今回は多様な労働時間管理方法として、「事業場外みなし労働時間制」「フレックスタイム制」「裁量労働制」「高度プロフェッショナル制度」など、労働時間に関する代表的な制度についてお話しします。
各制度には導入手続きや適用要件、時間管理の注意点などがあるため、実際に運用する際は就業規則や労使協定を整備し、社員へ周知することが大切です。
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事業場外みなし労働時間制とは
「事業場外みなし労働時間制」(以下、みなし労働時間制)とは、社員が会社の外で業務を行い、かつ 労働時間の算定が難しい場合 に、あらかじめ定めた時間を働いたものとみなす 仕組みです(労基法第38条の2)。
適用される場面
- 典型例:外回りの営業職や、旅行会社の添乗員など
- テレワークの場合も、以下の2つの条件を満たせばみなし労働時間制を適用可能ですが、チャットやビデオ会議、タスク管理ツールを使って、労働時間や業務状況をリアルタイムに把握しやすい環境が整っている場合も多く、要件を満たすのは難しいケースのほうが多いように思います。
- PCや通信機器を「常時接続状態」にしておく指示がなく、社員が自発的に回線を切断できるなど、使用者(会社)から逐一監視・指示される状態でないこと
- 随時、具体的な業務指示を受けているわけではないこと(目的・目標・期限のみの指示にとどまるなど)
みなし労働時間の算定方法
みなし労働時間制では、1日の労働時間を次の3つのいずれかで定めることができます。
1. 所定労働時間
- 就業規則等で定めた始業から終業までの時間から休憩時間を除いた時間のことで、労働義務のある時間
2. 通常必要時間
- 外回り等により、所定労働時間(8時間)を超えて働くことが通常必要な場合、その「通常必要とされる時間」をみなし労働時間とする
3. 労使協定を結んだ場合の「実際に必要な時間の平均」
- 常態的に所定労働時間を大きく超えると想定されるなら、突発的ケースを除き、平均した時間をみなし労働時間として設定する
事業場内での作業が一部含まれるとき
事業場内で勤務した時間は別途実労働として管理し、「みなす」時間に含むことはできません。別途把握した事業場内の労働時間と、みなし労働時間制により算定される事業場外での勤務時間数の合計時間となります。
例えば、午前中社内での事務作業2時間、午後は、事業場外での仕事でみなし労働時間は8時間=その日の労働時間は10時間となる
協定で定める事業場外のみなし時間が法定労働時間(1日8時間)を超える場合は、労使協定を所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります。
フレックスタイム制とは
「フレックスタイム制」は、一定期間(=清算期間)内の総労働時間をあらかじめ定め、その範囲内で社員が日々の始業・終業時刻を選択できるようにする制度です。業務状況や個人の都合に合わせて柔軟に働ける一方で、導入には労使協定の締結や就業規則への明記が必要となります。
労使協定で定める事項
1. 対象労働者の範囲
- どの部署や職種でフレックスを導入するかを明確化
2. 清算期間(対象期間)
- 1か月~最長3か月まで可能
3. 清算期間における総労働時間
- 「1週40時間 ×(清算期間の暦日数÷7)」が法定の総枠
- 週休2日制の場合は「所定労働日数×8時間」を上限とすることができる。
- 1か月を超える清算期間の場合、各月ごとに週平均50時間を超えないよう管理が必要
4. 1日の標準労働時間
- 有給休暇取得時の賃金計算などで必要となる基準時間
5. コアタイム(任意)
- 必ず勤務すべき時間帯(設定しない場合もあり)
6. フレキシブルタイム(任意)
- 社員が自由に出退勤できる時間帯(設定しない場合もあり)
時間外労働の扱い
- 清算期間中の実績労働時間が法定労働時間の総枠を超えた分が「時間外労働」となります。
- 清算期間が1か月を超える場合、1か月ごとの週平均50時間を超える勤務も時間外労働に該当するため、管理が必要です。
清算期間が3か月に延長
2019年4月の「働き方改革関連法」の施行により、フレックスタイム制の清算期間は、これまでの「1か月」から「最長3か月」へと延長されました。
これにより、繁忙期と閑散期の差が大きい業種でも、より柔軟に労働時間を調整できるようになり、社員のワーク・ライフ・バランスの向上にもつながると期待されています。
