【専門家コラム】育児や介護に柔軟に対応可能!テレワークを活用した新しい働き方「遠隔地勤務制度」とは

公開日:2024年5月14日

 

育児や介護に柔軟に対応可能!テレワークを活用した新しい働き方「遠隔地勤務制度」とは


<社会保険労務士法人出口事務所 久保寺亮太/PSR会員>

「子育てや介護により実家に引っ越したい!」「趣味やプライベートの充実のため地方移住したい!」「地元を離れたくない!」など従業員からの相談に悩んでいませんか?

最近は、「遠隔地勤務制度」を導入する日本企業が増えています。

なぜなら、制度を導入することにより育児介護への参画や単身赴任解消、趣味プライベートの充実など、従業員のライフスタイルに応じた柔軟な働き方を実現することできるからです。

今回は「遠隔地勤務制度」について解説します。

 

「遠隔地勤務制度」とは

「遠隔地勤務制度」とは、従来のテレワークの枠組みでは限界のあった郊外での育児や介護にも柔軟に対応できる多様な働き方を実現するため、通勤圏外に居住し、テレワークを活用した業務を行うことを目指す制度で、総務省も近年「ふるさとテレワーク」を推進しています。

「ふるさとテレワーク」とは、「いつもの仕事をどこにいてもできるよう、バーチャルオフィス等の孤独感を感じさせないツールを活用し、地方へUターン(Iターン)しても、自宅やサテライトオフィス/テレワークセンターでの就労を可能とする雇用型・自営型テレワーク」をいいます。

既存従業員にとっては、親族の介護や看病による精神的負担の解消、帰郷や実家継承、理想の地への転居、趣味やプライベートの充実、新規採用者の場合は、地元を離れたくない若しくは離れられないといった場合に活用することが期待されています。

企業にとっても、オフィスの維持費用削減や地方創生、多様な人材獲得を促進できる可能性もありますし、柔軟な働き方によって従業員満足度が上昇すればモチベーション向上、パフォーマンスの最大化によって生産性も向上するでしょう。

他にも、非常災害時の事業継続や副業の促進、配偶者の転勤などの事情で遠隔地に移住せざるを得ず、退社するケースを防ぐことにも期待できます。

一方で、遠隔地勤務制度は、国がテレワークの課題として掲げている「社内コミュニケーションに不安」「顧客等外部対応に支障」「情報セキュリティが心配」などの技術・文化面での課題と「テレワークに適した仕事がない」「適切な労務管理が困難」「人事評価が難しく対象者限定」などの労務・人事面での課題もあります。

このような課題については、あらかじめ「導入目的」「対象業務や対象者」「遠隔地の定義やオフィス出勤が必要な場合の取扱い」「賃金体系」「公平性」「申請等の手続」「費用負担」「通常又は緊急時の連絡方法」などについて、労使で十分に話し合い、制度を定めておくことが重要です。

 

「遠隔地勤務制度」の実態と「意識」「価値観」の違い

人材紹介会社のロバート・ウォルターズ・ジャパン株式会社(東京都渋谷区)は2023年4月6日、語学力と専門スキルを活かして働くグローバル人材を対象に「通勤圏外に居住し、テレワーク勤務を可能にする『遠隔地勤務制度』について」調査したアンケート結果を発表しました。

調査結果では、「遠隔地勤務制度(社員は全国どこでも居住可、居住地に条件をつけない施策)」を導入しているとの回答は外資系企業で37%、日経企業で31%となっており、「通勤圏外に居住し、そこからテレワークで勤務」してみたいとの回答は67%にも上り、従業員側の遠隔地勤務制度への需要は高いようです。

 

出典:ロバート・ウォルターズ・ジャパン株式会社「通勤圏外に居住し、テレワーク勤務を可能にする『遠隔地勤務制度』について」アンケート結果


日本では働き方改革により「ワークライフバランス」という言葉が頻繁に使われるようになっています。そんな日本が目指す国として、北欧のフィンランドがあります。

日本とフィンランドは、自然豊かなところや真面目で謙虚な性格など共通点も多くありますが仕事文化において大きな違いがあります。

フィンランドは、世界幸福度ランキング6年連続1位で「企業の多くが8時から16時まで、残業はほとんどしない」「コーヒー休憩(カハヴィタウコ)が法律で決まっている」「年次有給休暇は完全消化」「夏休みを1か月は取得」しますが、1人あたりのGDP(国内総生産)は日本の約1.25倍とワークライフバランスを実現しています。

また、フィンランドの仕事文化で重要なキーワードとして「ウェルビーイング」(身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念)があります。

職場においては、モチベーションや忠誠心の向上、効率やイノベーションを生み出すにもウェルビーイングは欠かせないという認識があり、在宅勤務やフレックスタイム制などの柔軟な働き方、休憩のとり方を重視しています。

「Karoshi (過労死)」という言葉が世界にも知られているように、日本では過労死や過労自殺も多いという現実があります。

働く人を尊重すること、今後は従業員の「ウェルビーイング」に配慮した働き方を目指すことで、日本でも仕事も休みも大切にして生きていくことができるかもしれません。

「ウェルビーイング」を実現するためのひとつの方法として、多様で柔軟な働き方を実現できる「遠隔地勤務制度」を検討してはいかがでしょうか。

フィンランドの仕事文化を参考に、企業全体の「意識」や「価値観」を見つめ直し、利用者の裾野を広げていく工夫が必要だといえそうです。

「遠隔地勤務制度」というテレワークを活用した新しい働き方を推進することで、誰もがいきいきと自分らしく働くことができる職場環境の実現を目指してみませんか。

 

参考

 

プロフィール

久保寺亮太
社会保険労務士法人出口事務所(https://www.deguchi-office.com/) 特定社会保険労務士

神奈川県出身。中央大学法学部卒業。2013年、社会保険労務士法人出口事務所に入所。大学在学中に労働法社会保障法を学び、「人」について考える仕事がしたいと思い至り、人事労務の専門家である社会保険労務士を志す。企業への価値提供と業務改善を常に意識しながら、人事労務に関する相談業務、システム導入等の業務改善支援、大学生向けの講演等をメインに活動中。

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