大野博司の労政時評~報道の現場から~
中小企業にのしかかる人件費 2026年度最賃、5%増の1177円に
<株式会社アドバンスニュース 代表取締役(主筆)/労政ジャーナリスト 大野博司>
今年の最低賃金(最賃)は、全国加重平均(時給ベース)で56円、5.0%アップの1177円となりました。最賃の中央審議会が「目安」で示した55円、4.9%アップをわずかに上回っています。それでも、引き上げ額は昨年の66円に次ぐ過去2番目の高さであり、経営体力の乏しい中小企業には厳しい水準になっています。
政府は石破政権時代、最賃について「2020年代に1500円」を目標に掲げ、審議会にも大幅アップを求めてきました。その結果、アップ率はそれまでの3%台から23年度は4.5%、24年度は5.1%、25年度は6.3%の大幅アップが続き、最賃額も22年度の961円から25年度は1121円と3年間で160円、17%アップに至りました。

しかし、3年連続の大幅引き上げの結果、中小企業を中心に人件費の重圧が深刻化したうえ、高市政権が1500円の実現を「30年代前半」に後ろ倒ししたこともあり、26年度は目安への大幅上乗せの流れは一段落した形です。
26年度の場合、目安を上回ったのは佐賀県の65円(対目安9円アップ)、鹿児島県の64円(同8円アップ)、高知県と沖縄県の63円(同7円アップ)など33府県。14都道府県が目安と同額。また、最高は東京都の1280円で、最低の宮崎県の1085円との開きは195円になりましたが、25年度の203円から格差はやや縮小しました。
また、最賃の発効日についても15都道府県が10月1日の「標準日」とし、最も遅い沖縄県でも12月2日。25年度は地域間の「最下位回避競争」が激化したため、大幅な「目安超え」が続出し、発効日も翌年3月に延ばす県が出るなど、働く側にとっては大幅アップのメリットが薄れる事態も出現しましたが、今年は“正常化”した格好です。
とはいえ、26年度も「大幅」引き上げである点は間違いなく、最賃周辺の給与水準で働く従業員を雇用している企業にとっては、負担感が強まっています。厚労省によると、最賃を引き上げた後にそれを下回る賃金水準になる労働者の比率を示す「影響率」は、23年度に21.6%、24年度に23.2%、25年度に27.7%と年々上がっており、26年度も25年度に近い水準になるとみられています。企業にとっては、最賃の上げ幅が大きいと同時に、対象になる従業員の割合が、年々、増えていることになります。
これらを踏まえ、日本商工会議所など中小4団体はこの4月、「20年代に1500円」の政府目標に対して、「中小企業の経営実態から著しく乖離」しているとして、「企業の支払い能力等の実態を踏まえた水準に見直すべきだ」と政府に要望していました。26年度はある程度、要望に沿う結果になりました。
「人件費高騰」倒産が急増、尾を引く「デフレ下経営」
こうした中小企業の“最賃疲れ”に加えて、今年は消費者物価の上昇率が一段落したことも背景にあります。消費者物価は22年から25年まで3%台で推移していましたが、26年に入って1%台に低下。それもあって毎月勤労統計調査では、名目賃金から物価上昇分を差し引いた実質賃金が、4年続いたマイナスから今年に入ってようやく7カ月連続でプラスになっています。
しかし、今年の夏ごろから飲食料品を中心に値上げが相次いでおり、帝国データバンクによると、主要195社の値上げは9月が4923品目、平均11%と予想され、1年前の3倍に急増。年間でも2年連続で2万品目の値上げが予想されており、その結果、消費者物価は再び上昇の勢いを強め、引いては実質賃金も再びマイナスに落ち込む懸念が高まっています。賃金と物価の“綱引き”は、かなり際どい局面に差し掛かっているとみられます。
東京商工リサーチによると、今年上半期(1~6月)の倒産件数(負債総額1000万円以上)は5346件(前年同期比7.1%増)と5年連続で増え続けていますが、そのうち「人件費高騰」が理由で倒産したのは120件(同2.4倍)に急増しています。中小を中心に、人件費の重圧がのしかかっている実態が浮かび上がるものの、デフレ経済下での「低賃金経営」に慣れ切った日本企業にとって、「再生」の試金石になりそうです。
執筆者
大野博司(労政ジャーナリスト)
中央大学大学院戦略経営研究科(MBA)修士。新聞記者を経て、雇用労働の専門媒体・アドバンスニュースを設立。日本外国特派員協会の労政ジャーナリストとしてHR系雑誌に執筆・寄稿するほか、NHKラジオ「Nらじ」やFMラジオ「Jwave」などに出演し、多様な働き方、地方の労働力、外国人就労などをテーマに解説。











