【専門家コラム】職場における障害者の合理的配慮

公開日:2025年7月9日

 

職場における障害者の合理的配慮


<合同会社DB-SeeD 代表社員 神田橋宏治>

 

2024年から、障害のある利用者への合理的配慮が事業者(行政や飲食店など)に義務づけられたことをきっかけに、「合理的配慮」という言葉が一般の方々にも知られるようになりました。

一方、事業主が雇用者(従業員)に対して合理的配慮を提供することは、2016年から既に義務化されています。

本稿では職場における合理的配慮について概観を理解したうえで、「障害者の差別禁止に係る自主点検」(後述)の自己チェックリストにすべてYESと答えられるようになることを目標とします。

そもそも、雇用分野における合理的配慮がなぜ必要なのか?

それはILO(国際労働機関)の、仕事こそ個人の自己充足や社会的統合の基本にあり、適正な質の仕事は貧困、社会的排除といった悪循環から抜け出す最も効果的な手段である、という理念が基礎にあります。

国際的にみると労働者の約1割はなんらかの障害を抱えています。そしてそういった人々は就業の機会は限られ、就業できても昇進が難しい環境にあります。障害を有する人々はしばしばこの悪循環に陥ってしまうため、そこから抜け出すのを支援する積極的な措置が必要、というのがILOの信念です。

それを具体化したのが障害者権利条約で、日本は2014年に批准しています。

これを本邦の法令に落と込んだのが改正障害者雇用促進法です。事業主には障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するために、「過重な負担とならない限り」措置を講ずることを義務付けられています。

この、「過重な負担とならない限り」という限定が「合理的」配慮と呼ばれる所以です。

例えば、弱視の職員に対しては大きな文字の資料を使うこと、足が悪い従業員には階段でなくエレベーターの使用を許可することなどが代表的な措置です。

一方、中小企業で腰痛がひどくて階段が登れないのでビルにエレベーターをつけてくれというのは明らかに会社に加重な負担です。

会社に負担が大きい場合、拒否をしてもかまわないのですが、きちんと従業員と話し合ってどのような代替措置を取るかを決めなければなりません。

エレベーターを付けるのは難しくても、1階でできる仕事へ配転することは可能でしょう。このように落としどころを見つける作業をすることが求められます。

ここでいう障害者の範囲とは「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」と定義されています。

つまり障害者手帳の有無、パートやバイトなどの雇用形態などにはよりません。また、採用の際に労働能力の評価でなく障害であることを理由に不採用にするのも差別にあたり禁止です。

採用後に障害がわかったり、生じたりした場合も、本人が障害を会社に打ち明け配慮を求めた場合、会社はそれに真摯に対応する必要があります。

なお外から見て障害があることが明らかな場合は、むしろ会社の方から積極的に配慮を申し出るのが望ましいでしょう。

 

「過重な負担かどうか」の目安とは?

この「過重な負担かどうか」というのは会社の事業の内容や、会社の規模によって当然変わってきます。

一般的に言えば会社が大きければ大きいほど、提案できる配慮の幅は広くなります。いずれにせよ重要なのは話し合いのプロセスです。本人からの希望、会社ができることをしっかりとコミュニケートしながらすり合わせていって、従業員が最大の労働能力を発揮できるようにするにはどうしたらいいかを、人事や労務部門は考える必要があります。

必要なら本人の同意を得たうえで主治医に手紙を書いて本当に障害があるかどうかを確かめる局面も出てくるかもしれません。

特に難しいのは発達障害や精神疾患、事故後の高次脳機能障害などに対する配慮です。この分野は格別に個別性が高いため、産業医など医療の専門家と人事・労務部門の連携が非常に重要になります。

例えば、人の声がうるさく聞こえる方にはイヤーマフの使用を認める、満員電車でパニック発作が出る方には時差出勤や在宅勤務を認めることなどの措置が考えられます。

産業医は、医者の言葉を非医療者にかみ砕いて説明することは得意ですし、また、会社の業務についても主治医よりはよく知っていますので、「まっとうな」産業医は主治医に手紙を書くなどして手助けになってくれるはずです。

合理的配慮の運用には判断の難しい点が多々あります。厚生労働省のサイト「雇用の分野における障害者への差別禁止・合理的配慮の提供義務」にはQ&Aや事例集も掲載されており、特に後者は今後も更新が続く予定になっておりますので是非参考にしてください。

 

また稀に紛争化する例もあります。本人との間に齟齬があると感じた場合は、会社で抱え込まず、法律の専門家である社労士や弁護士の先生へ早めに相談するのが望ましいと考えます。

さて、ここで上述したサイトの中にある「障害者の差別禁止に係る自主点検」を見てみましょう。

 

すべてに「はい」と答えられるようになるのが第一歩です。あなたの会社はいかがでしたか?該当しない項目があった場合は、改めて社内で検討し改善していきましょう。

 

プロフィール

神田橋宏治
合同会社DB-SeeD(https://db-seed.com/)代表社員
労働衛生コンサルタント、日本医師会認定産業医、建築物環境衛生管理技術者
1999年東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院助教などを経て、2011年4月から医療法人社団仁泉会としま昭和病院内科医として勤務。2015年に産業医事業を中心業務とする合同会社DB-SeeDを設立。2018年11月~現在 日本産業衛生学会代議員
2024年11月、介護個別周知&情報提供用冊子『働くあなたを守る 仕事と介護 両立サポートBOOK』(発行:㈱ブレインコンサルティングオフィス)執筆


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