【専門家の知恵】会社が雇い止めをする際の注意点

公開日:2022年5月6日

<社会保険労務士法人ステディ 瀧本旭/PSR会員>

 

 昨今のコロナ禍による業績悪化で、飲食業や旅行業をはじめとした労働者(有期契約労働者等)の雇い止めを検討している企業は増えているのではないか。
「従業員の雇い止めを行う場合、どのようなことに気をつける必要があるのでしょうか。」との質問に答える形で解説をしたい。

 

雇い止めとは?

  雇い止めとは、雇用契約の期間が決まっている労働者に対しての雇用契約を更新せずに、期間満了として終了することである。

本来、期間を定めて雇用契約を締結している以上、その期間が満了したのであれば雇用契約を終了するのが当然である。
しかし、一定の間雇用を継続したにも関わらず、契約を更新されないという事態になると、労働者としては由々しき事態になることは明白だろう。
このような労働者保護の観点から、一定の条件を満たす場合には、雇い止めは無効とされる。
例えば、労働者が「契約更新は間違いないだろう」と期待しても仕方がないような客観的状況(雇用開始時しか書面での雇用契約を締結せず、契約更新が自動的に反復継続されている=実質的に無期雇用と変わらない形)があれば労働者との雇用契約を終了することはできない。

 

注意点

  雇い止めを行う際の、注意点をいくつか説明したい。

・雇用契約内容(業務内容)について
 そもそも有期契約は、ある特定の業務について臨時的に依頼するためのものであることが多い。であれば、その業務自体が無くなったことによる雇い止めであれば労働者の理解も得やすく雇い止めを認められやすいだろう。そのため、雇用契約締結時から業務内容について特定し、明確にしておくことが望ましい。

 

・労働者への説明と理解
 雇い止めによるトラブルを回避するためには、なによりも労働者への説明と理解を得なければならないだろう。
雇い止めの理由としては下記の例がある。

1.前回の契約更新時に、 本契約を更新しないことが合意されていたため
2.契約締結当初から、 更新回数の上限を設けており、 本契約は当該上限に係るものであるため
3.担当していた業務が終了・中止したため
4.事業縮小のため
5.業務を遂行する能力が十分ではないと認められるため
6.職務命令に対する違反行為を行ったこと、 無断欠勤をしたこと等勤務不良のため

 例えば1.の契約更新時には本契約を更新しないことが合意されていたことを証明できる書面等のエビデンスを用意したり、5.の業務を遂行する能力が十分ではないなら、何ができればよかったのか・どこが不足していたのか・比較対象者や基準は適正なのか等それぞれの理由について可能な限り、客観性や妥当性を持たせて説明することが望ましいだろう。
上記のような理由のもと、雇い止めについては有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があり、雇い止めが客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当でなければ無効となる。
 使用者が合理的な理由があると判断して雇い止めを行ったとしても、労働者が納得できず訴訟にまで発展してしまうケースも散見される。

 

 判例

 ここで上記を踏まえ、判例を紹介したい。

 この事件は、1年ごとの有期労働契約を約30年間、29回にわたって、更新・継続されてきた契約社員が、労働契約法の無期転換ルールの施行を契機とする雇い止めが無効であると争った。

 詳細については省略するが、結論として、本件では約30年間も形式的に契約更新を繰り返しており、また業務実績に基づいて更新の有無を判断するという条項から、労働者の更新に対する期待については合理的な理由があるとされた。そして、企業が主張している人件費の削減や業務効率の見直しという一般的な理由では、本件の雇い止めについて合理的な理由はないとされ、雇い止めが無効となったのである。(「有期労働契約において,更新を原則として5年とする旨の規定に基づく雇止めの有効性が否定された事例(博報堂事件,福岡地裁令和2年3月17日判決)」)

 

まとめ

 繰り返しになるが、雇い止めは有期労働契約者との契約更新を拒否することであるが、本来の契約内容(有期契約)からすれば、契約期間が終了したことによる雇い止めであれば違法性もなく当然に辞めさせることができるはずである。

 しかしながら、判例にもあるように労働者が契約更新を期待してしまうような言動や行動(例えば、「引き続き期待している」「○○さんがいてくれて本当に助かってる」「○○さんがいないと業務が回らない」等の言動、問題行動を繰り返す労働者に対して注意指導もせず、自らの言動や態度を反省させることや行動の改善を促すことをしないなどの企業の姿勢や、明確な判断基準もなく有期契約労働者との契約更新について労働者と話しあいをしたことがなかったり、契約更新を拒否したことがない等)がみられたときには、契約更新を期待することはやむを得ないことと判断され、違法な雇い止めと判断される恐れがあるので十分に留意しなければならない。
雇い止めを行う際には、少なくとも1か月前にはその旨を伝えて次の職場を探す時間的余裕を与えたり、可能な限り労働者の理解を得られるよう誠意ある対応が求められる。

  

プロフィール

社会保険労務士法人ステディ  代表社員瀧本 旭
https://steady-sr.com/
大学卒業後、自動車ディーラーや社会保険労務士事務所での勤務を経て、2013年10月社会保険労務士たきもと事務所を設立。2018年10月、社会保険労務士法人ステディとして法人化。
ビジョンに、社員の満足度向上あってこそ顧客にベストなサービスを提供できるとの考えから、「働き方満足度日本一の事務所」を掲げている。

 

 

 

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