【はじめての人事労務】「残業」とは? 残業時間や割増の考え方

はじめての人事労務 ~初任者のための実務講座~

「残業」とは? 残業時間や割増の考え方

 


<米澤社労士事務所 代表 米澤裕美/PSR会員

 

「残業代っていくら?」「どこからが“残業”になるの?」――社員や管理職からこのような質問を受けたことがあるかもしれません。

実は、勤怠ソフトや雇用契約・給与計算・就業規則などで出てくる「時間外労働」「法定外残業」「所定労働時間」「所定外労働時間」などの言葉には、それぞれ法律的に意味が違います。

ここでは、残業の基本ルールと、法定労働時間・36協定(サブロク協定)についてお話いたします。

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法定労働時間と所定労働時間

法定労働時間

労働基準法では、原則 1日8時間・1週40時間を超えて働かせてはいけない、というルールがあります(特例対象事業場と呼ばれる事業場では、1日8時間・1週44時間まで)。

これが“法定労働時間(ほうていろうどうじかん)”です。

たとえば「9時~18時勤務(休憩1時間)」を週5日で40時間。これが典型的なフルタイムのイメージです。この時間を超えて働かせる場合を「法定時間外労働」(いわゆる“時間外労働”)と呼び、割増賃金を払わなければなりません。

所定労働時間と所定外労働時間

一方、会社が独自に「うちの勤務は1日7時間」「週35時間」などと就業規則で決めている場合があります。

この会社独自で定めた労働時間を“所定労働時間(しょていろうどうじかん)”と呼びます。

 たとえば「9時~17時(休憩1時間)」で1日7時間勤務の会社の場合、この会社の所定労働時間は7時間となります。

このように法定労働時間(1日8時間)より短く設定している会社もあります。

そして、所定労働時間を超えるが、まだ法定労働時間の範囲内の時間を“所定外労働時間(しょていがいろうどうじかん)”と言います。

《例》1日7時間が所定労働時間の会社で、社員が1時間、所定外労働をして8時間勤務した
- この1時間は所定外労働時間にはなるものの、「法定8時間」を超えていないため「法定時間外労働」ではない
- つまり、割増賃金(25%以上)対象にはならないケースがある(※会社の規程で「所定時間外=割増支給」という運用をしているところもあるので、就業規則でどのようなルールにしているかを確認)

 

休憩時間のルール

法定労働時間を管理するうえで忘れてはならないのが「休憩時間」です。労働基準法では、以下のように休憩を取らせる義務を定めています。

- 1日の労働時間が6時間を超える場合:少なくとも45分以上
- 1日の労働時間が8時間を超える場合:少なくとも1時間以上

休憩時間は労働時間に含める必要はありません。例えば9時~18時勤務では、間に1時間休憩をとると労働時間は8時間となります。

休憩時間は原則、一斉に与える(全員が同じ時間帯に休憩を取る)ことがルールですが、事業の種類によっては一斉休憩が難しい場合があるため、その場合は「労使協定」を結んで別々の時間帯に休憩を設定することも可能です。

 

 

“残業”の種類いろいろ

「残業」とひとくちにいっても、法律上はいくつかのカテゴリーがあります。

1. 時間外労働(法定時間外労働)
- 1日8時間、1週40時間を超えた分
- 割増率25%以上

2. 休日労働(法定休日労働)
- 週1回与える法定休日に働くこと
- 割増率35%
-週休2日の会社も多いですが、2日とも法定休日扱いにする必要はない。1日は所定休日、もう1日が法定休日

3. 深夜労働(22時~翌5時)
- 割増率25%
- もし時間外+深夜が重なると、25%+25%で50%増になる場合も

4. 60時間超え(月に60時間超える残業)
-割増率50%(2023年4月から大企業中小企業ともに50%になりました)

 

36協定(サブロク協定)とは?

法律では、法定労働時間を超えて残業させるのは原則禁止です。では現実にはどうして残業ができるのでしょうか?

