【私が知的障害者に携わる理由】第1部 知的障害の障害年金サポートの必要性

公開日:2021年7月13日

皆さんは知的障害者がどの様に生活しているか知っていますか?

働いた稼ぎで自立している、親に養ってもらっている等様々な意見があると思いますが、一番多いのが障害者年金で生活しているではないでしょうか?

漠然と障害者=年金のイメージは皆さんもっているようですが、どの様な手続きでいくら受給できるのか?大多数の人は理解していませんし、そもそも障害者年金ではなく障害年金で名前ですら正式に理解されていません。

ここでは、メジャーなのかマイナーなのかよく分からない障害年金を特に知的障害の視点かから少しお話しします。

障害年金はメジャー?マイナー?

障害年金はメジャーなのかマイナーなのか、知られているようで知られていない部分についてお話しします。

老齢年金は65歳まで生きている国民なら必ず直面する年金で、年金といえばこの老齢年金を指す場合が多いと思います。その反面障害年金は当然ながら障害者を対象にした制度で端的に表現すると元気な人は受給できません。日本に障害者が何人いるか分かりませんが、老齢年金は一定年齢まで生存していれば必ず直面する問題、一方障害年金は障害者にならないと受給できない制度と考えると障害年金のマイナー感は当然の帰結です。この様な障害年金制度自体の認知度の低さから障害者年金といった間違った表現で説明されたりすると誤解されているのではと感じています。

障害者は必ず年金が受給できるの?

障害者年金と言われるように障害者=年金と関連付けされて議論される場合が多いですが、障害者だから必ず年金受給できる訳ではありません。

障害年金の目的は障害により日常生活に一定の制限が加わる場合の救済にあり、その救済方法が金銭給付となります。そのため、いくら障害が有っても一定の制限が加わらない程度の障害では年金受給はできません。

では、その日常生活の制限はどの様に審査されるでしょうか?医師の診察が有るの?と疑問が生じます。障害年金の審査は全て書面審査で、診断書の記載内容で年金受給の可否が決まります。そのため、障害者自身やそれを支援する人達は本人自身の生活状況をきちんと診断書に落とし込むためにヒアリングなどを行うことになります。事実として請求者が生活するに周囲の多大な援助が必要であったとしても診断書にその事実を落とし込めない場合は障害年金を受給できない可能性があります。

知的障害の障害年金サポートの必要性

障害者政策は身体障害中心に構成されてきた歴史が有り、障害者運動等の歴史を経て知的障害、最近になりようやく精神障害がクローズアップされてきましたが、私が歴史が長い身体障害や最近注目された精神障害ではなく知的障害を取り上げるには理由があります。

私が社労士開業する以前は大阪市西成区の社会福祉法人にて障害者の就労支援業務に従事していました。西成区は大阪市内の生活保護受給率の23%を占める地域(大阪市HP「大阪市の生活保護の状況」)で西成区内でも世帯の33%(大阪市HP「大阪市の生活保護の状況」と西成区世帯数より算出)が生活保護世帯である経済的に厳しい環境下にあります。業務を通じて家族全員が知的障害を抱えている家庭や高齢親が知的障害の子を支えている家庭、親亡き後の中年知的障害者等が課題をもちながら生活されている人たちを知り支援をしてきました。その様な知的障害者の方に共通したのが情報難民という側面です。健常者なら当然知っている様な内容も知らない人が多く、障害年金に関してはそもそも存在すら知らなかった、以前請求したけどダメだったので諦めて放置していた方は多かったです。

自ら障害年金に関する情報を取得できない以上、周囲が伝えないと知ることはありません。また自分で申請して一度ダメなら周囲がサポートしないと年金受給は難しいでしょう。

古いデータになりますが、平成17年度知的障害児(者)基礎調査結果によると約3割の知的障害児(者)が年金や手当を受給していないことがわかります。

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そして不支給理由を見ると制度の不知が約15%で障害程度が軽いが約50%を占めています。知的障害の発覚は小学校入学までに発覚が52.4%で、18歳未満が79%で発覚していること(「平成17年度知的障害児(者)基礎調査結果」より)から、発覚から何かしらの公的なサービス(支援学校に入学する、障害者手帳を取得する、障害福祉サービスを利用する。)を受けている可能性が高い中で15%も障害年金制度の不知があること自体、社会から孤立している知的障害者が一定程度存在していることが理解できます。

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不支給理由の過半数を「障害が軽いため」が占めていますが、では障害年金を受給できない知的障害者はどの様に生活していくのでしょうか?

障害者雇用で就労する知的障害者の給料は7万~10万円程度の雇用保険加入程度が一番多く社会保険加入基準以上就労している障害者は全体の10%程度しか存在しません。仮に15万円稼いでも年金が無いなら手取りは12万円程度しかありません。この金額で単身での生活は不可能に近くなります。

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知的障害者が置かれている状況が何となく理解できたかと思います。一定数の無年金障害者の存在、無年金の理由が制度の不知に代表される情報難民で、仮に情報を知っていても「障害が軽い」との理由で不支給となっている人達です。障害年金が無い障害者は親の扶養で生活しているのでしょうが、親が亡くなればどうなるのでしょうか?

親が亡くなってから慌てるのではなく就労できる力がある知的障害者は少しでも早く障害年金を取得しておいて自活できる生活基盤を構築しておくべきと私は思います。

執筆者

210713shima yoshihiro島 宜宏(しま よしひろ)氏

あずさ国際年金・労務事務所 所長  社会保険労務士

大学卒 在学時に社会保険労務士合格し、約7年大阪市西成区にある社会福祉法人に勤務し障害者への就労支援や生活支援の業務に従事する。地域的な課題が多いとされる西成区で実際に障害者支援を経験することで、構造的な貧困の連鎖や社会保障制度の不知等を知り、所得補償制度としての障害年金の重要性を理解する。その後は障害者雇用と障害年金の両立を提案し1人でも多くの障害者が自立できるようにサポートしていく。2019年 あずさ国際年金・労務事務所 開設。

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知的障害者が主に受給する「20歳前の障害基礎年金」を中心に年金の手続きの進め方を解説したDVDで、実際に島先生が実務で使用されている日常生活能力に関する聞き取り項目、就労歴等のヒアリング項目なども、参考資料として特典でお付けしており、ノウハウをそのまま活かせる内容となっております。

 

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