労働組合法第2条、及び第7条で、労働組合に対する使用者側からの経費援助については、利益供与とみなされて原則として禁止されています。
使用者側と労働組合は、相対する利害関係にありますので「一方の存続等のために援助をすることはおかしい」ということが前提にあるからです。また、過大な経費援助を受けているならば、「会社の言いなりになっているのではないか」との疑念も抱き、組合員からの支持を得られなくなることも考えられます。
しかし、原則として不当労働行為として禁止されていますが、「組合の自主性を阻害しない程度」において、労働組合法第2条第2号のただし書で一定の範囲の利益供与を肯定し、同法第7条第3項の不当労働行為の規定についても例外規定を設け肯定しています。
労働組合法第7条第3項ただし書(同第2条第2項ただし書)は、次の通りです。
「ただし、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではなく、かつ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附及び最小限の広さの事務所の供与を除く。」
第2条第2項ただし書と第7条第3項ただし書は同じ内容です。第2条は「労働組合に該当するか否か」の規定で、第7条は「不当労働行為に該当するか否か」の規定です。このただし書によって、労働組合としての要件を満たし、不当労働行為にも該当しない、という取り扱いがなされます。従って、事務所の提供とサイン設置の要求は正当なものと考えられ、使用者として提供及び設置をしても問題はありません。
注意点は、提供及び設置に応じることが不当労働行為とされていないだけであって、必ずしも認めなければならない義務があるわけではありません。「そんなことは組合がすることでしょう。」と突き放しても構わないのです。しかし、その突き放すという措置が組合活動を阻害すると認められるような行為であれば、違法性があるでしょう。
また、複数の組合が併存する場合、一方の組合に対しては事務所の設置を認め、他方の組合には認めないという取り扱いも否認されます(昭和62.4.8 最高裁判決 日産自動車事件)。他方の労働組合を弱体化させようとする行為に他ならないからです。
使用者側の行為が利益供与か否か。相応の援助は認められる場合がありますが、「存続が大事」、「弱体化を図っているわけではない」との理由による過大な援助は、当該労働組合自体が労働組合法に規定する労働組合の要件を満たさなくなる場合もあります。 <社会保険労務士 PSR正会員 笹生裕康>