はじめての人事労務~初任者のための実務講座~「はじめての就業規則作成」の回では、就業規則は法的効力のある会社運営のルールブックであること、また作成の流れやポイントなど基本的な知識をお話ししました。
ここでは、就業規則作成の具体的な注意点や労働基準監督署への届け出、策定後の運用や改定についてお話しします。
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人事労務が使う書式にはどのようなものがある?
会社で社員を雇うときや、働き方に関するルールを作るときには、法律で決められている書式と、企業の任意で作る書式があります。たとえば、次のようなものです。
◎法律で決まっている書式
- 労働条件通知書(労働基準法第15条に基づく)
- 就業規則(社員が常時10人以上いる事業場では作成・届け出が義務)
- 労使協定書(たとえば36協定など、残業や休日労働を行う場合に必要)
◎会社が任意で作る書式
- セキュリティや情報管理に関する誓約書
- オフィス機器・PCの使用ルールに関する承諾書
- 機密保持契約(NDA) など
法律で求められる書式は、「いつまでに提出しなければいけない」「どんな項目を明示しなければならない」が決まっています。一方、任意で作る書式は、「社員にこういうことを守ってほしい」という会社側の考えを文書化して、トラブルを防ぐために行うイメージです。
法定の書式:労働条件通知や就業規則
労働条件通知書
人を雇ったときに、労働時間や賃金など基本的な働き方の条件を明示しなければいけません。いわゆる「労働条件通知書」や「雇用契約書」と呼ばれるものです。
- 給与額、支払日、就業場所、業務内容、労働時間、休日など、最低限これだけは書いておかないと労働基準法違反になる
- これがないと、後から「約束と違う!」と社員に言われても、会社は反論しにくい
就業規則
社員が常時10人以上いる場合、就業規則の作成・労働基準監督署への届け出が義務になります。「うちは10人いないから…」という会社でも、作っておくとトラブル予防に役立つでしょう。
- 労働条件や社内ルールを総合的に書いた“法的効力があるルールブック”です
- たとえば労働時間、残業の扱い、休職、休暇、退職・服務規程、解雇の手続きなどを掲載
任意の書式も活かしてトラブルを防ぐ
「会社のパソコンを私用でWebにつなぎゲームをしてウィルスに感染したらどうする?」「会社の機密情報を勝手に副業先に持ち出されたら?」など心配は尽きません。法律の書式だけではカバーしきれないこともあるため各社工夫して書面を準備しています。
《例①》セキュリティや情報漏洩防止に関する書式
- 秘密保持誓約書(NDA)
入社時やプロジェクト参加時に、機密情報を外部に漏らさないことを徹底してもらうための書式
- パソコンなどの備品取り扱い、インターネット利用のルール
- 私物のパソコンを勝手に社内ネットワークに接続しない
- ウイルス対策ソフトを必ず導入する など
こういった書式を整備し、社員へ説明することで、セキュリティや情報漏洩防止に対する意識を高められます。
「それくらい言わなくても常識」と思うことでも、社員にとっては常識でないこともあります。「知らなかったばかりに…」というトラブルを未然に防ぐうえで、明文化して周知することは重要です。結果として、リスクの抑止にもつながります。
《例②》トラブル抑止のための書類
- 入社時の誓約書、身元保証書、休職に関する覚書、私物端末の業務利用に関する誓約書、マイカー使用申請書兼誓約書、機密保持および個人情報保護に関する誓約書、退職時の誓約書など
「こんなトラブルが起きたらどうする?」をあらかじめ想定し、書式として整えておくとよいでしょう。
書式を用意するとき、どう作ればいい?
法律で義務づけられているものは、労働基準法や関連省令に規定があります。
任意で作る書式は、会社が自由にフォーマットを決められるため、ネットのひな形や専門家のサンプルをベースにカスタマイズするケースが多いです。ただし、「社員に不当に不利な内容」を盛り込んでも、法的に無効になることがあるので注意が必要です。
専門家に相談
「こういうトラブルを防ぐ書式はないのかな?」と思ったら、社会保険労務士や弁護士に聞いてみるのがおすすめです。
専門家は数多くの事例を見ているので、実務目線のアドバイスをしてくれるはず。ひとりで悩むより早いかもしれません。
はじめて人事・労務担当になった方は、「法律で義務づけられているもの」と「会社が自主的に作るもの」があることを知っておけばOK。
書式は、社員との間で約束ごとを共有する手段でもあります。必要なものを整備して、みなが安心して働ける環境づくりに役立ててください。
法定のもの任意のものなど、こちらのサイトに書式がありますので活用ください。
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執筆者
米澤裕美 特定社会保険労務士
(https://www.office-roumu1.com)
ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。