「うちの会社の時給、これで大丈夫?」「都道府県ごとに最低賃金が違うってどういう仕組みなの?」
最低賃金は、すべての労働者(パートやアルバイト含む)に必ず支払わなければならない“賃金の下限額”を定めた法律です。
最低賃金法違反の通報を受けた労働基準監督署は、まず行政指導として是正勧告を行います。悪質な場合や指導に従わない場合は、検察庁に書類送検されることもあるほど重い内容となります。
最低賃金の基本や地域別・特定最低賃金の違い、どの部分の賃金を計算に含めるのかなどについてお話しいたします。
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最低賃金制度ってどんなルール?
最低賃金法で定められた“下限額”
最低賃金法第4条により、すべての労働者(パート・アルバイト・派遣社員・契約社員などを含む)が、1時間あたりいくら以上の賃金を受け取らなければならないかが決められています。
「未経験なので低い賃金でいい」とはならず、仮に本人がそれでもいいと言っても法的には無効となり、最低賃金以上を払わなければならないのです。
地域別最低賃金と特定最低賃金
最低賃金には、大きく分けて以下の2種類があります。
1. 地域別最低賃金
- 各都道府県ごとに定められ、その都道府県内で働く労働者すべてに適用
2. 特定最低賃金
- 特定の産業(業種)で働く労働者に適用される
- 地域別より金額が高い場合があり、その場合は高いほうが適用
- 都道府県ごとに対象業種や金額が異なる
特定最低賃金は、通常、毎年の最低賃金改定に合わせて発表されます。具体的には、地域別最低賃金が改定される際に、特定最低賃金も見直されることが一般的です。いずれも例年10月に発表されています。
特例として減額できるケースも? ただし申請が必要
最低賃金は、基本的に「絶対にこれ以下の時給では働かせてはいけない」というルールですが、以下の要件に該当し、所轄の労働基準監督署に特例許可申請をして認められた場合には、最低賃金より下回る賃金で雇用することも可能とされています。
- 精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者
- 試の使用期間中の者
- 基礎的な技能・知識習得を目的とする職業訓練を受ける者
- 軽易な業務に従事する者
- 断続的労働に従事する者
ただし、この特例許可は簡単に下りるわけではなく、あくまで所轄の労働基準監督署へ正式に申請しなければならないため、安易にはできません。実務上は「最低賃金を下回るのは違法」という認識で運用するのがよいでしょう。
どの部分の賃金で比較するの?
「最低賃金との比較は、基本給だけを見ればいいの? それとも諸手当も含めるの?」といった疑問がよくあります。
最低賃金を計算する際、賃金のうち一部の項目は除外します。労働基準法では以下のようなものが除外項目に当たります。
1. 臨時に支払われる賃金(結婚祝い金・臨時ボーナスなど)
2. 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
3. 割増賃金(残業代・休日出勤の割増分など)
4. 精皆勤手当、通勤手当、家族手当など
これらを差し引いた基本給+その他の手当の合計額が、最低賃金額以上になっているかをチェックしましょう。
たとえば、通勤手当や家族手当を加味して時給換算すればOK…と思っていたら、除外対象だった、というケースがあるので注意が必要です。
具体的な計算例
《 時給制の場合》
- Aさんの時給は1,000円
- その都道府県の地域別最低賃金が1,100円だった場合
- Aさんは最低賃金を下回っているため違法⇒ 時給を1,100円以上に引き上げる必要あり
《月給制の場合》
- Bさんの月給が180,000円で、1か月平均の所定労働時間が160時間(1日8時間×月20日)
- 1時間あたりの賃金は 180,000円 ÷ 160時間 = 1,125円
- その都道府県の最低賃金が1,100円だった場合
- Bさんの時給換算は1,125円なので問題なし
上記月給の18万円にもし通勤手当の2万円が含まれていた場合は?
180,000-20,000=160,000
160,000÷160時間=1,000円
→1,100円を下回っているためアウト!⇒通勤手当を含まない給与額で最低賃金を超えるような設計が必要です。
最低賃金を下回ったらどうなる?
最低賃金を下回る賃金で働かせるのは法律違反です。
もし発覚すれば是正勧告を受けたり、場合によっては罰則を科されることも。
会社は不足分をさかのぼって支払うことになると財務的に大きなダメージを受けることも考えられます。
「最低賃金は絶対ライン」と覚えておき、毎年秋に見直される金額を把握して、早めに給与テーブルや時給を調整しましょう。
最低賃金が毎年変わるのはなぜ?
最低賃金は、各都道府県の最低賃金審議会で協議され、毎年秋ごろに改定されるのが通例です。
景気や物価、人件費相場などを踏まえ、少しずつ引き上げられてきました。
改定情報は厚生労働省や都道府県労働局、労働基準監督署などのサイトで公表されます。
例年10月に改定が行われていますので、この時期を目安にチェックし、時給・月給の設定を見直す必要があります。
違反を防ぐポイント
1. 賃金テーブル(時給・月給)の定期チェック
- 毎年改定される最低賃金が、現行の給与を上回っていないか早めに確認
2. 手当の内容を確認
- 通勤手当や家族手当などは最低賃金計算で除外されるので、実質的な基本給がラインを下回っていないか要注意
3. パート・アルバイトの時給更新
- 時給制スタッフが多いなら、改定後すぐに時給の引き上げ対応を行う
もう一歩進んで学びたい方へ
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執筆者
特定社会保険労務士 米澤裕美
(https://www.office-roumu1.com)
ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。