それは、会社と社員代表が「時間外・休日労働に関する協定」(36協定)を結び、労働基準監督署に届け出ることで、一定範囲で残業や休日出勤を行うことを認めてもらっているわけです。

36協定の有効期限は通常1年です。更新を忘れると残業させられなくなる可能性もあるため毎年忘れずに更新をしましょう。

 

 

残業時間の上限をチェック

働き方改革関連法の施行により、時間外労働(残業)の上限が明確化されました。

- 原則:1か月45時間、1年360時間
  これ以上の残業可能性がある場合は「特別条項」を設けて繁忙期に対応することができますが、それでも上限が定められています

- 特別条項:繁忙期でも1年720時間、複数月平均80時間以内、1か月100時間未満など
  これを超えると会社は罰則を受ける可能性があり、実際には過労死ラインと言われるとても危険な残業水準でもあるため、注意が必要です。

 

残業代の割増賃金の計算

残業代を計算するには、まず1時間あたりの賃金(時給)を出し、そこに割増率をかけます。

- 時間外労働:25%以上
- 休日労働:35%以上
- 深夜労働:25%以上
- 組み合わせでアップすることも

1時間あたりの賃金の算出方法は、月給制の社員なら「月給 ÷ 1か月の所定労働時間※ = 時給」
※月によって所定労働時間数が異なる場合には1年間の1か月平均の所定労働時間数

所定労働時間を超え法定労働時間内の残業分を割増対象にするかどうかは会社の規程次第ですが、少なくとも法定時間を超える部分は割増(25%以上)を支払わないと違法になるので要注意です。

 

具体例でイメージ

ケース1:1日7時間が所定労働時間の会社

《 社員が1日8時間働いた場合》
- 7時間→所定労働時間内
- 8時間内→所定外労働だが法定8時間までは達していない
- 割増対象になるかどうかは会社の規程を確認

《社員が1日9時間働いた場合》
- 8時間までは法定では割増は不要(会社規定による)
- 8~9時間目→法定時間外となり割増25%以上が必要

ケース2:1日8時間所定労働時間×5日=週40時間を超えた場合

- 月~金で1日8時間×5日=40時間
- 土曜に8時間働いたら、合計48時間で週8時間の残業
- この8時間分は割増25%以上を支払う

 

固定残業代制(みなし残業代制)について

会社によっては、一定時間分の時間外労働に対する割増賃金をあらかじめ定額で支払う「固定残業代制(みなし残業代制)」を採用している場合があります。

この制度を導入する際には、求人票や募集要項の段階から、以下のような情報を明確に示しておくことが必要です。

① 固定残業代に相当する時間数と金額、その計算方法
② 固定残業代を除いた基本給の金額
③ 固定残業時間を超えた労働については、別途割増賃金を支払うこと

これらの事項は、労働契約書にも必ず記載しておく必要があります。

明示を怠った場合、「給料の中に残業代が含まれているとは聞いていない」といったトラブルに発展しやすく、残業代に相当する額が未払い賃金として請求されるリスクがでてきます。

実際に、あとになって正しい運用ができていなかった(明示義務を行っていたなど)として、多額の未払い残業代支払いに至るケースは多くあります。

 

残業を適切に管理する4つのコツ

1. 就業規則・賃金規程にルールを明記
 - 「所定労働時間」と「法定労働時間」は必ずしも同じとは限らないため、所定労働時間と法定労働時間の確認

2. 勤怠管理システムを活用
 - 打刻漏れやサービス残業を防ぎ、時間外労働や休日労働を正確に記録

3. 36協定の締結・更新を忘れずに
 - 36協定がないまま残業させると違法になる
 - 有効期限が過ぎていないか毎年チェック

4. 過重労働を防ぐ
 - 上限を超えないよう月の残業時間を把握し、もし超えそうなら本人と上司に警告をし仕事の調整を
 - 長時間残業が続いた社員には産業医面談など健康ケアを
    1か月の残業時間が80時間を超える場合、本人の申し出に基づいて産業医面談の実施が義務となります。

 

未払い残業代は「過去分」までさかのぼって請求されることも

残業代が正しく支払われていなかった場合、それは「未払い賃金」となり、後から従業員から請求されるリスクがあります。

また、2020年の民法改正により、未払い賃金の消滅時効期間は従来の2年から5年へと延長されました(※当面の間は3年とされています)。

つまり、もし今未払いがあった場合、最大で過去3年分(将来的には5年分)さかのぼって支払いを求められる可能性があるということです。

日ごろから残業の記録を正確につけ、割増賃金を正しく支給する体制を整えておくことが重要です。

 

もう一歩進んで学びたい方へ

 

 

 

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執筆者

特定社会保険労務士 米澤裕美
https://www.office-roumu1.com

ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。

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