社員が裁判員に選ばれたら? ~企業の裁判員制度への対応

公開日:2008年10月31日
 平成21年5月21日から裁判員制度が実施されます。この裁判員制度について、平成20年の12月まで(平成20年11月28日頃)に、「裁判員候補者名簿への記載のお知らせ」等の発送が行われることになっています。  企業としては、そろそろ、社員が裁判員(候補者を含む)に選ばれたときの対応を考える必要があります。その際の注意点等を紹介します。

裁判員制度の概要


1 裁判員制度とは
 裁判員制度とは,国民のみなさんが裁判員として刑事裁判に参加し,被告人が有罪かどうか,有罪の場合どのような刑にするかを裁判官と一緒に決めていく制度です。  今までの裁判は「裁判官3人」- 裁判員制度の導入により →「裁判官3人+裁判員6人」  この裁判員制度の対象となる事件は,一定の重大な犯罪です。例えば,殺人罪,強盗致死傷罪,現住建造物等放火罪,身代金目的誘拐罪,危険運転致死罪などが代表的なものです。
2 裁判員の選任
 裁判員は、衆議院議員の選挙権を有する者(欠格事由*1、就職禁止事由*2に該当するものを除く)の中から選ばれます。 *1 義務教育を終了しない者(例外あり)、禁錮以上の刑に処せられた者、心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障がある者 *2 国会議員、国務大臣、一定の国の行政機関の職員、弁護士、弁理士、司法書士、自衛官など    裁判員の選任は、各地方裁判所ごとに行われます。大まかに、裁判員候補者名簿の調製→裁判員候補者の選定→裁判員(補充裁判員)の    選任*という手続で行われます。 * 裁判の当日に、裁判員候補者の中から1事件について50人程度(辞退が認められる者等を除く)を裁判所に呼び出し、その中から、6人の裁判員を    選任する。必要に応じて補充裁判員も選任する。  裁判員候補者名簿は年単位で調製されます。その準備を前年の秋頃から始めます。その裁判員候補者名簿に記載された人の中から、その年の一定の刑事裁判について、事件ごとに裁判員候補者、そして裁判員(補充裁判員)が選ばれるわけです。今後は、このような作業が繰り返し行われることになります。 ★ 制度の開始は平成21年5月21日からですが、平成21年用の裁判員候補者名簿の調製等の作業が、平成20年の秋ごろから始まっているということです。
◆ 裁判員の選任までの流れ ◆
前年秋頃…裁判員候補者名簿を調製
各地方裁判所ごとに,管内の市町村の選挙管理委員会がくじで選んで作成した裁判員候補者予定者名簿に基づき,翌年の裁判員候補者名簿を作成。
前年12月頃まで…候補者に通知(今はこの時点に該当)
候補者に、「裁判員候補者名簿への記載のお知らせ」等を発送し、裁判員候補者名簿に登録されたことを通知。この際,就職禁止事由や客観的な辞退事由に該当しているかどうかなどをたずねる調査票を送付。この段階では、裁判所へ行く必要ない。なお、調査票を返送してもらい,明らかに裁判員になることができない人や,1年を通じて辞退事由が認められる者は,裁判所に呼ばれることはない。
事件ごとに裁判員候補者名簿の中から,くじで裁判員候補者を選定
原則として裁判の6週間前まで…呼出状の送付
くじで選ばれた裁判員候補者に質問票を同封した選任手続期日のお知らせ(呼出状)を送付。裁判の日数が3日以内の事件(裁判員裁判対象事件の約7割)では,1事件あたり50人程度の裁判員候補者に呼出状を送る予定。質問票を返送してもらい,辞退が認められる場合には,呼出しを取り消すので,裁判所へ行く必要はない。
裁判の当日①…選任手続
裁判員候補者のうち,辞退を希望しなかったり,質問票の記載のみからでは辞退が認められなかった者は,選任手続の当日,裁判所へ行くことになる。裁判長は候補者に対し,不公平な裁判をするおそれの有無,辞退希望の有無・理由などについて質問をする。候補者のプライバシーを保護するため,この手続は非公開とする。
裁判の当日②…6人の裁判員の選任
最終的に事件ごとに裁判員6人を選任(必要な場合は補充裁判員も選任)。通常であれば午前中に選任手続を終了し,午後から審理を開始。

