【専門家コラム】会社で必要なハラスメント対策と人権方針の作り方《法務省報告書を解説》

公開日:2025年11月12日

 

会社で必要なハラスメント対策と人権方針の作り方《法務省報告書を解説》


<ごとう人事労務事務所 後藤和之/PSR会員

 

令和2年10月に関係府省庁連絡会議による「ビジネスと人権に関する行動計画」が策定されるなど、日本でも「ビジネスと人権」という言葉が徐々に浸透されてきています。

今回は、法務省報告書から、会社における人権リスクを紹介するとともに、ハラスメント対策などにもつながる「人権方針」を策定するメリットを解説します。

さまざまなハラスメントに向き合うために

事業主に義務化されている「職場におけるハラスメント対策」は主に次の3つがあります。

・職場における「パワーハラスメント」
・職場における「セクシュアルハラスメント」
・職場における「妊娠・出産等に関するハラスメント、育児・介護休業等に関するハラスメント」

これらのハラスメントについては、事業主が『相談窓口等の設置』『就業規則等への規定』など、雇用管理上講ずべき措置として対応していると思います。

一方で、厚生労働省のハラスメントに関するホームページでは、以下の2つの情報も掲載しています。

・「就職活動中の学生等に対するハラスメント」の防止について
・「顧客等からの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント)」について

就活ハラスメント対策は「就活中の学生を守る取り組み」、カスタマーハラスメント対策は「過度な顧客等の要求から従業員を守る取り組み」です。

そのため、同じ『ハラスメント』という言葉でも、最初にご紹介した3つの「職場におけるハラスメント対策」とは、会社における意味合い・位置づけは少し異なります。

その他に、世間一般では「〇〇ハラスメント」というが多くの種類のハラスメントが浸透しています。

言葉が分類されることで、さまざまな問題が顕在化されることに意義はありますが、一方で、会社として一つひとつのハラスメントを整理するだけでもたいへんな労力になっていきます。

 

法務省報告書が掲げる「26の主要な人権リスク類型」

法務省人権擁護局「今企業に求められる『ビジネスと人権』への対応(以下、法務省報告書)」では、人権とは「人間が人間らしく尊厳をもって幸せに生きる権利で、全ての人が生まれながらに持つ権利」としています。

また法務省報告書では、企業が人権リスクの現状を把握し対応を検討する上で、配慮すべき主要な人権リスクについて、次の「26の主要な人権リスク類型」で分類しています。

26類型のリスクが、すべてのリスクを分類しているものではありませんが、法務省報告書では、それぞれの内容を分かりやすく解説しています。

26の主要な人権リスク類型

① 賃金の不足・未払、生活賃金
② 過剰・不当な労働時間
③ 安全で健康的な作業環境(労働安全衛生)
④ 社会保障を受ける権利
⑤ パワーハラスメント(パワハラ)
⑥ セクシュアルハラスメント(セクハラ)
⑦ マタニティハラスメント(マタハラ)/パタニティハラスメント(パタハラ)
⑧ 介護休業等ハラスメント(ケアハラ)
⑨ 強制労働
⑩ 居住移転の自由
⑪ 結社の自由・団体交渉権
⑫ 外国人労働者の権利
⑬ 児童労働・こどもの権利
⑭ テクノロジー・AIに関する人権問題
⑮ プライバシーの権利
⑯ 消費者の安全と知る権利
⑰ 差別
⑱ ジェンダー(性的マイノリティを含む)に関する人権問題
⑲ 表現の自由
⑳ 先住民・地域住民の権利
㉑環境・気候変動に関する人権問題
㉒知的財産権
㉓賄賂・腐敗
㉔サプライチェーン上の人権問題
㉕紛争等の影響を受ける地域における人権問題
㉖救済へアクセスする権利

法務省人権擁護局「今企業に求められる『ビジネスと人権』への対応」より

 

「人権方針」を策定することで、対外的にも会社のメッセージが伝わっていく

「ビジネスと人権」の視点から、ぜひ会社の『人権方針』を策定していきましょう。

しかし、最初からすべての人権リスクを網羅しようとするとたいへんですので、「26の主要な人権リスク類型」の中から、特に自社が重要にしたい人権を中心に策定すると良いでしょう。

例えば「⑬児童労働・こどもの権利」を特に重要視したいと考えた場合に、仮に『自社は、こどもの権利を何よりも大切にしていきます』と方針を立て、それを着実に遂行していけば、次のようなメッセージが対外的にも伝わっていきます。

・こどもの幸せを追究する会社であること。
・こどもをはじめ、すべての人の権利を大切にしている会社であること
・従業員の権利を大切にするために、マタハラ・パタハラをはじめとしたハラスメント対策を講じていること

会社独自の「人権方針」を策定することにより、ハラスメント対策などの『労務施策の拠り所』ができることが大切です。

その『拠り所』ができることで、法令遵守や社会環境の変化といった事由だけでなはなく、自社の使命として

主体的かつ柔軟的な対応、さらに従業員間で「人権方針」を共有することで、誰もが働きやすい職場風土へとつながっていきます。

 

 

プロフィール

後藤和之

ごとう人事労務事務所(https://gtjrj-hp.com) 
社会福祉士・特定社会保険労務士 

昭和51年生まれ。日本社会事業大学専門職大学院福祉マネジメント研究科卒業。
約20年にわたり社会福祉に関わる相談援助などの業務に携わるとともに、福祉専門職への研修・組織内OFF-JTの研修企画などを通じた人材育成業務を数多く経験してきた。
特定社会保険労務士として、人事労務に関する中小企業へのコンサルタントだけでなく、研修講師・執筆など幅広い活動を通じて、“誰もが働きやすい職場環境”を広げるための事業を展開している。

監修:退職後の社会保険と税の手続き(株式会社ブレインコンサルティングオフィス)

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