「社員から副業をしたいといってきたけど、具体的にどう対応すればいいの?」
「副業って何に気をつけたらいいの?」
最近は、本業とは別に“副業”で働く人が増えてきましたね。企業としても、副業を認めたり規定を整えたりする動きもよく聞くようになりました。
一方で、労働時間の管理や情報漏洩の心配など、注意しなければならない点も少なくありません。
ここでは、はじめて人事・労務を担当する方向けに「副業をめぐる基本ルール」や「トラブルを防ぐために押さえておきたいポイント」についてお話しいたします。
記事一覧はこちら>>>はじめての人事労務 ~初任者のための実務講座~
なぜ副業をする人が増えているの?
収入アップやスキルアップ
社員が別の分野で稼いだり、新しいスキルを習得して本業にも活かすなどのメリット
働き方の多様化
リモートワークやフレックス制度が普及し、時間や場所の制約が以前より柔軟になった
企業の後押し
政府や企業が「副業を認める流れ」にシフトしているため、副業OKの会社が増えてきた
たとえばITスキルを伸ばしたい社員が、週末に副業でWEB開発をする…なんてケースも珍しくありません。企業にとっては、社員のモチベーションを高めたり、新たなノウハウを社内に還元してもらえたりと、プラス面もあるわけですね。
副業を「認める」か「禁止する」か、どう決める?
法律上の立ち位置
労働基準法には「副業を認めなければならない」あるいは「禁止しなければならない」という決まりはありません。会社が方針を決め、就業規則などに定めることで運用します。
許可(解禁)する企業
- 社員のスキルアップ、収入増を応援
- 人生をより豊かにするために柔軟に対応
禁止(制限)する企業
- 業務への集中度を下げたくない
- 企業秘密や競合リスクを防ぎたい
- 社員が疲れすぎて本業に支障が出ないようにしたい など
副業を認めるときに気をつけたいこと
健康面と本業への影響
副業する社員が夜中まで働いたり、休みなしで働き続けたりすると、過重労働に陥ってしまうかもしれません。会社としても健康管理に配慮し、本業に悪影響が出ないようにルール作りが必要です。
- 副業の申請手続き(時間や内容を把握する)
- 本業での業務時間に支障が出た場合の対応(許可取り消し、勤務時間調整など)
企業秘密や情報漏洩
もし副業先が競合会社だったり、社内で扱っている資料やノウハウが副業先で活用されてしまう恐れがあると、情報漏洩リスクが高まります。
- 就業規則に守秘義務を明記し、違反時の対応を規定
- 競合他社への就業は禁止とする会社は多い
副業を禁止・制限する場合の注意
どうして禁止にするのか、理由を伝える
副業を一律に禁止すると、社員から「なんでダメなの?外部の友人の会社では副業OKなのに」と疑問や不満が生まれるかもしれません。
そこで、会社の業務に集中してほしいから、機密情報の漏洩防止、本業が特殊な業界で副業がリスクを伴うなど、示すことで納得してもらうようにしましょう。
- 就業規則に「副業禁止」の条項を入れ、どんな活動が禁止なのか例示する
- 社員へわかりやすい形で説明し、納得してもらうようにする。
禁止範囲の線引き
副業を認める場合でも、どこまでを許可し、何を禁止とするかについて、会社ごとに方針を明確にしておくことです。たとえば、
- 全面的に副業を禁止する
- 特定の業種・業態のみを禁止する
といったように、自社の業務やリスクに応じて線引きを行いましょう。
実際には、以下のような副業を禁止対象とする例が多く見られます。
- 風俗営業など、公序良俗に反する活動
- 競合他社での勤務や、同業種での副業
- 機密情報の漏えいや利益相反の恐れがある業務
- 心身の健康に支障をきたすような長時間労働を伴う副業
これらの禁止事項については、就業規則や副業規程などに明記しておくことで、社員にも明確に伝えることができます。
労働時間管理はどうなる?(割増賃金はどう考える?)
副業(ダブルワーク)時の労働時間管理は、本来なら本業と副業を通算し、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた分に対する割増賃金(残業代)を考えなければなりません。
原則として「後から労働契約を結んだ会社」が負うことになりますが、実務的には複雑で、どちらの会社が割増賃金を負担するかが明確にするのが難しいのが現状です。
- 社員から「ほかの勤務先で何時間働いているか」を申告してもらう
- 過度な長時間労働が見られるなら、会社として本業の勤務時間を調整したり副業を制限したりする可能性もある
就業規則でどう明記する?
副業をOKにしている企業でも、以下のような項目を就業規則や副業規程に記載しておくと運用がスムーズです。
- 申請制度(届け出制 or 許可制)
- 副業を始める前に「◯◯部に届け出る」「書面または社内システムで申請する」など
- 禁止する副業の範囲
- 支障が出た場合の処置
- 本業のパフォーマンスが落ちたり、情報漏洩したりしたとき、副業許可を取り消す措置を定める
- 守秘義務
- 「副業先で自社の情報を使わない」「取引先情報は持ち出さない」など
副業社員を雇用する際のポイント(副業先としての視点)
もし、自社が“副業先”として人を雇う場合にも注意が必要です。
- 相手がすでに本業で週40時間近く働いているなら、たとえ自社での勤務が短時間でも「法定労働時間を超えている」可能性がある
- もし本業があるのを知り、副業側で採用をする場合、合算して法定労働時間を超えている場合は割増賃金を支払う必要がある
- 情報漏洩や競合行為がないかを確認し、万が一あれば契約を見直す仕組みを設けるなど
まとめ:副業ルールを決めて、トラブルを防ごう
副業が増える背景には、多様な働き方や収入アップの需要があり、企業としてもメリットは大きい反面、健康管理や情報漏洩リスクといった懸念が生まれます。
- 副業を許可する場合は、就業規則などに申請方法や禁止行為を明記し、支障が出たときの対応策を作っておく
- 副業を禁止または制限する場合は、その根拠や範囲を社員にわかるように示す
- 労働時間通算や割増賃金の問題は複雑
- 自社が「副業先」として人を雇うときも、本業での労働時間を踏まえて過重労働を防ぐ視点が必要
副業を認めるにせよ、制限するにせよ、守秘義務や競合リスクなども検討したうえで、自社に合ったルールを確立するのが大事です。
もう一歩進んで学びたい方へ
- 厚生労働省「副業・兼業」
副業・兼業についてのガイドラインやモデル就業規則、労働時間の通算解説資料などが掲載されています。
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執筆者
米澤裕美 特定社会保険労務士
(https://www.office-roumu1.com)
ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。