【専門家の知恵】ハラスメント相談窓口に相談があったとき適切に対応できますか?対応の流れを解説

公開日:2023年11月3日

<いろどり社会保険労務士事務所  内川真彩美/PSR会員>

ハラスメント相談窓口の設置が義務付けられてから1年以上が経過しました。窓口を設置するまでは難しくないかもしれませんが、その窓口はいざ相談があったときにきちんと対応できる体制でしょうか。

対応方法を誤ると、会社への不信感を抱かせてしまう可能性も否定できません。そこで今回は、ハラスメント相談窓口に相談が持ち込まれたときに、どのようなフローで対応していくかを解説します。

 

当事者の話を丁寧に聞く

ここからは、相談があってから対応までの実際の流れを例に説明します。

①相談窓口対応

相談窓口で重要なのは傾聴です。窓口担当者にとっては軽微なことでも、相談者にとっては深刻なことかもしれません。このときの対応が、会社への不信感や二次被害に繋がることもありますので、丁寧に対応しましょう。また、守秘義務があること、不利益取り扱いを受けないことも説明します。

相談時には記録表を作成し、鍵のかかる場所で保管しておきましょう。

②事実関係の確認

相談を受けた後、事実関係を確認します。関係者へのヒアリングが発生しますので、必ず相談者から了解を得た上で行います。中には、誰かに話を聞いてもらうので十分で、具体的な調査までを希望しない相談者もいますので、相談時に確認を行いましょう。

ハラスメントの行為者とされる方に話を聞く際には、中立的な立場に立って行います。よくあるのが、相談者と行為者とで言い分が異なることです。この場合には、目撃者や同様のハラスメントを受けている方にも、ヒアリングを行います。ただし、第三者に話を聞けば、相談内容や相談の事実が広まりやすくなります。そのため、ヒアリングは必要最低限に留め、対象者には守秘義務の説明をして理解してもらう必要があります。

関係者へのヒアリング時にも、記録表を残しておきましょう。

 

ヒアリング結果を元に対応する

③行為者・相談者への措置を検討

ヒアリング結果を元に、相談のあった言動を評価します。「ハラスメントと認定」「ハラスメントと認定はできないが、何らかの対応が必要」「ハラスメントの事実が確認できない」のいずれかに分類できるのが一般的です。

どうしてもハラスメントか否かにばかり考えが及んでしまいますが、ここで重要なのは、「ハラスメントと認定はできないが、何らかの対応が必要」のケースです。それがハラスメントであろうとなかろうと、行為者の言動を不快に思った、就業環境に悪影響を及ぼしている、という事実は変わりません。ハラスメントの認定結果や処分の有無にかかわらず、行為者ないしは相談者の言動のどこに問題があり、どうすればよかったのかを明確にすることを1番に心がけましょう。

ハラスメントと認定された場合には、就業規則の定めに基づき、処分を検討します。その他、処分以外にも、配置転換や研修実施なども再発防止の観点からは効果的です。

④行為者・相談者へのフォロー

ヒアリング結果からその内容を評価して終わりではなく、相談者と行為者のどちらにもフィードバックを行います。前述のとおり、ハラスメントか否かよりも、相談のあった言動の何が問題だったのか、どうすればよかったのかをきちんと説明し、理解してもらいます。当然、ヒアリングの結果、行為者ではなく相談者の仕事の仕方や態度に問題があったと結論付けられることもあります。その場合も、相談者の言動のどこに問題があったのかをきちんと伝えましょう。

相談者や行為者への心のケアも重要です。ハラスメントの行為者とされたことで、行為者の方がメンタル疾患にかかることもあります。産業医やカウンセラーとも連携しながらフォローを行っていくとより丁寧です。

 

再発防止のために職場環境を整備する

⑤再発防止策の検討

行為者への処分や注意、指導だけでは、根本的な解決にならないこともあります。措置後の就業環境が相談者にとって安全か、相談者に定期的にヒアリングすることも効果的です。また、行為者が同じような問題を起こしていないかを、面談などを通して注意深く見ていくことも重要です。

それに加え、再発防止のための恒久対策を検討します。社内コミュニケーションの希薄さが問題なのであればコミュニケーション強化の施策を行ったり、長時間労働による疲労が問題なのであれば業務改善を行うなど、対策を講じていきましょう。近年では、睡眠不足がハラスメントを引き起こしやすくなるとの研究結果も出てきていますので、残業時間を見直したり、勤務間インターバルを導入することも、ハラスメントの予防に繋がる可能性があります。

パワハラ防止法の施行に伴い、経営層からのメッセージを定期的に出す、コミュニケーションや指導育成の能力を昇格条件に入れる、といった企業も増えています。

ハラスメント予防の研修も効果的です。ただ、社内研修として行うと、ハラスメントを受けていた(受けている)人と行為者が顔を合わせる可能性もあるため、外部研修を利用する配慮を検討するのも良いでしょう。また、研修の内容によっては、ハラスメントを受けたことのある人がフラッシュバックを引き起こす事例もあります。すべてのケースを想定して研修を実施することは難しいですが、このような事例もあると知っておくことは大切です。

いかがでしたか。相談があったときに慌てないよう、相談から対処までの流れは早めに把握しておきましょう。

 

プロフィール

いろどり社会保険労務士事務所(https://www.irodori-sr.com/)代表 

特定社会保険労務士 内川 真彩美

成蹊大学法学部卒業。大学在学中は、外国人やパートタイマーの労働問題を研究し、卒業以降も、誰もが生き生きと働ける仕組みへの関心を持ち続ける。大学卒業後は約8年半、IT企業にてシステムエンジニアとしてシステム開発に従事。その中で、「自分らしく働くこと」について改めて深く考えさせられ、「働き方」のプロである社会保険労務士を目指し、今に至る。前職での経験を活かし、フレックスタイム制やテレワークといった多様な働き方のための制度設計はもちろん、誰もが個性を発揮できるような組織作りにも積極的に取り組んでいる。

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