【専門家コラム】社会保険(厚生年金保険)に加入したことで、将来もらえる年金額はどうなるのか

公開日:2024年8月13日

 

 

 

社会保険(厚生年金保険)に加入したことで、将来もらえる年金額はどうなるのか


<社会保険労務士法人  出口事務所 代表社員 出口裕美/PSR会員>

 

過去コラムで「就業調整の実態とその影響について、企業がパートタイム労働者に伝えるべきこと 」で、就業調整を行わない場合は、「社会保険に加入したことで、将来もらえる年金額が増える、出産手当金や傷病手当金の給付対象になる」など多くのメリットを説明させていただきました。

今回は、将来もらえる年金額がどうなるのかをご紹介させていただきます。

 

これまでの加入実績に応じた年金額を確認する方法

毎年誕生月に、年金記録を記載した「ねんきん定期便」が届いているかと思いますので、確認してみましょう。

「ねんきん定期便」は年齢によって形式や記載される内容が異なりますが、例えば、50歳未満の方は以下のようなハガキになります。

 

令和6年度「ねんきん定期便」50歳未満(裏)

 

こちらの「3.これまでの加入実績に応じた年金額」を見て、「これだけで生活できるの?」と不安になった人も多いのではないでしょうか。

そんな不安を持たれたのであれば、ぜひ、今後も積極的に厚生年金保険に加入して受給金額を増やしましょう。

 

社会保険(厚生年金保険)に加入したことで、将来もらえる年金額はどうなるのか

夫が働き、妻は家事や育児そして扶養の範囲で働く。こんな家族をモデルとして作られているのが公的年金でした。

まず、夫や妻が厚生年金保険に加入していた場合、令和4年度の厚生年金の受給権者※の平均受給額を調べてみると、以下のような結果となりました。

※男性・女性の支給額は65歳以上の受給権者のデータ。また下記金額には基礎年金部分が含まれます。


厚生年金保険(第1号) 受給権者平均年金月額

 

仮に、厚生年金保険に加入しなかった場合、令和4年度の国民年金の受給権者の平均受給額は、以下のような結果になっています。

国民年金 受給権者の平均年金月額


社会保険(厚生年金保険)に加入しなくてもいいように、扶養の範囲内に収入が収まるように就業調整するということは、将来の年金は国民年金分しか受給できない状況になってしまいます。

もちろん、他の年金に加入している、退職金制度に加入している、貯金が十分にあるなど対策を取られている方もいらっしゃるかもしれませんが、改めて65歳以降の将来の生活にも目を向けていただければ幸いです。

 

社会保険(健康保険、厚生年金保険)に加入することで会社もリスクが減少

社会保険(健康保険、厚生年金保険)は国の公的保険であり、一部の個人事業者を除き、法令により会社と従業員に加入が義務づけられています。

社会保険に加入したことで、将来もらえる年金額が増えたり、出産手当金や傷病手当金の給付対象になったりするなど多くのメリットがあります。

例えば、従業員が傷病などで働くことができない場合、健康保険から傷病手当金が支給されます。

従業員が亡くなってしまった場合、遺族には遺族年金が支給されます。最近ではコロナウイルス感染により仕事ができない場合に傷病手当金が支給されました。

そういった給付が出ることは会社にとっても安心ではないでしょうか。

一方、会社にとっては、保険料負担があるので、加入要件を満たしているのに加入させたくないという事例もあるようですが、それはリスクが高いです。

仮に、加入対象になっているにも関わらず会社が社会保険等への加入義務を怠っていた場合、保険料の遡及納付を要求されたり、罰金を科されたり、従業員から損害賠償を請求されたりなど、様々な経営上のリスクを負うことになります。

 

◆社会保険料の遡及納付◆

社会保険の加入手続きを怠っていた会社は、最大で過去2年分まで遡って社会保険料を納付しなければならない可能性があります。

例えば、従業員10人で平均給与30万円の会社の場合、2年分の社会保険料(会社負担分と従業員負担分の合計)として約2,160万円※が請求されることになります。

なお、従業員にも過去に遡って社会保険料(従業員負担分)を納付してもらうためには、従業員の同意が必要となり、説明や手続き、給与関連書類の訂正等が必要となります。

また、未加入だった期間は、従業員は自分で国民健康保険・国民年金に加入しているはずですから、その手続きも大変です。

※社会保険料 平均給与月額30万円×社会保険料率約30%×10人分×24か月=約2,160万円

 

◆損害賠償の請求◆

社会保険への加入時期は、加入要件に該当したときまで遡ることができます。

一方で社会保険料は最大2年分しか遡って納付することができません。

その結果、年金の加入できない期間が生じ、従業員が「年金受給資格期間に満たない」「本来受給するべき年金額に満たない」などの不利益を被る場合は、会社がその損害賠償責任を負う可能性があります。

以下の「豊国工業事件」のように、実際に、従業員が会社に対して損害賠償請求をした例もあります。

 

◆その他の影響◆

社会保険への加入義務があるにも関わらず加入を見送り続けた場合、法的な罰則(最大で6か月以下の懲役または50万円以下の罰金)が事業主に対して与えられる可能性があります。

社会保険の未加入には、様々な経営上のリスクがあることを十分理解しておきましょう。

 

 

プロフィール

出口裕美 
社会保険労務士法人  出口事務所(https://www.deguchi-office.com/
代表社員  特定社会保険労務士

2004年に社会保険労務士事務所を開業。出産を機に、育児と仕事の両立のためテレワーク(在宅勤務)を開始。2014年に社会保険労務士法人出口事務所に法人化。2017年にテレワーク(サテライトオフィス勤務)を開始。2020年に新型コロナウイルスの取り組みの様子をメディアにて紹介。
経営者と社員が継続的に安心して働ける環境を構築するため、インターンシップ、ダイバーシティ(雇用の多様化)、テレワーク、業務管理システム等を積極的に導入し、また企業への導入支援コンサルタントとしても活動中

 

 

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