【専門家の知恵】がん検診とその後の措置~大腸がんを例にとって

公開日:2023年8月19日

<合同会社DB-SeeD 代表社員  神田橋宏治>  

従業員が定年まで健康に働くための福利厚生として、がん検診を行う企業が増えていることを感じています。でも検診後はどうしていますか?がん検診を受けるだけでは従業員の健康を守ることができません。検診後の措置について大腸がん検診を例にとってご説明します。

福利厚生としてのがん検診

 日本人の死因の一位ががんであることは皆さんご存じだと思います。がんにり患した場合、たとえ治癒したとしても臓器の一部を手術で失い十分な働きができなくなり、離職に至ることもあります。
 定年が65歳になり、さらには将来70歳まで延ばされる可能性のある現在、がんの予防・早期発見・早期治療は企業にとっても非常に大きなテーマです。がん検診は労働安全衛生法上で通常必ず行わなければいけない健診ではないのですが、従業員に定年まで健康に働いてもらうための福利厚生的な意味で行われることが多いです。
 以前にも書きましたが、がんによる死亡を確実に減らすとされている検査は、1.胃がんのバリウムまたは内視鏡による検診、2.大腸がんの便潜血による検診、3子宮頸がんの細胞診、またはHPV検査による検診、4.肺がんのX線検査(±細胞診)による検診、5乳がんのマンモグラフィ(X線検査)などです。そのほかにPSA検査による前立腺がんの検診や低用量CTによる肺がん健診、エコーによる乳がんや、甲状腺がん、肝臓がんの検診、FDG-PETによる全身の検診なども、がん死亡の減少に貢献しているかどうかの研究がされています。少し次元が違うのですががんになりやすい因子としてのB型肝炎・C型肝炎ウイルスやピロリ菌が体内にいるかどうかの検査なども、がん検診の一部と言えます。

 さて企業が何のがん検診を行うかを決める際考慮するべき条件がいくつかあります。一つは安価であること。もう一つは検査自体の害が少ないこと(例えばCTによる検診は被曝の危険もあり、大体1000回のCTにつき一人発がんを引き起こすと考えられています)。また受診のハードルが低いこと(例えば子宮頸部の細胞診は、特に2~30代の女性に有効であると考えられていますが、心理的抵抗から受診率が低くなりがちです)も大切な条件と言えます。早期発見早期治療に向いていることはもちろんですが、早期発見したとしても治療自体が体に非常に高い負担を強いるため働くことに強いダメージを与えるようなものも、企業にとってあまりうれしいものではないでしょう。

検診後の措置が福利厚生の価値を高めます

 先にあげたがん検診のうち、大腸がんの便潜血検査は企業の福利厚生に向いた理想的な検診と言えます。まず非常に安価です。自分で便の一部を郵送するだけですので無害ですし検査への抵抗感も強くありません。そのうえ大腸がんの多くはまず良性のポリープとして出現しこの段階から出血し始めるので、便潜血検査によって早期発見されます。ポリープか初期がんの段階では大腸内視鏡検査により切除でき、完全に治ります。この治療法はお尻から内視鏡を入れて行うので、開腹も全身麻酔も必要ありません。一方、進行してからの治療になると、よくて手術、進行の程度によっては手術もできずに抗がん剤による治療による数年間の延命ということにもなりかねません。つまり大腸がんはまさに早期発見早期治療に適したがんと言えます。
 しかしここで重要なことがあります。
 それは企業として便潜血検診をした場合、きちんと陽性者を追跡するということです。単に便潜血検診だけしてあとは結果が本人に届くだけという企業が多くあります。これでは従業員の健康を守れず、福利厚生としてお金を出した価値も低くなってしまいます。便潜血を何年も放置している方が少なくなく、そうしているうちにがんが進行してしまった人も多く見てきました。そういった方に共通するのは、企業側からのフォローが少ないことです。
 もちろん、無理やり病院に連れて行くことはできません。しかし少なくとも、受診したかどうか、大腸内視鏡検査を受けたかどうか、その結果どうなったの報告をさせることは必要で、もし受診していなければメールで強く受診を促すことが重要であると考えます。産業医・保健師がいれば強く受診勧奨することもお勧めします。

 以上のことは健康診断について普遍的に言えることです。働き盛りの人が病気で十分な力を発揮できなくなることは本人にも悲劇ですし、企業としても大きな損失です。健康診断は受けることよりもそのあとどうするかが大事であり、それを会社の健康施策として行う場合、決してやりっぱなしにしないことが重要であると考えます。

 

プロフィール

合同会社DB-SeeD(https://industrial.doctor.tokyo.jp/)代表社員
労働衛生コンサルタント、日本医師会認定産業医、建築物環境衛生管理技術者
神田橋宏治

1999年東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院助教などを経て、2011年4月から医療法人社団仁泉会としま昭和病院内科医として勤務。2015年に産業医事業を中心業務とする合同会社DB-SeeDを設立。2018年11月~現在 日本産業衛生学会代議員

 

 

 

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