【専門家の知恵】2024年4月から追加される「無期転換」に関する労働条件の明示事項。会社に求められる対応と注意点

公開日:2023年9月22日

<ひろたの杜 労務オフィス 山口善広/PSR会員>

無期転換とは、契約期間に定めのある有期雇用労働者が、所定の要件を満たすと有期雇用契約から無期雇用契約に転換の申込ができる制度で、その申込がなされると会社側はそれを拒否することができません。

しかし労働者が無期転換の申込をする前に会社側が雇止めをすることで労使間のトラブルが発生しています。

そこで法改正が行われ、来年の4月より有期雇用契約や無期転換に関する労働条件の明示事項が追加されることになりました。この法改正でどのようなことが変更になるのか確認していきましょう。

 

有期雇用契約から無期雇用契約への転換とはどういうルール?

いわゆる無期転換ルールと呼ばれるものですが、同じ企業で有期雇用契約が通算5年を超えて更新されたタイミングで労働者の方から会社へ申込をすると、次の労働契約のスタート時点より無期雇用契約へ転換される制度です。

たとえば、毎年4月から翌年3月末までの有期雇用契約を結んでいる労働者が、令和5年4月からの労働契約で通算5年を超えることになったときに、無期転換の申込をすると令和6年4月から無期雇用労働者になるというわけです。

労働者が無期転換の申込をすると、会社側はこの申込を承諾したものとみなされ、有期雇用契約が満了する日の翌日から無期雇用労働者になるという契約が既に成立していることになるので、会社側は無期転換の申込を拒否することはできません。

とはいうものの、無期転換の申込をした時点では、有期雇用契約の期間中ですので、会社側が次の契約を更新しない、つまり契約期間満了による雇止めをする権利は残っています。

しかし、これまでの有期雇用契約の更新が形式的なものにすぎず、雇止めをすることが無期雇用契約の解雇と同じであると認められる場合であったり、有期雇用契約の更新について、労働者に期待を持たせる言動などがあったのに雇止めをした場合、それらの

雇止めについて客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当であると認められない場合は、雇止めは認められません。

つまり、世間一般的に納得できる理由で雇止めをしたのかどうかがポイントになります。

雇止めが無効であるかどうかは、最終的には裁判所で判断されることになりますが、安易な雇止めは労使間のトラブルの元となりますので、慎重に判断することが求められます。

しかし、有期雇用契約を今よりも詳細に定めておくことは、労働者の誤解を防ぐことができ、将来の労使トラブルの防止にもつながります。

そのために、労働条件の明示の段階で有期雇用契約の内容や無期転換についての案内をしておくというのが、今回の法改正の目的となります。

では、労働条件を具体的にどのように明示をすれば良いのでしょうか。

追加される労働条件の明示事項とは

労働条件の明示は、労働基準法で労働契約の締結時に会社側から労働者へ明示することが定められています。

具体的には、労働契約が成立したタイミングであったり、労働契約の更新が決定した時に労働者へ明示します。

どのような内容を明示するのかというと、「労働契約の期間」、「就業の場所や従事する業務の内容」、「始業時間や就業時間などの労働時間に関する事項」、「賃金の決定や計算、支払の方法」、「退職に関する事項」については必ず明示しなければなりません。

昇給や退職手当、賞与などの事項については、それらの定めがある場合は明示することになります。

今回の法改正で追加になった労働条件の明示事項は、

・就業の場所や業務の範囲の変更の範囲
・有期雇用契約の更新にかかる上限の有無と内容
・無期転換の申込機会の明示
・無期転換後の労働条件の明示

となっています。

就業の場所や業務の範囲の変更の範囲とは、たとえば、別の店舗への配属替えや、仕事内容の変更など配置転換に関する事項を明示することになります。

また、有期雇用契約を更新回数は4回までとする、というような更新回数の上限があるのかについての明示もしなければなりません。

もし、最初の有期雇用契約より後に、更新回数を新たに設置したり短縮するような場合はその理由を該当する有期雇用契約労働者に説明をすることが求められます。

さらに、有期雇用契約労働者に無期転換の申込をする権利が発生した場合、そのタイミングごとに労働者に対して無期転換を申し込めるよ、と明示しなければなりません。

なので、会社側は、有期雇用契約労働者が通算何年働いているのかをきちんと把握する必要があります。

無期転換後の労働条件については、原則としては有期雇用契約時と同様ですが、もし就業規則などで無期雇用契約労働者に関する労働条件を定めている場合は、無期転換後の労働条件についても明示しなければなりませんので注意が必要です。

いかがでしょうか。

これまで以上に有期雇用契約労働者についての労務管理が重要視されることになります。

ただ、これらは労働契約の内容をより具体的に掘り下げて労使が納得できるものとすることで、労使のトラブルを防止することが目的ですので会社を護るための対策として準備を進められることをお勧めします。
もし労務管理にご不安がある場合は、お近くの社会保険労務士にご相談されてみてはいかがでしょうか。

 

プロフィール

社会保険労務士 山口善広

ひろたの杜 労務オフィス 代表(https://yoshismile.com/

営業や購買、総務などの業務を会社員として経験したのち、社会保険労務士の資格を取る。いくつかの社会保険労務士事務所に勤務したのち独立開業する。現在は、労働者や事業主からの労働相談を受けつつ、社労士試験の受験生の支援をしている。

 

 

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