【社長の年金シリーズ】年金に「配偶者の割り増し」が付かない社長の特徴とは?<前編>

公開日:2025年8月14日

 

社長の年金シリーズ

年金に「配偶者の割り増し」が付かない社長の特徴とは?<前編>


<コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀信敬/PSR会員

>>>連載:社長の年金シリーズ

老後に受け取る年金は、年金制度への加入実績に応じて額が決定されるのが原則である。ただし、扶養する配偶者がいる場合には、年金額を割り増す仕組みも用意されている。

ころが、現実には「年金に割り増しが付くと思っていたのに、付いていない」との声が少なくない。そこで、今回から2回にわたり、老後の年金に「配偶者の割り増し」が付く仕組みを整理してみよう。

家族構成を考慮して決定される老後の年金額

日本の年金制度では、年金を受け取る人に養っている家族がいる場合には、経済的負担の大きさを鑑みて「通常よりも割り増した年金」を受け取れる仕組みが用意されている。例えば、老後の年金を受け取る人に扶養する配偶者がいると、配偶者加給年金額という名称の割り増しが上乗せされることがある。配偶者を養っていることにより、老後の年金が約40万円近くも増額されるのである。

しかしながら、老後の年金に付く配偶者加給年金額は、配偶者がいれば必ず受け取れるわけではない。残念ながら、上乗せが行われるときと行われないときがある。

経営者仲間で年金談議に花を咲かせていると、他の社長の年金には配偶者加給年金額による割り増しが付いているのに、自分の年金には同様の割り増しが付いていないことに気付くことがある。そのようなときは、得てして「年金事務所が事務処理を誤ったのではないか」などと考えがちである。

わが国の年金行政が過去に犯した不祥事を考えれば、そのように思いたくなるのも致し方ない。ところが、ほとんどの場合は「配偶者の割り増しが付く条件を、自分自身が満たせていない」というのが、年金に上乗せが行われない理由のようである。

 

《ケース1》個人で事業を営んでいる場合

それでは、老後の年金に配偶者の割り増しが付かない具体的な事例を紹介しよう。最初は、自身の職場を会社形態にしていない場合である。

例えば、学校を卒業後、フリーランスとして経験を積んだ後に、自身の事務所を立ち上げて個人で運営をしている経営者がいるとする。年金には40年間加入し、保険料はもれなく納めている。

ところが、この経営者が受け取る老後の年金に、扶養する配偶者がいることによる割り増しが付くことはない。理由は、厚生年金に加入したことがないからである。

老後の年金に配偶者の割り増しが付くためには、厚生年金の老後の年金である老齢厚生年金を受け取れる必要がある。しかしながら、フリーランスや個人で事務所を経営する人が加入するのは国民年金のみであり、厚生年金には加入することがない。そのため、受け取れる老後の年金は、国民年金の老齢基礎年金のみとなる。老齢基礎年金には配偶者の割り増しは付かないため、このケースでは増額された老後の年金を受け取れることはないのである。

 

《ケース2》厚生年金の加入期間が短い場合

配偶者の割り増しが付かない2番目のケースは、厚生年金の加入期間が短い場合である。

民間企業で10年間勤務した後に退職し、起業したケースを考えてみよう。独立後は個人事業者として活動していたが、年金をもらい始める前年には念願の法人成りを果たし、自身は代表取締役に就任したとする。厚生年金には、会社員時代の10年間および法人成り後に加入している。

前述のケース1と異なり、このケースでは厚生年金に加入していた期間があるので、老齢厚生年金をもらうことが可能である。しかしながら、この経営者が受け取る老齢厚生年金にも、扶養する配偶者がいることによる割り増しは付かない。理由は、厚生年金の加入期間が、配偶者の割り増しを受けるには不十分だからである。

老齢厚生年金に配偶者の割り増しが付くためには、原則として厚生年金に20年以上加入した実績が必要とされる。つまり、働いた期間の半分程度は厚生年金に加入していなければ、割り増し分が上乗せされることはないのである。このケースでは厚生年金の加入実績が20年に満たないため、配偶者の割り増しがない老齢厚生年金しか受け取ることができないことになる。

 

《ケース3》夫婦ともに厚生年金に長く加入した場合

最後は、夫婦ともに厚生年金に長く加入したために、配偶者の割り増しが付かないケースを紹介しよう。

夫は父が創業した会社に入社後、事業を承継して代表取締役を務めている。厚生年金には40年加入した実績がある。一方、妻は夫の会社の経理担当を長く務めてきた。子供に手が掛かる時期以外は仕事を継続していたため、厚生年金の加入実績は25年ある。どちらも、老後の年金を受け取る年齢を迎えたとしよう。

この場合、夫は厚生年金に40年も加入したのだから、当然、配偶者の割り増しが付いた老齢厚生年金を受け取れると思えるかもしれない。ところが、この経営者が受け取る老齢厚生年金にも、割り増し分が上乗せされることはない。理由は、妻が「厚生年金に20年以上加入した実績に基づく年金」を受け取れるからである。

厚生年金には、割り増しの対象となる配偶者自身に「厚生年金に20年以上加入した実績に基づく年金」を受け取る権利がある場合、配偶者の割り増しは付けないというルールが存在する。「配偶者が自分名義の年金を十分に受け取れるのだから、割り増しは不要」とされるためである。

上記の場合、年金を受け取る年齢になった妻には「厚生年金に25年加入した実績に基づく年金」を受け取れる権利があるので、夫は割り増しのない老齢厚生年金しか受け取ることができないのである。

老後の年金に配偶者の割り増しが付かないケースはまだまだある。次回は、後編としてその他のケースをご紹介しよう。

 

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プロフィール

コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀 信敬

(組織人事コンサルタント/中小企業診断士・特定社会保険労務士)

コンサルティングハウス プライオ(http://ch-plyo.net)代表

中小企業の経営支援団体にて各種マネジメント業務に従事した後、組織運営及び人的資源管理のコンサルティングを行う中小企業診断士・社会保険労務士事務所「コンサルティングハウス プライオ」を設立。『気持ちよく働ける活性化された組織づくり』(Create the Activated Organization)に貢献することを事業理念とし、組織人事コンサルタントとして大手企業から小規模企業までさまざまな企業・組織の「ヒトにかかわる経営課題解決」に取り組んでいる。一般社団法人東京都中小企業診断士協会及び千葉県社会保険労務士会会員。


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