【専門家コラム】収入アップのはずが負担増に?社保をめぐる“働き方の壁”

公開日:2026年3月12日

 

収入アップのはずが負担増に?社保をめぐる“働き方の壁”


<社会保険労務士法人SOPHIA 代表 松田法子/PSR会員

 

最低賃金の引き上げにより、収入が増える一方で、社会保険への加入を避けるために労働時間を減らそうとする動きが見られる。本人の希望による労働時間の短縮は問題ないが、企業が保険料負担を回避する目的で一方的に労働時間を減らすことは問題となり得る。

今後は社会保険の適用範囲がさらに拡大される見通しであり、企業には雇用管理の見直しが求められている。

最低賃金引上げが招く「社保回避」現象

厚生労働省が公表した2025年度の地域別最低賃金は、全国平均で初めて時給1,100円を超えた。人件費上昇が進むなか、「社会保険に入りたくない」という短時間労働者の声が目立ち始めている。

社会保険の扶養に入れる年収は130万円未満(60歳以上または障害者は180万円未満)であり、通勤手当もこの範囲に含まれる。最低賃金や通勤手当の上昇によって、収入が増えた結果、扶養を外れ自ら勤務先で社会保険に加入することを検討する層も出ている。

さらに、現在従業員数(※短時間労働者を除く厚生年金保険被保険者数)51人以上の企業(特定適用事業所)では、週20時間以上勤務する学生以外の短時間労働者も社会保険の適用対象となっている。月額賃金8.8万円以上が基準であるため、時給アップによってこのラインを超えるケースが増え、「加入を避けたい」と労働時間の調整を相談する声も聞かれる。

社会保険の企業の適用要件は、2016年以降段階的に拡大されており、今後10年で10人以下の企業にも適用される見通しだ。

 

しかし、社会保険への加入は本人の希望で選べる制度ではないため注意が必要だ。加入要件を満たす従業員を任意に加入させないでおくと、企業は保険料の遡及徴収や行政指導の対象となる。にもかかわらず、「本人が望まない」「一時的にシフトを減らす」といった運用を続ける企業も存在する。短期的なコスト抑制にはなっても、結果的に企業リスクを高める行為といえる。

最低賃金の上昇は本来、生活の底上げを目的とした政策である。しかし、現場では「働く時間を減らす」「雇用契約を短期化する」などの“調整行動”が広がり、人材定着や労働意欲の低下につながる懸念もある。制度改正の流れを正しく理解し、企業と労働者双方が安心して働ける環境づくりが求められている。

 

「社保回避目的の労働時間削減」は不利益変更の可能性

 

プロフィール

社会保険労務士 松田法子

社会保険労務士法人SOPHIA 代表
(https://sr-sophia.com/)

人間尊重の理念に基づき『労使双方が幸せを感じる企業造り』や障害年金請求の支援を行っています。採用支援、助成金受給のアドバイス、社会保険・労働保険の事務手続き、給与計算のアウトソーシング、就業規則の作成、人事労務相談、障害年金の請求等、サービス内容は多岐にわたっておりますが、長年の経験に基づくきめ細かい対応でお客様との信頼関係を大切にして業務に取り組んでおります。

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