【経営人事改革の視点】情動に支配される人間集団
<株式会社ビジネスリンク 代表取締役 西川幸孝>
情動に支配される集団と個人の関係
人間集団にはさまざまな形態があります。
中でも企業は現代の「生存のための集団」であり、そこでは人間が生得的に持つ情動がより原初的な形で働く可能性があります。理性で納得できる経営計画を作れば、そこに書いてあるような道筋で社員が動くとは限りません。むしろ、そうでないことのほうが一般的で、理性への働きかけだけで社員は動かないのです。なお、ここでいう情動とは、身体的な反応を伴うような感情の動きと捉えることができます。
新たな行動が引き起こされたり、習慣となった行動が別のものに変わったりするための原動力は情動です。そのため、行動を変えるためには理性に働きかけるだけでは足りず、情動への働きかけが必要になるのです。
注意すべきことは、個人単独の判断や行動と、個人が集団に所属した場合の判断や行動は、まったく違う可能性があるということです。社員個人が共感できる会社の方針やそれに沿った職務行動であっても、集団に所属する一員としては、そうした行動を起こしにくいと感じることがあります。
物事をいっそう複雑にしているのが、会社は一種類の集団で成り立っているわけではないという現実です。つまり、全体としての会社組織のほかに、いろいろなグループつまり内集団(ないしゅうだん)が存在し、それも多数存在することがめずらしくありません。正規雇用と非正規雇用のグループ、職種(技術者、専門職など)によるグループ、労働組合員のグループ、出身大学のグループ(学閥)、同郷グループなどで、それぞれにアイデンティティが存在します。
人材マネジメントにおいては、「個人としての社員」と「集団(複数の集団の場合もある)に所属する社員」の両方に向き合わなければならないのです。
社員の側も、会社という人間集団に所属した時点で、社員個人としての合理的判断と、自身が所属する集団の空気感が違うことで、やりにくいと感じられることが頻繁におきます。
トヨタグループなどで起きた品質不正問題のようなケースでは、合理的に考えれば、法制度という社会規範遵守の必要性を感じる一方で、不正を隠蔽しようとする情動が内集団において優勢を占めたため、個人としてそれに抗うことが難しかったのだろうと推察されます。
企業経営は、こうした複雑な状況の中でマネジメントを行う本質的な難しさがあります。
集団と個人の両方を見るマネジメント
プロフィール
西川幸孝
株式会社ビジネスリンク 代表取締役
経営人事コンサルタント 中小企業診断士 特定社会保険労務士
愛知県生まれ。早稲田大学卒業後、商工会議所にて経営指導員、第3セクターの設立運営など担当。2000年経営コンサルタントとして独立。2005年株式会社ビジネスリンク設立、代表取締役。2009年~2018年中京大学大学院ビジネス・イノベーション研究科客員教授。「人」の観点から経営を見直し、「経営」視点から人事を考える経営人事コンサルティングに取り組んでいる。上場企業等の社外取締役も務める。日本行動分析学会会員