「最近、あの社員の様子がいつもと違う気がする……」
「本人から『少し休ませてほしい』という申し出があった」
人事労務担当者として、こんな場面に直面することがあるかもしれません。
実際、メンタル不調を理由に社員が休職を希望するケースは、今や決して珍しいものではありません。ストレス社会とも言われる現代において、誰もが心のバランスを崩す可能性を抱えながら働いているといっても過言ではないでしょう。
そこでここでは、メンタル不調による休職が初めて起こったときに、どのような対応や支援を行えばよいのかお伝えします。
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メンタル不調を感じたら、まずどうする?
本人や周囲からの相談がきっかけ
「なんだか眠れない」「気分が落ち込みすぎて出社がきつい」という本人の声や、「同僚から見ていつもと違う」という周囲の指摘で、はじめてメンタル不調に気づくことが多いです。
この段階で大切なのは、早めに相談・早めに対処。人事担当者や上司が本人の状況を確認し、病院にいくよう促したり、必要に応じて産業医へつなぐ動きをしてあげましょう。
受診の勧奨
もし本人が「精神科や心療内科へ行ってみる」と言い出したら、会社としては受診を後押しするのが望ましいでしょう。医師の診断書が出れば、休職に入る流れや治療期間を具体的に計画できるからです。
「病院なんて大げさだよ…」と否定的になるのではなく、専門家の判断を仰ぐことで、どうサポートすればいいかが見えてくるでしょう。
また、精神科に行くのに抵抗をもっている方も多くいるものです。誰もがメンタル不調になる可能性はあるため、受診することは恥ずかしいことではないことも伝えるとよいかもしれません。
休職の手続きと必要書類
就業規則で休職制度を確認
まずは、自社の就業規則や休職規程で「メンタル不調による休職」をどのように扱っているかチェックしましょう。
- 休職の要件は?(医師の診断書は必要か)
- 休職できる期間は?(3か月、6か月、1年など会社により設定している期間はまちまち)
- 休職中の給与や社会保険は?(無給か、一部手当があるのか)
会社によって休職制度は異なるため、ここが曖昧だと後々トラブルになりやすいです。もしルールが不明確なら、就業規則の見直しを検討してみましょう。
医師の診断書の提出と産業医の確認
社員が「休職が必要」と医師から判断された場合、診断書を会社に提出してもらうことが一般的です。診断書の内容をもとに、会社は「休職を認めるか」を判断します。
会社によっては、主治医の診断書に加えて会社が指定する産業医の診断も必要とするルールにしている会社もあります。この場合、
- 主治医の診断書
- 会社指定の産業医の診断
両方の意見をそろえたうえで、会社が最終的な休職判断を行います。
休職中に会社ができること
傷病手当金の手続き支援
休職中が無給となる場合、社会保険加入者であれば健康保険の傷病手当金を利用できる可能性があります(業務外のケガや病気で働けないときに最長1年6か月、一定の給付を受けられる制度)。
人事担当としては、社員が書類を整えて申請できるよう、必要書類や記入方法を案内したり、保険者への提出をサポートしましょう。
社会保険料や住民税の扱い
休職に入り給与がゼロになると、それまで給与天引きしていた社会保険料や住民税の控除ができなくなります。
- 住民税は普通徴収に切り替えて本人が自分で役所に納める
- 会社の口座に振り込んでもらって、会社側がまとめて納める
いずれの方法にするか、休職前に本人と話し合い手続きを決めておく必要があります。
定期的な連絡とフォロー
「休職中はそっとしておいたほうがいいのでは…」と思いがちですが、適度な連絡はむしろ大切です。ただし、仕事の話ばかりで本人にプレッシャーを与えないように、“様子をうかがう”感じがよいでしょう。
連絡の頻度は、本人の負担にならない範囲(たとえば2週間~1か月に1回程度)を目安にするとよいでしょう。
休職者にとっては、会社と連絡が途絶えると「自分はもう必要とされていないのでは」と感じてしまう方もいます。会社から「気にかけてもらえている」という安心感を得られると、復帰への意欲や心の安定にもつながるでしょう。
復職の判断と流れ
医師の復職許可を確認
復職はあくまで医師の診断があることが前提です。
- 「復職可能」と書かれた診断書を取得
- 必要に応じて会社の産業医や本人との面談を行い、復帰時期や業務内容を決める
会社が独断で「もう平気でしょ?忙しいから早く復帰して」と迫ると、症状が再発してしまう恐れがあるかもしれません。
逆に、本人から「もう平気。早く復帰したい」と焦ってまだ完全に回復していないにも関わらず復帰。しかしまたすぐにダウンしてしまうといったケースもありますので、慎重に判断をする必要があります。
リハビリ出社(リワーク)
