【専門家コラム】災害発生時の労務管理<第2回/全3回>出社させるか否か、出社できない場合の勤怠をどうするか

公開日:2024年10月28日

 

災害発生時の労務管理<第2回>

災害時に出社させるか否か、出社できない場合の勤怠をどうするか


<寿限無(じゅげむ)経営コンサルティング 代表 福田惠一/PSR会員

 

「災害発生時の労務管理」について、第1回では、社員の安全を第一に事前に具体的に検討しておくべき事項を8つ提示しました。

第2回、続く第3回は具体的に検討すべき事項について、深堀りして解説していきます。 

労務管理上検討すべき事項

(1) 出社させるか、または退社させるかの判断基準
(2) 出社しない場合、有給の休暇とするか、休業補償するか、欠勤とするか、あるいは「自宅などでのテレワーク」とするか  
(3) 会社や自宅での待機時間の労働時間性の判断
(4) 賃金支払い等の義務
(5) 36協定上の労働時間規制
(6) 労働災害
(7) 労務管理規定
(8) 災害時の緊急連絡先の登録と個人情報の保護

 

>>>災害発生時の労務管理<第1回/全3回>「安全第一」を最優先に災害対策で検討すべき8項目とは?

 

(1)出社させるか、または自宅待機させるかの判断基準

台風の襲来、地震発生時に社員の出社を求めるか自宅待機とすべきか、何を根拠に判断を下すべきか。この点については、

➀各自治体の発する警戒レベル、➁交通機関の運行状況、➂通勤途上の安全性、④建物の安全性

これらの状況を基に判断します。

 

➀各自治体の発する警戒レベルは、「特別警戒警報」が発せられるかどうか

「特別警戒警報」は、平成25年8月30日から気象庁より発せられるようになったもので、「警報」の発表基準をはるかに超える大雨や大津波等が予想され、重大な災害が起こるおそれが著しく高まっているため、住民に最大級の警戒を呼びかけるものです。

「○○特別警報」という名称で発表するのは、大雨、暴風、高潮、波浪、大雪、暴風雪の6種類です。

津波については「大津波警報」、火山噴火については「噴火警報(居住地域)」、地震については「緊急地震速報」(震度6弱以上または長周期地震動階級4を予想したもの)を特別警報に位置づけています。

「洪水」を対象とした特別警報はありませんが、「指定河川洪水予報」の発表や「水位情報の周知」等があります。

これらの情報を基に、地元自治体が「警戒レベル5」の緊急安全確保を住民に求めます。

従って、このレベルとなったときには、社員の安全確保のためには出社を求めることはできないと判断されます。

また、その前段階にある「警戒レベル4」にあっても、極力出社させないことが求められます。

 

防災気象情報をもとにとるべき行動と、相当する警戒レベルについて」(内閣府)
警戒レベル 情報 取るべき行動
警戒レベル5相当 ・大雨特別警報
・氾濫発生情報
・キキクル(危険度分布)「危害切迫」(黒)
地元の自治体が警戒レベル5緊急安全確保を発令する判断材料となる情報です。何らかの災害がすでに発生している可能性が極めて高い状況となっています。命の危険が迫っているため直ちに身の安全を確保してください。
警戒レベル4相当 ・土砂災害警戒情報
・キキクル(危険度分布)「危険」(紫)
・氾濫危険情報
・高潮特別警報
・高潮警報
地元の自治体が警戒レベル4避難指示を発令する目安となる情報です。危険な場所からの避難が必要とされる警戒レベル4に相当します。 
災害が想定されている区域等では、避難指示が発令されていなくてもキキクル(危険度分布)や河川の水位情報等を用いて自ら避難の判断をしてください。

➁交通機関の運行状況

公共交通機関により通勤している場合は、最近では、大型の台風の接近・上陸が予想される場合には、かなり早い段階で各交通機関が「計画運休」の対応を決定するため出社することができません。

