【専門家の知恵】複数の法律で定められている「相談窓口の設置」。種類と設置のポイントを整理しよう

公開日:2023年12月1日

<いろどり社会保険労務士事務所 代表 内川真彩美>

近年の法改正により、企業に相談窓口の設置を求められることが増えています。相談窓口設置は複数の法律で定められているので、漏れなく対応できているか確認するのは少し難しいかもしれません。

また、相談窓口は設置だけでは不十分で、周知した上で、適切に対応できる体制であることまでが求められています。皆さまの企業では「対応できる相談窓口」が設置できているでしょうか。

そこで今回は、設置が必要な相談窓口と、設置のポイントを解説します。

設置が求められている相談窓口

ハラスメント相談窓口

パワハラ防止法とも言われている労働施策総合推進法により、全企業に設置が義務化されているのが、ハラスメントの相談窓口です。中小企業でも2022年4月から義務化されたため、記憶に新しいと思います。パワハラに限らず、セクハラ、マタハラをはじめとする様々なハラスメントを相談できる体制にすることが望ましいと定められています。

雇用管理の改善に関する事項に係る相談窓口

パートタイム・有期雇用労働法により、短時間労働者あるいは有期雇用労働者を雇用している場合に設置が義務付けられているのが、雇用管理の改善に関する事項に係る相談窓口です。ここでの「短時間労働者」「有期雇用労働者」とは、雇用形態の名称によらず、以下のいずれかに該当する方を指しています。

・正社員(通常の労働者)と比較して1週間の所定労働時間が短い労働者
・有期雇用で働く労働者

障害者の雇用の均等機会確保等に係る相談窓口

障害者雇用促進法では、募集採用や入社後の待遇について、自社で雇用する障害者からの相談に対応できる体制の整備が義務付けられています。

育児休業に関する相談窓口

2022年の改正育児介護休業法施行により、「育児休業を取得しやすい雇用環境の整備の措置」の義務化がされ、4つの措置のうち1つ以上を選択し対応することが求められています。4つの措置のうちの1つは相談窓口の設置です。いずれかを選択すればよいため必ずしも相談窓口の設置が必要というわけではありませんが、相談窓口の設置を選択する企業も少なくありません。

心とからだの健康問題についての相談窓口

特別条項つきの36協定届を届け出る場合、「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」を10個の措置の中から選択記入する必要があります。このとき選択できる措置の1つが、心とからだの健康問題についての相談窓口の設置です。育児休業の相談窓口と同様、いずれかの措置を選択すればよいため必ずしも設置が義務付けられているわけではありません。

 

相談窓口設置のポイント

相談窓口担当者は可能であれば複数名で

相談窓口を設置する場合、まず考えるのは「誰を担当者にするか」です。

まず前提として、複数の相談窓口を設置する場合、すべての相談窓口を1人が担当しても問題ありません。しかし、1人だけで担当していると、「相談窓口担当者からハラスメントを受けているので相談できない」とか、「セクハラの相談を異性にはしたくない」のように、相談しにくいケースを生み出してしまいます。そのため、可能であれば、男女1名ずつ以上あるいは人事部などの部門全体で相談窓口を担当することを推奨します。相談窓口を複数名で担当する場合、相談窓口の責任者は定めておきましょう。

全従業員に周知する

相談窓口は、設置、つまり相談窓口担当者を決めるだけでは不十分です。従業員が相談できるよう担当者や連絡先を公開し周知する必要があります。法律上書面での明示が求められているものもありますので、社内窓口の一覧などをまとめて公開するなどの対応をすると良いでしょう。

相談があったときのルールを定着させる

相談があったときに適切に対応できなければ、相談窓口設置の意味はありません。窓口担当者には、定期的に、対応方法の研修などを実施することを推奨します。相談しやすい雰囲気づくりに関するものから、相談内容に関する法律や制度に関することまで、相談窓口担当者が知っておいた方が良い事項はたくさんあります。また、相談があった時の社内手続き(調査方法、記録方法など)も定めておきましょう。その他、「相談した人に対して不利益取り扱いをしない」旨を明文化することも、使われる相談窓口にするためには重要です。

 

相談窓口を社内で持つか社外で持つか

相談窓口を、弁護士や社労士、相談窓口サービスを提供している企業など、外部に委託することも選択肢の1つです。外部に委託するメリットは、相談窓口担当者の負荷やそのための教育の負荷の削減、第三者にだからこそ相談しやすいケースの増加、専門家にお願いできる安心感、などが考えられます。一方で、コストがかかることはデメリットと捉えられるかもしれません。内部窓口も外部窓口も一長一短ありますので、どちらが向いているか、メリットとデメリットのバランスなどを検討することを推奨します。

 

プロフィール

いろどり社会保険労務士事務所(https://www.irodori-sr.com/)代表 

特定社会保険労務士 内川 真彩美

 成蹊大学法学部卒業。大学在学中は、外国人やパートタイマーの労働問題を研究し、卒業以降も、誰もが生き生きと働ける仕組みへの関心を持ち続ける。大学卒業後は約8年半、IT企業にてシステムエンジニアとしてシステム開発に従事。その中で、「自分らしく働くこと」について改めて深く考えさせられ、「働き方」のプロである社会保険労務士を目指し、今に至る。前職での経験を活かし、フレックスタイム制やテレワークといった多様な働き方のための制度設計はもちろん、誰もが個性を発揮できるような組織作りにも積極的に取り組んでいる。

 

 

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