【専門家の知恵】シニア人材の採用で気をつけること〜書類選考・面接編〜

公開日:2022年4月21日

<社会保険労務士事務所サン&ムーン代表 田中亜矢子/PSR会員>

 

 総務省の国勢調査及び人口推計によると約40年後までに、65歳以上人口はほぼ横ばいで推移する一方で、20〜64歳人口は大幅に減少し、高齢化率は約10%程度上昇することが見込まれている。

 このような少子高齢化が進展し、生産年齢人口が減少する中、人手不足で悩む企業は多い。今後労働力を確保するためには、女性、外国人労働者、シニア層の活躍が不可欠である。そこで今回はシニア人材の採用にスポットをあて、書類選考や面接の過程で気をつけることについて確認しておきたい。

 

シニア人材の採用を考えたときに知っておきたいメリットと注意点                                 

 まず、シニア人材の採用を考えるにあたり、そのメリットと注意点について知っておきたい。
 メリットとしては①経験や人脈がある即戦力を採用できる、②若手の教育を担ってもらうことができる、③助成金の活用ができる、の3点が挙げられる。

①経験や人脈がある即戦力を採用できる
 シニア採用を考える上で、最も期待できるのが、豊富な経験や人脈を持っている人が多いということである。これまでの知識や経験を活かし即戦力として活躍してもらえる可能性が高い。

②若手の教育を担ってもらえる
 シニア人材であれば、部下を持ちマネジメントする側の経験がある人材は多い。その経験を活かし、若手社員の教育を安心して任せることができる。

③助成金の活用ができる
 高年齢者が意欲と能力のある限り年齢に関わりなく働くことができる生涯現役社会を実現するという国の指針に基づき、65歳超継続雇用推進助成金等

(厚生労働省HP: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000139692.html)の活用ができる(2021年11月現在、65歳超継続雇用促進コースの新規受付は終了)。

 一方、シニア人材を採用するときに注意した方がよいこともある。それは①健康状態、②賃金、③知識や経験、の3点である。

①健康状態
 若年層と比べると、シニア層は健康上の問題が起こりやすい。また体力面で負担がかからないよう勤務内容やスケジュールに配慮する必要がある。

②賃金
 シニア層はこれまで高額の給与を受け取っていた可能性が高い。急激に給与が下がるとモチベーションダウンしてしまう可能性がある。仕事内容が変化するとはいえ、ある程度の給与水準は見込んでおく必要がある。

③知識や経験
 知識や経験が豊富なことはメリットだが、その分自分のやり方に固執するケースもある。若年層の新しいアイデア等を否定したりするようなことはないか予め確認しておきたい。またこれまでの知識や経験が活かせるような仕事を用意することも必要である。

 

採用時にチェックしたい書類選考と面接のポイント

 シニア層を採用するための選考で気をつけた方がいいことを書類選考と面接の観点から見ておきたい。

 <書類選考>

 まず書類選考の段階で注意したいのは、社会人としての基本的なマナーがクリアできているかどうかである。年齢が上がるにつれ、このような基本的なことは直すのが難しい。

 例えば、手書きの場合、空欄が多い、丁寧に書かれていない、漢字の間違いが多い、下書きが残ったままということはないだろうか。また、履歴書等を明らかに使い回しているようなことはないか。企業によっては、あえて手書きではなくパソコンでの作成を指定するところも少なくない。パソコン操作が必要とされる職場が増え、スキルを判断する材料となるからだ。
 内容に関していえば、志望動機に注目したい。なぜこの仕事を希望するのか、仕事内容を理解しているか。その希望に合致した仕事を与えることができるかどうかも重要な判断材料である。若年層と比較すると、シニア層は新しい仕事に柔軟に対応していくことが苦手なケースが多い。選考の段階でミスマッチを無くしておくことは不可欠である。
 またこれまでの職務経歴から、実際にその人がどのような仕事ができるのか把握することができる。転職回数が多い、職歴の間に空白がある場合、その理由は必ず確認しておこう。
 
<面接>

 面接で確認したいのは、職務経験に関して具体的なヒアリングをし、即戦力として活躍できるかどうかの見極めはもちろんのこと、とりわけ人間性を確認したい。
 職種によって仕事内容は異なるが、どの職場においてもコミュニケーション能力は必須である。特に社会人経験の長いシニア層は、自己主張が強く相手の話を聞かない人が多い。自分が指揮命令する役割にあった場合、その傾向が強くなる。
 面接では、会社側の質問に対して的確に答えているか、自分の考えを押し付けるようなところはないか、一人で話し続けているようなことはないか確認したい。

 また、組織で働く上で、周囲のメンバーとの人間関係構築力があるかも大事なポイントである。いくら仕事ができても、その人が入社することで周囲が疲弊するようでは意味がない。
 これを見抜くためには、前職での人間関係での悩みや、上司と意見が違うときの対処法を質問するとよい。その回答の中で会社や上司等の批判をする人は要注意である。人間性を後から変えることは難しい。問題が起きたときに、それを他人のせいにする傾向がある人はおそらく今後も同じことをするだろう。
 人間性に関しては適性検査の活用も有効である。とくに素直さや、向上心、ストレス耐性の点数は確認しておきたい。面接の補助資料としてご活用いただくことをおすすめする。
 また、健康に関しても確認しておきたいところである。

 シニア人材の雇用について課題を感じている企業は多く、その理由としては「モチベーションの低さ」「パフォーマンスの低さ」「マネジメントの困難さ」が挙げられる。
 シニア人材の採用を考えるにあたり、多様な価値観を受け入れる環境整備や、管理職層の教育等も視野に入れておく必要はあるだろう。

 

プロフィール

 社会保険労務士事務所サン&ムーン(http://www.sun1moon.com) 代表

 社会保険労務士/田中亜矢子

 

 

 

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