【専門家の知恵】2024年4月から全面適用に。建設業の「2024年問題」対策

公開日:2023年11月9日

<寿限無(じゅげむ)経営コンサルティング  代表 福田惠一/PSR会員>

建設業には現在適用猶予中の時間外上限規制が、来年2024年4月から全面適用になります。最近、私は複数の建設会社が集まった会合で「建設業2024年問題」として、この話をしました。ところが、「えらいこっちゃ」「そんなこと無理や」という反応はあるものの、「まだ時間がある」「何とかなるやろ」という感じで、「具体的にどうしたらよいのか」と言った切迫感ある質問は出ませんでした。しかし、上限規制への準備は今からスタートしても遅いくらいです。ちょっと古い流行語で言えば、正に「今でしょ!」なのです。

日本の企業には、諸々の制度改革が実施されるまでに時間がある頃にはなかなか切実感が盛り上がらず、しかし、施行間際になると俄かに騒ぎ出すという傾向があります。今回もその例に漏れずということかも知れません。まずは規制の内容を確認します。

 

1、時間外上限規制の内容

(1)原則、法定労働時間は1日8時間、週40時間で、それを超えて労働させるには「36協定」の締結が必須です。

(2)36協定の一般条項による場合の時間外上限は、1か月45時間、年間360時間(注:法定休日労働を含まず)です。

(3)36協定の特別条項による場合の時間外上限は、年間720時間(注:法定休日労働を含まず)です。そして、1年を通して常に以下の➀~➂を守らなければなりません。
  ➀月100時間未満(注:法定休日労働を含む)

  ➁複数月(※)の全ての月平均が80時間以内(注:法定休日労働を含む)
   (※)2か月、3か月、4か月、5か月、6か月の全ての月平均

  ➂月45時間(注:法定休日労働を含まず)を超えることができるのは年6回まで

 

2、上限規制に沿った管理の複雑さ

この規制は、まさに企業の時間管理者泣かせで、管理体制の構築に時間を要します。

➀まず、法定休日労働時間を加算する規制時間と、加算しない規制時間があります。そのため、管理者は両睨みで管理しなければなりません。

➁「1か月100時間未満まで」が認められる一方で、「複数月平均80時間以内」というのも管理が大変です。1か月でも100時間未満であるが80時間を超えた社員がいると、1年を通して2か月から6か月間、平均して80時間を超えないようにその社員の時間外を毎月毎月管理しなければいけません。

➂この上限規制は事業場の社員全員が守らないといけませんので、日々社員一人ひとりの時間外を管理する必要があります。結果的に上限を超過してしまったではすみませんから、少なくとも1週間に1度程度はチェックしてオーバーしそうな社員への対策を打たなければなりせん。 

 

3、早期な取り組みの必要性

建設業という仕事柄、元請けと下請けの重層での受注である場合も多く、また、受注先からは休日や早朝・深夜での作業を求められがちです。上限時間が100時間超の労使協定も可能で事実上天井知らずの現状からは、劇的な変化を遂げなければなりません。

上限規制が始まれば、元請け会社も無理を言わなくなると期待する中小の建設会社もあります。しかし逆に、元請け会社が上限規制を守るため、そのしわ寄せを下請け会社に押付けることがないとは言えません。

また、2023年4月から、中小企業でも月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が、25%から50%に引き上げられました。それに対処するためにも、早急に時間外管理体制を構築する必要があります。

 

4、具体的な取り組み事例

では、昨年から上限規制開始への対策を実施している企業の例を2つ挙げます。

A社(鉄道施設の電気設備の施工及びメンテナンス、従業員50名)

A社では、月による鉄道会社からの受注量の振れが大きく、納期が集中する月には時間外労働や休日労働が大幅に増加します。しかしながら、受注先の要請に答えることは至上命令であるところから、昨年4月より対策に着手しました。

➀部署責任者に対する教育

毎月の責任者会議において「上限規制について」というテーマで、上限規制の内容、直行直帰時・出張時・手待ち時間等における労働時間と非労働時間の区別の仕方、時間外労働をする際の申請承認の手順の明確化とその厳正な実施、部下への指導方法等を教育しました。

➁次いで総務部で、部署ごとに社員一人ひとりの時間外管理表を作成。月中の動向を部署責任者に開示すると共に、月40時間、60時間、80時間超の時間外をした社員の原因説明と改善策提出を求めました。この際には、「そんなうるさいことを言うなら、仕事しないぞ」といった、総務部担当と現場責任者や営業責任者間で軋轢がしばしば発生しました。

➂その後の責任者会議で、前月の結果報告や軋轢の解消の方法、業務改善について話し合い、時間外の多い社員の人事異動までも含めた対策を協議しました。

以上の結果、45時間超は大幅に減り、しばしば見られた80時間超の社員はほぼなくなりました。 

B社(生産設備設置、従業員20名)

B社も年間の繁閑の差が大きく、また土日の休日出勤も恒常化しています。そのため、1日の所定労働時間を7時間30分、法定休日を水曜日、また、祝祭日プラス20日を所定休日とした年間カレンダー(年間労働時間2,085時間)を作成し、1年単位の変形労働制の導入の検討を進めました。昨年から、その年間カレンダーに沿って各社員の時間外を計算して、年間20日の所定休日をどの時期に設定すべきかを協議しました。更に水曜日を会社休日とするため各受注先への交渉も実施しました。これらにより、時間外時間の大幅削減の見込みが立ちつつあります。

 

5、すぐに実施すべき対策

➀現場管理者に対する教育の実施

時間管理のキーマンは現場管理者です。ともすれば、管理すべき部下と同じ発想のままの現場管理者が、部下の意見に押されて法律の観点を逸脱した指導を行うケースが少なくありません。この層への教育が第一です。

➁社員ごとの時間外の推移の公開と対策実施

最近は、勤怠システム等のITの活用によって時間外の把握は容易になっています。肝心なのはその情報を出来るだけリアルタイムに現場に開示して、月の途中で対策の必要な社員に対し指導ができる体制を構築することです。

➂全社的な対策の実施

上記の月内での対応のみでは、「モグラたたき」で終わってしまいます。各部署横断で情報交換し協力体制を敷いて業務を改善し、仕事のIT化や社員の多能化を計画的に進めることです。ただ、どうしても人員が不足する場合は採用をせざるを得ません。

④変形労働時間制の採用検討

変形労働時間制の導入の可能性を、労働実態を見ながら「どうしたら採用できるのか」「採用のメリットはどの程度あるか」等の観点から検討することです。

⑤受注先、元請け先への交渉

早期に上限規制が適用されることを受注先や元請け先に訴え、受注の平準化に止まらず細部にわたって(例えば打合せ時間の効率化等から)改善への交渉を継続して行うことです。

 

プロフィール

社会保険労務士 福田 惠一
寿限無(じゅげむ)経営コンサルティング 代表

金融機関にて営業・融資を担当後、同総合研究所で人事金制度構築コンサルの経験を積み、退職後「寿限無経営コンサルティング」を開業。上場会社総務顧問も経験。経営の観点と社員の双方にとっての望ましい労使関係構築支援のため、人事・賃金・考課制度の整備、人事労務トラブル対応、紛争予防のための社内規程整備、マネジメント研修・ハラスメント研修等社員各層への研修、各種助成金申請支援等に注力。

 

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