就業規則とは、会社運営のルールブックであり、企業が労働基準法などの法令に基づき、労働条件や服務規律、職場での具体的なルールを定めた文書です。
労働者と使用者は、この就業規則に従い、互いに誠実に義務を履行しなければなりません。
ここでは、就業規則の基本的な知識を確認するとともに、作成やポイントについてお話しします。
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就業規則は会社運営のルールブック
就業規則とは、企業が労働基準法などの法令に基づき、労働条件や服務規律、職場での具体的なルールを定めた文書です。労働者と使用者は、この就業規則に従い、互いに誠実に義務を履行しなければなりません。
また、就業規則は単なる書類ではなく、会社の「ルールの根拠」となる非常に重要なものです。制度の説明やトラブル防止の場面でも、「当社では就業規則に基づき、このように定めています」と伝えることで、納得感のある対応が可能になります。
たとえば、次のような場面で、就業規則に基づいて説明することがあります。
- 賃金体系や残業代の計算方法
- 出退勤ルール
- 労働時間、休憩時間、始業・終業時刻の規定や変更の可能性
- 遅刻・早退・欠勤時の取り扱い
- 時間外労働や休日労働のルール、振替の扱い
- 有給休暇や特別休暇の取得条件
- 解雇や懲戒処分に関する基準
たとえば、繰り返し遅刻をする、勤務時間中に無断で繰り返しいなくなる、会社の備品を許可なく持ち出す、社外に業務情報を漏らすなど、職場の秩序や信頼関係を損なう行為があった場合、会社はまず注意や指導を行います。それでも改善が見られない場合には、「懲戒処分」を検討することになります。
懲戒処分には、戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇などの種類がありますが、これらを従業員に課すには、就業規則に懲戒に関する規定があることが必須です。懲戒とは、従業員に対する法的な不利益処分であるため、会社側が自由に判断して処分を下すことはできません。どのような行為に対して、どのような処分を行う可能性があるのかを事前にルールとして明記しておく必要があるのです。
また、懲戒処分は会社が一方的に決められるものではなく、労働契約法第15条により、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は無効」とされています。事実確認や本人への弁明の機会をきちんと設け、就業規則に沿った正当な手続きを踏むことが不可欠です。
懲戒処分は、慎重かつ適切に対応しなければ、かえって会社が法的責任を問われるリスクもあります。
信頼関係で成り立っているメンバーなので問題ない?
設立間もない数人の会社では、働く上でのルールが曖昧なままになっているケースも少なくありませんが、創業メンバー間で信頼関係が強く、共通の目標に向かって努力しているうちは問題が表面化しないこともあります。
しかし、たとえば次のような場面がでてきたらどうでしょうか?
- 全員が9時に出社している中で、ある社員だけ10時に出社し、夕方には帰ってしまう
- 会社に出社していない社員に電話すると「今日は有給で休みます」と言い、連日それが続く
- 「残業代が支払われていない」と社員から指摘された
人数が増えるとこうしたケースが残念ながあらでてくるもので、事前にルールが明確になっていないと、トラブルに発展しやすくなります。
だからこそ、会社として最低限のルールを定め、就業規則という形で明文化しておくことが大切です。
就業規則は、社員を縛るためではなく、会社と社員の双方が安心して働けるための「共通のルール」です。早めの整備が、信頼と安定した組織運営につながります。
就業規則についてざっくりおさらい
法的効力がある働き方のルールブック
就業規則は、社員が“どんな時間帯で働き、どんな休暇を取れ、どんな賃金をもらえるのか”といった労働条件や、会社の運営ルールをまとめたものです。具体的には、
- 所定労働時間・休憩時間・休日
- 賃金の決定や計算方法、支給日、昇給や賞与の扱い
- 退職や解雇の事由
- ハラスメント防止や職場の秩序に関する規定
などなど、社員が安心して働くうえで必要な取り決めを明文化します。
届け出と“常時備え付け”の義務
常時10人以上の社員がいる場合、就業規則を作成して労働基準監督署へ届け出なければなりません。その上で、社員がいつでも見られる場所に備え付ける必要があります。
「奥の書庫にファイルを置いてあるだけ」では探しにくく、存在を知らなかったということにもなりかねないため、だれでも見やすいように社内ポータルなどへPDFを掲載するなども工夫の一つです。
作成の流れとポイント
まずは「法定必須事項」をチェック
就業規則には、労働基準法で「ここだけは必ず書きなさい」と指定されている事項(絶対的必要記載事項)があります。
- 始業・終業時刻、休憩・休日・休暇、交替制の場合には就業時転換に関する事項
- 賃金の決定方法や計算・支払いの方法、賃金の締切り及び支払いの時期
- 昇給に関する事項
- 退職・解雇に関する事項
これらは必須事項なので、抜けがないように気をつけましょう。さらに会社独自の福利厚生や手当があれば、それらも盛り込みます。
労働者代表(または労働組合)から意見を聴く
作成時に“過半数代表者”からの意見を聴くことが必要です。就業規則を作成・変更するとき、会社は社員の過半数を代表する人(労働組合があるなら組合、ないなら過半数代表者)から意見を聴き、その意見書をつけて労基署に届け出ます。これは「会社が一方的に不利なルールを作らないように」という法律上の仕組みです。
専門家(社労士・弁護士)を活用する
法令違反を防ぐために、就業規則の書き方に注意しましょう。就業規則を作成する際には、法律に反する内容を記載してはいけないのは当然ですが、専門的な法律用語や法律の解釈など正しく理解しておく必要があります。
-「法定労働時間」と「所定労働時間」、「法定休日」と「所定休日」 など、似ていても法律上の意味が異なる用語がたくさんある
-「懲戒解雇」や「休職制度」 は、書き方や条件の設定を誤ると違法となるリスクがある
たとえば、極端な例だと「社員が1回でも遅刻したら解雇」と就業規則に書いてあったとしても、社員から不服を申し立てられた際に「たった1回の遅刻で解雇は社会通念上、重すぎて不当」と判断されるでしょう。
こうしたトラブルを避けるためにも、社労士や弁護士などの専門家に内容を確認してもらいながら進めることが大切です。専門知識を活用することで、法令違反や不当な規定を避け、適切な就業規則を整備できます。
社内への周知
◎電子化していつでもアクセス可能に
就業規則は、作って労基署に届け出て終わりではなく、社員がいつでも見られる状態にしておく義務があります。
紙のファイルを社内に備え付けるだけでなく、電子化して社内ポータルに載せるなど、アクセスしやすい工夫をしましょう。社員が労務ルールについて疑問に思ったときに、すぐ確認できれば疑問を解消しやすくなります。
◎研修や説明会でポイントを説明
新入社員や管理職向けなど、年に1回くらい研修や説明会を開き、就業規則や労務ルールのポイントや改正点を説明するのもおすすめ。
改定の経緯など背景をセットで話すと、社員が理解しやすいでしょう。
就業規則の決まり
- 常時10人以上の労働者を雇用している会社は必ず就業規則を作成し、労働基準監督署長に届け出なければいけません (労働基準法 第89条)
- 就業規則に必ず記載しなければいけない事項(絶対的必要事項)(労働基準法 第89条)
- 就業規則の作成・変更をする際には必ず労働者側の意見を聴かなければいけません(労働基準法 第90条)
- 就業規則の内容は法令や労働協約に反してはなりません(労働基準法 第92条・第13条)
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執筆者
米澤裕美 特定社会保険労務士
(https://www.office-roumu1.com)
ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。