たとえば、「3か月の総労働時間」を設定しておけば、繁忙期に長く働いた分を、閑散期に早く帰るなどして調整することが可能になります。
ただし、清算期間が長くなることで、
・労働時間の管理が煩雑になる
・労働時間管理が煩雑になることで、社員との認識のズレが生じやすくなる
・適切な勤怠記録の整備・チェックが必要になる
など、運用面での負担も増える可能性があります。
導入を検討する際は、自社の業務体制や管理体制に見合った期間であるかも考えて検討するとよいでしょう。
裁量労働制とは
「裁量労働制」は、業務の進め方を大幅に社員の裁量に委ねる必要がある場合に、あらかじめ決めた時間を労働したものと“みなす” 制度です。実際の労働時間にかかわらず所定時間で計算されるため、以下の2種類の業務に限定されています。
1. 専門業務型裁量労働制(労基法第38条の3)
- 新技術の研究開発やシステムコンサルタント、弁護士・公認会計士など、法律で列挙された20業務に限り導入できる。
- 労使協定で「みなし労働時間」「具体的な指示をしないこと」「健康確保措置」「苦情処理」「不同意者の不利益扱い禁止」などを定める必要がある。
2. 企画業務型裁量労働制(労基法第38条の4)
- 本社・本店などの企画立案・調査・分析といった業務を対象とし、労使委員会(会社・社員双方で構成)の5分の4以上の多数決議により導入。
- 決議内容を労働基準監督署に届け出るほか、健康・福祉確保措置や苦情処理、同意撤回の手続きなど、厳格な要件が定められている。
3.深夜労働・休日労働
- 裁量労働制の場合でも、22時~翌5時の深夜労働や休憩に関する規定は通常どおり適用されます。
- 休日労働においてみなし労働時間を定めていない場合は、実際の労働時間で計算する必要があるため注意が必要です。
高度プロフェッショナル制度とは
「高度プロフェッショナル制度」は、年収1,075万円以上で高度専門的知識を有する社員を対象とした制度です(労基法第41条の2)。金融商品の開発、企業の重要事項に関する助言、研究開発業務などが対象で、労働時間や休日の規定が適用されなくなります。そのため、導入時には特に厳格な手続きと健康・福祉確保措置が求められます。
導入の手続き
1. 労使委員会の設置・決議(5分の4以上の多数)
2. 決議内容を労働基準監督署へ届出
3. 社員本人の書面同意
4. 健康管理時間の把握・年間104日以上かつ4週4日以上の休日付与・健康確保措置 など
こういった要件を満たして初めて適用可能です。制度の適用後も定期的に監督署へ報告し、健康状況などをチェックし続ける必要があります。
労働時間管理の大原則
どの制度であっても、使用者(会社)は社員の健康を守り、過度な長時間労働を防止する責任 があります。労働時間を「みなす」制度を導入する際も、実態を把握しなくてよいわけではありません。深夜労働や休日労働に関しては、割増賃金の支払い、休憩や休日の付与についての管理義務もあります。労働時間の実態を把握し、適切な管理を行うことは必要です。
就業規則・労使協定の整備
- これらの制度を導入するには、就業規則への記載 や 労使協定の締結・届出 が必要になるものもあります。
- 制度ごとに必要な記載事項や協定事項が法律・省令で細かく定められているため、行政機関のガイドラインを確認しながら進めましょう。
いずれの制度も、単に「時間管理をしなくてよい」わけではなく、社員の健康や法定労働時間を守るための正確な管理・運用 が求められます。労使間で十分に協議し、労働基準監督署への届出など必要な手続きを踏んだ上で適正に運営していきましょう。
もう一歩進んで学びたい方へ
東京労働局パンフレット
- 1箇月単位の変形労働時間制導入の手引き
- 1年単位の変形労働時間制導入の手引き
- 専門業務型裁量労働制の適正な導入のために
- 企画業務型裁量労働制の適正な導入のために
- 事業場外労働に関するみなし労働時間制の適正な運用のために
- フレックスタイム制の適正な導入のために
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執筆者
特定社会保険労務士 米澤裕美
(https://www.office-roumu1.com)
ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。