3 裁判員や裁判員候補者等の日当
日当の具体的な額は,選任手続や審理・評議などの時間に応じて,裁判所に呼び出された裁判員候補者については1日当たり「8,000円以内」,裁判員・補充裁判員については1日当たり「1万円以内」で,決められます。 たとえば,裁判員候補者の方で、裁判員に選ばれなかった方については,選任手続が午前中だけで終わるので,最高額の半額程度が支払われるものと思われます。 なお、裁判所に呼び出された場合(裁判所に出頭した場合)には、日当のほかに、旅費,宿泊料(宿泊が必要な場合)も支払われます。なお,旅費,宿泊料の額は,最高裁判所規則で定められた方法で計算されますので,実際にかかった交通費,宿泊費と一致しないこともあります。

企業の対応

 『裁判員制度の円滑な実施のための行動計画(平成17年8月3日裁判員制度関係省庁等連絡会議)』の中に、「労働者が裁判員の職務を行う場合等が労働基準法第7条の公の職務に該当する旨の通達を発出し,使用者は労働者が裁判員の職務に必要な時間を請求した場合には拒んではならないことについて周知を行うとともに,裁判員の職務を行うために休暇を取得したこと等を理由とする不利益取扱いの禁止を徹底する。」とあります。  ここに書かれたことへの対応が、企業にとって最も重要です。
1 労働基準法第7条(公民権の行使の保障)の遵守
① 裁判員の職務は公の職務?  上の『裁判員制度の円滑な実施のための行動計画』の中にある通達は、現時点ではまだ発出されていませんが、最新の最高裁判所のホームページでは、「裁判員の仕事に必要な休みをとることは法律(労働基準法第7条)で認められています。」と断言しています。  したがって、“労働者が裁判員の職務を行う場合等”が労働基準法第7条の公の職務に該当することは明らかです。裁判員候補者として裁判所に出頭する場合、裁判員(補充裁判員)に選任され裁判に参加する場合は、上の“労働者が裁判員の職務を行う場合等”に含まれるでしょう。 ② 労働基準法第7条とは?  条文を確認しておきましょう。
<条文>労働基準法第7条(公民権行使の保障)  使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。ただし、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。
 労働者が裁判員の職務を行う場合等は、労働基準法第7条の公の職務に該当します。したがって、たとえば、社員(労働者)から「裁判員候補者として裁判所に呼び出されたので、裁判所に行かせてください」といった請求があれば、企業(使用者)は、たとえ労働時間中であっても、そのために必要な時間を与えなければならないことになります。  この労働基準法第7条違反には、「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」という罰則があります(労働基準法第119条)。注意しましょう。  なお、労働基準法第7条には、賃金についての定めはないので、与えた時間を有給にするか無給にするかは当事者の自由と通達されています(昭和22年基発第150号)。
2 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第100条(不利益取扱いの禁止)の遵守
 まず、条文を紹介します。この条文は、上の『裁判員制度の円滑な実施のための行動計画』の中の一文を、具体化したものです。
<条文>第100条(不利益取扱いの禁止)  労働者が裁判員の職務を行うために休暇を取得したことその他裁判員、補充裁判員、選任予定裁判員若しくは裁判員候補者であること又はこれらの者であったことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
 社員(労働者)が「裁判員候補者として裁判所に呼び出されたので、裁判所に行きます。その日は仕事も手につかないと思うので会社を休みます」ということで休暇を取得したような場合、それを理由として、解雇その他不利益な取扱いをしてはならないことになります。当たり前のことですが、それを確認的に規定したものです。  なお、この規定(第100条)違反の罰則はありません。しかし、違反していれば、行政指導などは免れないでしょう。
3 就業規則等の改訂が必要!
 裁判員休暇制度を創設するか否かが最大のポイントです。  裁判員休暇制度についてですが、このような休暇制度を創設する義務はありません。従来から定めている公務に就く場合のルールを適用することとしても問題はありません。  仮に、裁判員休暇制度を創設するとしても、その休暇を有給とする義務はありません。有給にするとしても、裁判員等としての日当がある場合は、休暇日の賃金からその日当の分を差し引いて問題はないでしょう。  このように、さまざまな選択肢がありますが、裁判員制度に対応するための就業規則等の見直しは急務といえるでしょう。『裁判員候補者名簿への記載のお知らせ』がもうすぐ発送されますから…

【参考資料】「裁判員制度実施に向けた企業の対応調査(労務行政研究所)」の結果の概要
平成20年9月発表
  • 社員が裁判員に選任され休務する場合の取扱いを「すでに決めている」企業は46.5%。
  • その対応は「従来から定めている公務に就く場合のルールを適用」が62.8%で最多。「裁判員休暇を新設」した企業は23.9%。
  • 休務時に休暇を付与する場合の取扱いについては、「有給扱い」が9割を占める。

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