【はじめての人事労務】仕事と育児・介護の両立支援制度の基礎

公開日:2025年6月6日

はじめての人事労務 ~初任者のための実務講座~

仕事と育児・介護の両立支援制度の基礎

 


<米澤社労士事務所 代表 米澤裕美/PSR会員

 

社員がライフステージの変化とともに直面することがある「育児」や「介護」。

企業には、社員が仕事と家庭を両立しながら安心して働き続けられる環境を整えることが求められています。

近年は少子高齢化が進み、育児休業や介護休業をはじめとする支援制度の充実度が、企業の人材確保や社員の定着率にも影響するようになってきました。

今回は、育児・介護を取り巻く主な制度と、ポイントをお話しします。

 

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出産・育児・介護の制度

産前産後休業(産休)と出産手当金

「産前産後休業(通称:産休)」は、出産を控えた女性社員が利用できます。

- 産前休業:出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から取得可能
- 産後休業:出産の翌日から8週間は、本人が希望しても就業させてはならない(医師が認める場合、産後6週間以降に就業可)

また、社会保険に加入している方は、産休中の経済的支援として、「健康保険」から「出産手当金」が支給されます。

- 支給対象:健康保険の被保険者である女性社員
- 支給額:おおむね休業前の賃金の3分の2相当額が支給される※
 ※休業日数×標準報酬日額×2/3

出産に伴う休業は育児休業の前後にも関わってくるため、取得を予定している社員へ分かりやすく説明しましょう。

育児休業

育児休業は、子どもが1歳(最長2歳)になるまでの間、仕事を休んで育児に専念できる制度です。

「育児・介護休業法」によって定められており、一定の要件を満たす社員であれば、男女を問わず取得する権利があります。

- 取得可能期間:原則として子どもが1歳になるまで。ただし保育所に入所できないなどの事情がある場合、最長2歳まで延長可能
- パパ・ママ育休プラス:両親が育児休業を取得することで、それぞれの休業期間を延長できる仕組み
- 産後パパ育休(出生後8週間以内の休業):子の出生後8週間以内に4週間まで父親が休業できる。2回に分割して取得することも可能

社員が育児休業を取得する際には、事前の申し出や会社への届出が必要です。会社としては、法律で定める要件を満たした社員からの申出を不当に拒否することはできません。

産前産後休業期間、育児休業期間の社会保険料の免除

産前産後休業期間、育児休業期間中※は社会保険料(健康保険・厚生年金保険料)が被保険者・会社の両方の負担が免除されます。

- 社会保険料の免除を受けても、健康保険の給付は通常通り受けられます。
- 将来、年金額を計算する際は、保険料を納めた期間として扱われます。

※満3歳未満の子の育児休業に準ずる休業期間も含みます。

介護休業

介護休業は、要介護状態にある家族の介護を行うために、一定期間仕事を休める制度です。育児休業と同様に、「育児・介護休業法」で定められています。

- 対象家族:配偶者 (事実婚を含む) 、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫です。子は、法律上の親子関係がある子(養子含む)のみです。
- 取得可能期間:対象家族1人につき通算93日まで。複数回に分割して取得することもできます。

社員が介護休業を取得する際には、事前に会社へ申し出る必要があり、会社としては働き方の調整や制度の活用など、柔軟に対応できる体制を整えることが大切です。

 

短時間勤務や時間外労働の制限

短時間勤務制度(育児・介護共通)

「育児や介護のためにフルタイム勤務が難しい」という社員のために、短時間勤務制度を運用する方法もあります。法律上も、子育て中の労働者については短時間勤務制度を導入する義務があり(年齢要件あり)、介護を行う社員向けにも短時間勤務制度を整備することが求められます。

- 1日の労働時間を短縮できる(例:1日6時間勤務 など)
- フレックスタイム制や時差出勤などと組み合わせる企業も多い

時間外労働・深夜労働の制限

育児や介護を行う社員が申し出た場合、会社は原則として時間外労働(残業)や深夜労働をさせないよう配慮しなければなりません(一定の要件を満たす場合)。

多くの企業では「業務調整」や「人員配置の見直し」を行うことで、こうした時間外労働の制限に対応しています。繁忙期などのやりくりは大変ですが、社員の家庭状況に寄り添った制度がある企業ほど、長期的な人材確保につながりやすいでしょう。