復職直後はいきなりフルタイムはきついことが多いもの。そこで短時間勤務や業務量の調整をして、段階的に慣らしていく方法(リワーク支援)を取り入れる企業も増えています。たとえば、
- 最初の1週間は1日4時間勤務
- 補助的業務から始め、徐々に仕事を増やす
こうしたリハビリ出社があると、本人も無理なくペースを取り戻しやすいはずです。ただ、こういったリハビリ出勤については法的に義務づけられているわけではなく、各企業の方針にゆだねられます。
休職に入るときの書面準備
社員がメンタル不調などを理由に休職に入る場合は、「言った・言わない」のトラブルを防ぐためにも、休職に関する内容を文書で取り交わすことが重要です。
たとえば、以下のような内容をあらかじめ明文化しておきましょう。
・休職の開始日と見込み終了日
・休職期間中の給与や社会保険料の取り扱い
・連絡方法や連絡頻度のルール
・復職時に必要な手続きや診断書の提出について
実際にあったトラブルの例
ある企業では、体調不良を訴えた社員に対して、上司が「しばらく休んでいいよ」と口頭で伝えました。その後、1か月、2か月と連絡がないまま休みが続き、会社からメールや電話をしても応答がなく、やむを得ず「解雇せざるを得ない」と判断する事態になりました。
しかし、当の本人は「会社から休んでいいと言われたから、正式に休職していると思っていた」と主張。休職の合意内容をきちんと書面にしていなかったため、双方の認識に大きなズレが生じていたのです。
このように、休職の開始時点で条件や取り扱いを明確にしておくことは、本人の安心感にもつながり、後のトラブルを防ぐことにもつながります。
口頭のやりとりだけで済ませず、書面にして、双方で内容を確認し合うようにしましょう。
書面について
休職から復職に向けて次のような書面を取り交わすことになります。書面は法定のものではなく任意ですが、書面で取り交わすことで、会社と社員の認識をそろえやすくなり、後々のトラブルを防止しやすくなります。
また、医師の意見書(診断書等)をあわせて確認することで、休職や復職のタイミングに関する客観的な判断材料を得られ、適切な対応が可能になります。
- 休職命令通知書
- 会社側から休職を命じる書類
- 休職に関する覚書
- 休職期間や条件(無給か有給か、社会保険料や住民税の振込のこと。SNS使用上での注意、副業せず治療に専念することなど 常識であっても遵守事項を明文化し、会社と社員が同じ認識を持つようにするとトラブル回避につながります)
- 復職願
- 復職を希望する社員に提出してもらう書類
- 復職にあたっての確認書
- 復職時における注意事項や両者の合意事項を整理するための文書
社内書式・諸規程 | 人事・労務のポータルサイト かいけつ!人事労務
管理職やチームメンバーの理解
復帰後は、「休職から戻ったなら、もう大丈夫でしょ?」と思いがちですが、本人はまだ再発リスクや不安を抱えている可能性があります。無理のない業務配分や周囲の理解が大切です。
最低限の事情を共有し、「急に業務負荷を増やさない」「定期的に声かけする」といった対応をすると、社員本人も安心しやすいでしょう。
メンタル不調を防ぐための職場づくり
休職になる前に、予防として取り組めることが大切です。たとえば、
- 業務量の見直しや残業時間の管理
- 定期的なストレスチェック
- コミュニケーション活性化(1on1ミーティングや雑談の場づくり など)
こうした取り組みで、社員が「辛い・・」と思ったときに声を上げやすい雰囲気を作ることができるでしょう。
まとめ:休職から復帰まで、会社として寄り添う姿勢を
メンタル不調による休職は、社員にも会社にも大きな出来事。しかし、しっかりと制度を整え、診断書や産業医の意見を踏まえてサポートすれば、また元気に職場に戻ってもらえる可能性は十分あります。
1. 医師の診断書をベースに休職開始
(必要に応じて産業医の診断も合わせて確認する方針なら就業規則に明記)
2. 休職中は傷病手当金で生活サポート
社会保険料や住民税の支払い方法をどうするか(普通徴収へ切り替え or 会社口座に振り込み)を休職前に整備
3. 定期的に連絡し、状態を把握
月1回など負担にならない頻度
4. 復職時は産業医面談やリワークプランで無理をしない
「休職命令通知書」「休職覚書」「復職願」「復職確認書」などの書類を用意し、休職期間や復帰条件を明確化
5. 復帰後も周囲が理解し、安心して働ける環境を用意
これらを丁寧に行うことで、休養・治療に専念でき、スムーズな復帰が期待できます。
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執筆者
米澤裕美 特定社会保険労務士
(https://www.office-roumu1.com)
ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。