含めて「社員思いの会社」「柔軟に働ける職場」という評価を得やすくなります。
まとめ:労務管理×広報で会社をもっと魅力的に
労務管理は社員の働きやすさを向上させるだけでなく、会社のブランディングや採用力にも影響します。社内制度をしっかり整えたら、広報視点で外部にアピールしてみるのはいかがでしょうか。
- くるみん・えるぼし認定をはじめ、行政の認定制度を活用して企業イメージを高める
- 有給休暇の取得推進や時短勤務、在宅勤務など、法定基準を超える“プラス”の取り組みを作る
- 社内広報で社員の誇りにしてもらう→外部広報で求職者やビジネスパートナーにアピール
「人材が集まらず苦労している」という会社は、労務管理の充実ぶりを発信することで、「こんな働きやすい会社なら応募してみたい!」と思う人材を呼び寄せられる可能性があります。
実際にくるみんやえるぼし認定などを取得して広報する企業では、採用面で「子育てや女性活躍に理解のある会社」と評価されることが多く、社員のモチベーションアップにもつながります。
人事労務を担当する方は「労務管理×広報」という観点をもつことで、会社の魅力を内外にアピールできるチャンスがたくさんあります。
まずは「うちの会社はどんな良い制度があるんだろう?」「社員はどんなふうに受け止めている?」と調べ、情報発信を始めてみるとよいかもしれません。人材確保や社員満足度アップに、きっと役立つはずです。
もう一歩進んで学びたい方へ
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執筆者
米澤裕美 特定社会保険労務士
(https://www.office-roumu1.com)
ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。