【専門家の知恵】同じやるなら他社がとりかかる前に~女性活躍推進法改正が間近に

公開日:2019年4月12日

同じやるなら他社がとりかかる前に~女性活躍推進法改正が間近に

<メンタルサポートろうむ 李 怜香/PSR会員>

 

 「女性活躍推進法」という法律があるのをご存知だろうか。2016年4月より、301人以上の労働者を雇用する事業主は、女性の活躍状況の把握、課題分析を行った上で、一般事業主行動計画の策定と届出・外部への公表が義務付けられた。知っている人にすれば、何を今さら、という話だが、300名以下の多くの事業所では、法律の存在さえ知られていないのが実情である。この度、一般事業主行動計画の届出・公表が義務付けられる範囲が、301人以上から101人以上に拡大され、2019年中にも改正法案が国会に提出される。

 

◆女性のためだけではない、女性活躍推進

 女性活躍推進と聞くと、単に女性の管理職を増やすこと、と考える人は多い。子育て支援を手厚くすること、というイメージもあるかも知れない。しかしそれらはどれも、女性活躍推進のために取り組むべき施策の一部なのだ。

 たとえば、女性活躍推進のための取り組みには、以下のような項目が入ってくる。

・長時間残業の削減(業務の優先順位付けや、業務分担の見直し等など)
・属人的な業務体制の見直し(複数担当制、多能工化等によるカバー体制の構築など)
・有給休暇取得を推進する取り組み(計画取得、管理職による率先取得 等)
・男性の育児休業や看護休暇取得などの両立支援策利用を推進する取り組み
・育児・介護目的に限らず、フレックスタイムや在宅勤務制度等の柔軟な働き方を増やす取り組み

こうして見ていくと、男女関わらず取り組むものも多く、中にはむしろ、男性に焦点を当てて取り組む施策もある。

 よく言われる女性の管理職登用についても、単に女性を昇格させるのが目的ではなく、男女関わらず優秀な人材を登用するために行うものであって、女性管理職が増えるのは、その結果に過ぎないのだ。

 女性の管理職登用に関連した取り組みとしては、具体的に以下のような取り組みが考えられる。

・社員一人一人のキャリアプランを本人と上司で作成し、中長期的な視点での育成を行う。
・仕事の効率や成果に応じた、公正な評価・処遇体型を整備し、評価制度・賃金制度を改定
・コース別雇用管理の見直し(一般職から総合職への転換の推進等)

 ここまで具体的な内容を見ればお分かりかと思うが、女性活躍推進とは、言わば、女性を切り口にした働き方改革だと言える。

 働き方改革とは、一億総活躍社会を実現するための改革であり、今まで社内で活躍の機会があまりなかった、時間的な制約のある従業員(子育て中の女性、高齢者、介護している人、持病のある人)などの力を活かしていこうという側面がある。この中でも女性は最大勢力だ。

 人手不足に苦しみ、働き方改革で、何とか乗り切っていきたいと考えているのであれば、女性活躍推進から取り組むのが、合理的だと言える。

 

◆少しでも早く取り組みむことで、採用に好影響がある

 労働者301人以上の事業所は、一般事業主行動計画の届出義務化以降、すでに99%以上がその義務を果たしている。一方で300人以下の事業所では、前述のように、まだまだ法律自体も知られておらず、取り組んでいる会社はわずかという状況である。

 しかしごく近い将来、101人以上の事業所においても女性活躍推進の取り組みが法律で義務化されるのは、ほぼ確定している。

 法律で決まったら取り組もうというのも、ひとつの考えだろう。とは言え、いち早く女性活躍推進に取り組みんでいる事業所では、
「今まで募集をかけてもほとんど反応がなかったのが、応募者が来るようになった」
「一人の募集に対して数十人の応募が来るようになり、選べるようになった」
という成果がすでにあがっている。

 特に近年では、若年層において、女性に限らず男性も、給料よりも自由な時間を重視する傾向がある。毎日遅くまで残業を強いられ、有給も取れないような事業所は、求職者からまず選ばれない。

「女性活躍に取り組んでいます」という点を、自社サイトなどで大きくアピールし、その取り組みも全社を巻き込んで行う。これが、人手不足解消への近道なのだ。

 法律で決まっていて、やるのが当たり前になっていることを、いくらアピールしても、それはアピールにはならない。労働者101人以上の事業所、または100人以下の事業所にとっても、法律改正までに少しでも早く取り組みむことが、他社から頭ひとつ抜ける大きなチャンスなのである。

 そうは言っても一体何をしたらよいか分からないという方は、全国で一般事業主行動計画の策定に向けたセミナーが行われているので、参加してみるのもよいだろう。専門家が会社を訪問し、相談に乗ってくれる事業もある。もちろんすべて無料だ。このような国の支援策を利用しない手はない。

 大企業と違って、中小企業では、社長が腹を決めて、陣頭指揮をとり、従業員の意見を真摯に聞けば、必ず短期間で会社は変わっていく。女性活躍推進を、その起爆剤として使ってみてはいかがだろうか。

 

 

プロフィール

社会保険労務士、産業カウンセラー、セクハラ・パワハラ防止コンサルタント 李 怜香
メンタルサポートろうむ(http://yhlee.org)代表
岐阜県生まれ。早稲田大学卒業。職場のコミュニケーション、メンタルヘルス、ハラスメント防止について、ご相談、研修を承ります。15年以上の経験で、法律と心理、双方から中小企業をサポートしています。

 

 

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