【専門家の知恵】労働者側から損害賠償を請求されたとき、企業はどう対処するか《上》

公開日:2019年2月19日

 労働者側から損害賠償を請求されたとき、企業はどう対処するか《上》

<つまこい法律事務所・弁護士 佐久間 大輔>

 

 メンタルヘルス不調や過労死により損害賠償請求をしてきた労働者や遺族との「信頼」を基礎とした対応をすることが、トラブルの拡大を防ぎ、結果として企業イメージの低下を回避することができる。労働者側から損害賠償請求されたときは、その言い分をまず冷静かつ素直に傾聴することが、初期調査や紛争解決の方針決定に役立つ。

 

◆労働者側請求対応の基本理念

 過労によりメンタルヘルス不調となった労働者や、過労死や自殺によって家族を失った遺族が損害賠償請求をしてくることがある。その際に、提訴や判決の記者会見が行われてその内容が報道され、さらにインターネット上でも広まると、企業のイメージダウンとなり、消費者、取引先、金融機関等のステークホルダーの信頼を失うことにつながりかねない。
 
労働者(家族も)は、企業を信頼したからこそ入社したのであり、生命や身体を侵害されたことにより損害賠償を請求するのは企業との信頼関係が損なわれたからだ。退職後に残業代請求がなされるケースが多いが、企業に対する不満が背景にあることはメンタルヘルス不調や過労死の場合と同様といえよう。

 労働者や遺族から請求がなされた段階でも信頼関係を維持・回復するため、企業としては、労働者側との「信頼」を基礎とした対応をすることが重要だ。この基本理念のもとに誠実な対応をすれば、紛争の拡大や長期化というリスクを減らすことができる。

 そこで、まず企業の経営者が労働者側からの損害賠償請求への解決方針を打ち出すことが重要であり、これにより人事労務担当者や職場管理者が一貫した対応をすることができるようになる。逆に一貫性のない対応をすると、信頼を取り戻すどころか、企業の対応への不満に起因する「二次クレーム」が発生し、裁判に至る可能性が出てくる。

 紛争段階ではリスクマネジメントが必要だが、請求する労働者側をクレーマーやリスクそのものとは捉えず、人格を持った人間として信頼する-この「信頼」を基礎にした対応が必要となる。

 

◆労働者側請求対応における企業の姿勢

 メンタルヘルス不調や過労死により労働者や遺族が損害賠償請求をするとき、人事労務担当者や職場管理者(ひいては企業組織全体)に対する裏切られた思い、一生懸命仕事をしたのに報いてもらえなかった不満といった感情を抱いていることが多い。特に過労死や自殺をした遺族は、精神的な苦痛を受けているとともに、真実を知りたいという気持ちがある。
 
 にもかかわらず、労働者や遺族が損害賠償請求をしてきたときに人事労務担当者が適当にあしらうと、労働者側は、その感情や気持ちをさらに害され、企業との信頼関係が破壊されたと考え、紛争に発展する。特に遺族が企業に労働実態や健康状態に関する資料の開示を求める段階では信頼関係が揺らいでいる状態だが、そこから裁判にまで発展するのは、遺族が、企業との信頼関係が確定的に破壊されたと感じたときである。

 人事労務担当者としては、まず労働者や遺族の言い分に耳を傾け、その気持ちを理解することが必要だ。たとえ紛争に発展する段階でなくても、気を抜くべきではない。

 さらに、人事労務担当者が共感的な態度を示すと(同調ではない)、労働者側の方も、自身の言い分を聞いてくれたと思い、被害感情や不満が和らぐことがある。

 これに対し、人事労務担当者の応接態度が悪いと、企業の対応への不満が昂じて被害感情を悪化させる。そうすると、企業の対応に関する「二次クレーム」が発生し、裁判に発展する可能性が高まる。この紛争がインターネット上で拡散すると、企業の信用は低下し、その経済的損失は計り知れない。

 労働者側の話を公平な立場で傾聴する姿勢は、すぐに身につくものではないので、担当者教育が必要となる。担当者レベルで対応できないクレームが発生した場合はその上司が対応することになるが、そのときに上司の態度が悪いと「二次クレーム」が発生するので、管理職教育も必要だろう。その際には、労働者との「信頼」を基礎にした対応という基本理念を十分に理解させることが重要である。

 

プロフィール

つまこい法律事務所・弁護士https://mentalhealth-tsumakoilaw.com/
弁護士 佐久間 大輔
労災・過労死事件を中心に、労働事件、一般民事事件を扱う。近年は、メンタルヘルス対策やハラスメント防止対策などの予防にも注力しており、社会保険労務士会の支部や自主研究会で講演の依頼を受けている。日本労働法学会・日本産業ストレス学会所属。著作は、「過労死時代に求められる信頼構築型の企業経営と健康な働き方」(労働開発研究会、2014年)、「長時間労働対策の実務 いま取り組むべき働き方改革へのアプローチ」(共著、労務行政、2017年)など多数。

 

 

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