 

育児休業給付金・介護休業給付金

育児休業給付金

雇用保険に加入している社員が育児休業を取得すると、一定の条件を満たすことで「育児休業給付金」を受け取れます。

- 支給期間:育児休業開始から最長1年(保育園に入園できないなどのときは最長2歳まで延長可能)
- 支給額の目安:休業開始後約半年間は、休業前の賃金の67%程度(一定条件あり)。それ以降は50%程度※

※育休開始から6か月まで:支給額=休業開始時賃金日額×支給日数×0.67
 育休開始から6か月以降:支給額=休業開始時賃金日額×支給日数×0.5

介護休業給付金

同じく雇用保険の被保険者であれば、介護休業を取得すると、一定の条件を満たすことで「介護休業給付金」を受け取れます。

- 支給期間:支給対象となる同じ家族について93日を限度に3回までに限り支給されます
- 支給額の目安:休業前の賃金の67%程度※
 ※休業開始時賃金日額×支給日数×0.67

いずれの給付金も申請手続きが必要です。社員に対して手続きの流れをわかりやすく案内することが求められますのでこの制度の知識を得ておくことも必要です。

 

制度を活用しやすい職場づくりのポイント

就業規則や社内規程への明記

育児休業や介護休業、短時間勤務制度などを導入する場合、就業規則や社内規程に明記しておくことが重要です。

- 「どのような条件で休業を取得できるのか」
- 「手続きの流れ」
- 「復職時の扱い」 など

このような情報をしっかり示すことで、社員は自分が使える制度を把握しやすくなり、不安を減らすことができます。

休業前後のスムーズな引き継ぎ・フォロー

育児や介護で長期間休業に入る場合、業務の引き継ぎがスムーズに進むよう会社やチームが協力する必要があります。

- 休業に入る前のタスク整理、マニュアル化
- 復職後のリハビリ期間確保(時短や再トレーニングなど)

休業者がでると、人数が少ない会社ではフォローするのが大変だとは思いますが、周囲の社員や上司も協力し合いカバーし合う風土醸成ができればと思います。

管理職や人事・労務担当者の理解とサポート

育児や介護と仕事の両立のためには、制度を整えるだけでなく、職場全体の理解と協力が不可欠です。
とくに、管理職や人事・労務担当者の関わり方が、社員の利用のしやすさに大きく影響します。

たとえば、管理職が「早く帰られると困る」「休まれるとチームが回らない」といった雰囲気を出してしまうと、社員は制度を利用しづらくなります。

そのため、以下のような取り組みをしてみましょう。

◎管理職向けの研修やマニュアルの整備
両立支援制度の意義や運用方法を理解してもらい、制度の適切な活用を促す。

◎人事・労務担当者によるサポート
社員や上司からの相談に対応し、制度利用に関する不安や疑問を解消できる体制を整える。

◎トップダウンでの明確なメッセージ発信
経営層が「仕事と育児・介護の両立を会社として応援する」という姿勢を示すことで、制度利用への後押しとなります。

実際には、現場でのやりくりは大変なことも多いですが、「どうすれば乗り越えられるか?」といった前向きな工夫と対話が大切です。

両立支援は、社員の働き続けやすさを高めるだけでなく、企業全体の人材定着・生産性向上にもつながる取り組みといえるでしょう。

 

もう一歩進んで学びたい方へ

 

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執筆者

米澤裕美 特定社会保険労務士 
https://www.office-roumu1.com

ネットワーク機器のトップメーカーにて、19年間インサイドセールスや業務改善チームの統括リーダーとして勤務。
途中2度の育児休業を取得。社内の人間関係の調整機会も多く、コミュニケーションや感情の重要性を日々実感してきた。
業務効率化の取り組みとして、社内ポータルサイトの立ち上げにも注力。
本社営業部門3S運動(親切・すばやい・正確)で1位に選出。
退職後、社労士法人勤務を経て、独立開業。現在は、複数企業の人事労務相談顧問、執筆などを行っている。

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