【専門家コラム】労働時間に対する考え方がますますシビアに!企業を訴訟リスクから守るためには?

公開日:2025年7月23日

 

労働時間に対する考え方がますますシビアに!企業を訴訟リスクから守るためには?


<ひろたの杜 労務オフィス 代表 山口善広/PSR会員>

 

ここ最近、労働時間に関するニュースが目立っています。

たとえば、大手回転寿司店で労働時間を切り捨てていたとして労働基準監督署から是正勧告を受けたり、地方裁判所の判決ではありますが、制服に着替える時間は労働時間であるとして未払い賃金の支払いを命じたことも記憶に新しいです。

このように、労働時間に対する考え方は、どんどん企業にとってシビアなものになってきています。

労使のトラブルから企業を守るためには、労働条件の基本である労働時間について意識を高めることは必須となっています。

ここでは、労働時間の考え方について今一度確認することにしましょう。

労働時間=「始業時間〜終業時間」ではない??

まず、労働とは従業員が会社の指揮監督のもとにある状態のことをいい、その指揮監督のもとにある時間のことを「労働時間」といいます。

なので、たとえば就業規則で「始業時間は9時とし、終業時間は18時とする」と定めていても、それ以外の時間で従業員が会社の指揮監督のもとにある状態である時間も労働時間と解される可能性が高くなります。

冒頭に述べた、制服へ着替える時間が労働時間であるという判決になったのも、着替えの時間が会社の指揮監督下にあると判断されたからです。

ただし、制服への着替えの時間がすべて労働時間にあたるのかというとそうではなく、個別具体的に判断されるものです。

着替えの時間が労働時間と判断されるためには、

  • その制服を着ることを会社側が義務付けている
  • その着替えを所定の更衣室等で行うよう規定している (制服で通勤していることを禁じている)

など複数の要素がありますが、共通して言えることは、制服への着替えが従業員の自由な裁量がなく任意性が低い点にあります。

つまり、たとえば、着替えの時間に同僚と自由におしゃべりができたり、着替えの合間にスマホでSNSのチェックができたりするような雰囲気が緩い環境下であれば、労働のための準備行為であり会社の指揮監督下に置かれているとは言えない状況であれば労働時間と判断される可能性は低くなるかもしれません。

しかし、制服で業務を行うことを義務付けているのであれば、制服への着替えは必要な行為であるため、最近では、所定の時間を着替えの時間として労働時間にカウントする会社も出てきています。

さて、制服への着替えの時間以外に、従業員から労働時間ではないかと言われるものとして、仮眠時間やお昼休憩中の電話当番が挙げられます。

仮眠時間やお昼休憩中の電話当番は、何か手を動かして作業をしているわけではなく、いわゆる「手待ち」の状態となっています。

何もしていないなら労働時間に含まれないのではないかと思いやすいですが、来客があったり電話が鳴ったりした場合に即座に対応するよう会社側が求めている場合は、会社の指揮監督下にある状態と言え、何も起こらなかったとしても労働時間となります。

仮眠時間もお昼休憩も労働時間ではなく給料は発生しないと言い切るためには、従業員を労働から解放することを保障しているかどうかが重要な要素なのです。

では次に労働時間の算定についてお話ししましょう。

 

労働時間の算定は「1分」単位が原則です!

労働相談でよく聞かれるのが、たとえば「15分未満の端数は切り捨てます」や、「終業時間から30分経過後しか残業時間として認めない」といった類の労働時間のカットです。

給与の計算をする際、たしかに「8時間」というように端数がない方がスッキリしていますが、働いている方からしてみれば、「給与のカット」ということになります。

労働時間は1分といえども塵も積もれば山となります。

あとで労働基準監督署から行政指導を受けた際に、未払いの賃金として数十万円単位のお金を支払わなければならないリスクがありますので、労働時間の管理は普段から正確に行うことをお勧めします。

ただし、給与の額について、「1ヶ月」の給与額で100円未満の端数が発生したときに50円未満の端数を切り捨て、50円以上の端数を100円に切り上げるのはオーケーです。

また、「1ヶ月」の給与額について、1000円未満の端数があるときに、その端数の金額を翌月の給与支払日に繰り越して支払うこともできます。

給与計算と支払は毎月しなければならない業務になりますから、手間がかかるものですが、適正な労働時間の管理を怠ると、思いもよらないトラブルに発展しやすい問題でもあります。

したがって、従業員と良好な関係を継続させるためにも、労働時間についての考え方をブラッシュアップすることをお勧めします。

もし労働時間についての考え方で不明点があったり、給与計算を誰かに任せたいと思われたら、社会保険労務士に相談されてみてください。

 

 

プロフィール

社会保険労務士 山口善広

ひろたの杜 労務オフィス 代表(https://yoshismile.com/

営業や購買、総務などの業務を会社員として経験したのち、社会保険労務士の資格を取る。いくつかの社会保険労務士事務所に勤務したのち独立開業する。現在は、労働者や事業主からの労働相談を受けつつ、社労士試験の受験生の支援をしている。

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