そのため、会社としては「交通機関の運行状況」をできるだけ正確にキャッチすることが必要です。

➂通勤途上の安全性

マイカーによる通勤の場合は、経路となっている道路の状況の把握が必要です。

激しい風雨や信号機故障等によって渋滞が発生したり、走行中の暴風雨等による事故発生リスクが大きくなります。

山間部では土砂崩れの発生や河川の氾濫による通行遮断も予想されます。

④建物の安全性

建物の安全性については、暴風雨等によって、自宅建物の損壊や浸水のため、避難が必要となる可能性があります。

このような場合は、出社どころでなく自治体からの避難誘導に従うことが求められます。

自然災害はいつ発生するか正確には予測できません。大地震も発生の高いと言われていなかった地域でも多く発生しています。

どのような場合に自宅待機とするかの基準を明確に決めていないと、「何としてでも出社したい」という思いの社員や、逆に「通勤途上の危険がある出社に対する恐怖心」を抱く社員が、各々思いをいだきつつ出社か自宅待機かで心的葛藤に悩むことになります。

そのため、出社か自宅待機かの基準を明示して、普段から社員に周知徹底しておくことが重要です。

ここで、災害時の対応が社員で判断できるように記した文書を例

示します。この、「災害時の対応について(例)」を参考にしつつ、自社の事情を加味して作成していただければと思います。

そのうえで、現実の災害発生時に社員に対する指示が、正確かつ迅速に伝わる仕組みとして、「安否確認システム」を構築しておくことが求められます。

 

(2)出社できない場合の対応

警戒レベル4または5で、社員が出社できない場合、その日の勤怠をどうするかについては、以下の4通りが考えられます。

①災害時の特別休暇(有給か無給か)とする
②有給休暇取得を奨励する
③振替休日とする
④自宅(含むサテライト等)でのテレワークとする

➀災害休暇(有給または無給)とする場合

令和5年7月版 の厚生労働省「モデル就業規則」には、慶弔休暇や病気休暇の定めはありませんが、「災害休暇」として以下のような規定を定めている会社も少なくありません。

  • 地震、水害、火災その他の災害又は交通機関の事故等の社員の責によらない原因によって、出勤が著しく困難、又は遅刻早退した場合
  • 自家用車による出勤の場合も、道路事情によって出勤が著しく困難、又は遅刻早退した場合 
  • 台風や大雨による洪水などの危難が去ったあとも交通機関(公共交通機関及び道路状況)が途絶して出社できない場合

以上の場合、電話・メール等で「出勤できない(遅刻・早退となる)」旨を会社に連絡し、事後速やかに非常災害時特別休暇取得(遅刻・早退)届を提出したうえで、1日単位または時間単位の災害休暇とする。

②有給休暇取得を奨励する

一般の有給休暇は、働き方改革の施策の中でも最低5日の消化が義務化される等その取得が奨励されています。

会社が不可抗力により労務提供が受けられない日に有給休暇を奨励することに問題はありません。

ただ、既に有給休暇を消化してしまっていたり、今後、別の事情で有給休暇を取得したいと考えている場合、有給休暇の取得を強制することはできません。

③振替休日とする

これは、休日出勤で行わせる業務があれば、出勤が可能となったときに休日出勤をさせることができます。ただ、この措置はあまり社員が望まない可能性があります。

④テレワーク(自宅勤務、含むサテライト)

コロナ禍の急速に広まったテレワークですが、コロナの終息により利用が減少しています。

しかし、その際に構築された通信設備を利用してテレワーク可能業務を遂行させることができます。従って、それが可能な業務がある社員はテレワークとします。

 

>>>災害発生時の労務管理<第1回/全3回>「安全第一」を最優先に災害対策で検討すべき8項目とは?

 

プロフィール

福田 惠一
寿限無(じゅげむ)経営コンサルティング代表

金融機関にて営業・融資を担当後、同総合研究所で人事金制度構築コンサルの経験を積み、退職後「寿限無経営コンサルティング」を開業。上場会社総務顧問も経験。経営の観点と社員の双方にとっての望ましい労使関係構築支援のため、人事・賃金・考課制度の整備、人事労務トラブル対応、紛争予防のための社内規程整備、マネジメント研修・ハラスメント研修等社員各層への研修、各種助成金申請支援等に注力。

 

 

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